いのちのせんたく 第126話


焚火には割った竹が網状に並べられ、その上には貝が所狭しと並べられていた。
熱が加わり口が開くと閉じ込められていた海のスープが零れ落ち、じゅうじゅうと音を立てる。そこに魚醤を垂らすと、途端に香ばしい匂いが辺りに漂った。
魚は別の焚火で塩を振って焼き、タコやウニなどもどんどん焼かれた。カレンは大きなアワビにテンションをあげ、牡蠣を生で食べようとした朝比奈は仙波に叱られていた。獲れたてとはいえ、生で食べてはいけない。菌も怖いが寄生虫も怖いのだ。何かあっても手を打てない環境なのだから、その何かが起きないよう注意しなければならない。
獲れたて、焼きたての海産物に皆が舌鼓を打ち、和気あいあいとした楽しげな会話が聞こえてくる。

「新鮮な海産物は、焼いただけで美味い。こんな場所ではなく露天風呂に入って一杯飲みながら食べたいところだ」

焼きたてのアワビを千葉が切り分け、それをつまんだC.C.がそんな事を言うものだから、大人たちはその光景を思い描き、ああ、そんな風にくつろいで晩酌をしたい、日本酒は無理でもアルコールを口にしながら食べたいという欲が表情に現れた。それを見てC.C.はくつりと笑う。

「ほら、皆が酒を飲みたがっているぞ?」
「残念だがまだ発酵が足りないし、何より昼間から酒を飲むつもりか」
「いいじゃないか。たまにはそんな日があってもな」
「駄目だ」
「頭が固いなお前」

つまらないぞ。と、不貞腐れたように言いはするが、却下される事を知った上で言っているため、それ以上その事には触れず、さっさと次の食べ物に箸を伸ばした。
食べきれないほどの海産物は、既に食べる分と保存する分に分けられ、保存分は干されていた。まるで洗濯物のようにロープにぶら下がり揺れている魚介類の中にはイカも混ざっており、あれは明日の夜にあぶって食べるべきだな。イカの一夜干しは美味いからな。酒はその時まで我慢しようかと考えた。
まだまだ食べ足りない者たちは焚火の傍に集まり焼き続け、それ以外の者たちは竹を組んで茣蓙を被せた日陰に入り一息ついていた。
涼しい海風が心地いい。
お腹もいっぱいで心地いい環境にひと眠りしたくなるほどだ。

「藤堂、もう食べないのか?」
「いや、もう十分食べた」

ここに来てからこれほどの量を食べたのは初めてで、ある程度で押さえておかなければ反対に体調を崩しかねない。いまだ食欲旺盛なのはカレン、スザク、朝比奈とC.C.の4人ぐらいだ。千葉とセシルは皆の世話を焼いていて殆ど食べていなかったので、今から食べ始めるらしい。 キャンプやバーベキューとは縁遠いクロヴィスは、3人の生活でも見られなかった光景だと芸術家魂を刺激され、少し離れた所から彼らを観察していた。

「ほんと、別世界よねここ」

砂浜に寝転がりながらラクシャータが言った。
食べ物をお腹いっぱい食べ、楽しく話し、笑う。そんな当たり前のことが当たり前にできているのだ。無人島から出られない、文明から切り離されているという状況に変化はないのに、環境はがらりと変わった。
あちらの拠点でコーネリアとヴィレッタにイライラしながら過ごしていたのが遠い昔の事のようだ。毎日毎日何か食材はないか、帰るための方法は手に入らないかと、未開の土地を不安な気持ちで歩き回り、敵と寝食を共にした。今頃彼女たちは苦労している事だろう。まあ、食材のえり好みしなければ飢え死にはしないだろうが。

「最初からこうなら苦労も無かったが・・・」

藤堂があちらに残してきた扇達を思い出し、眉間にしわを寄せ呻いたので、「それは違う」とルルーシュが否定した。

「最初からこのメンバーがここに集まっていたら、間違いなく険悪になっている。そして川の上流と下流に分かれ、それぞれで生還するための道を探っていた」

このメンバーでこれだけの人数だ。険悪な状態で共に行動する利点はない。黒の騎士団は藤堂を中心として行動すれば問題なく生き抜けるし、ブリタニアはセシルが加わるだけなので今まで同様ルルーシュが中心になれば何も問題はない。
敵同士だが今は争うべきではないと藤堂は判断するし、ルルーシュは自分の部下と争うつもりはない。・・・いや、問題は一つ。C.C.だ。黒の騎士団側よりルルーシュのいるブリタニア側に居座る可能性がないとはいえない。だが、そのぐらいだ。

「今全員で行動できるのは、残してきた者たちと険悪だったからに過ぎない。それよりもましなこの環境を壊したくないだけだ」
「それは一理ありますな。ですが足手まといが少ないというのも大きい」

仙波の言葉にラクシャータは眉を寄せた。

「その少ない足手まといをC.C.だと言いたいようだけど、彼女は足手まといのように見せているだけ。裏で無茶ばかりするから注意しな」
「無茶ばかりというと?」

女性陣がC.C.を庇う理由をしっかり聞いていなかった気がすると藤堂は尋ねた。

「彼女、自分の体を大事にしようという意識が恐ろしいほどに低いわ。だから隠れて無茶な事を平気でやるの。確かに体は丈夫みたいだけど、それを過信しすぎている。どれほど痛くても苦しくても彼女は表情に出さないから分かりにくしい・・・ああ、この辺ルルーシュとそっくりね」
「俺と?」
「痛みも疲れも無い無痛症を好都合だと無理ばかりしてたでしょ?幸いクロヴィスとスザクが一緒だったから無茶をする貴方を止めてたけど、一人だったら動けなくなって死んでたでしょうね」

違う?と聞かれ、ルルーシュは言葉に詰まった。実際に一人だった場合はどうだったのだろう?食べ物はどうにかなっただろうが、足をくじき、怪我をし、でもそれに気づかず悪化させ動けなくなっていた可能性は否定しきれない。

「彼女に関しては一人で動き回らないよう注意するとして。ルルーシュ君、実は先ほどあの岩礁付近で奇妙な物を見つけたんだが」

藤堂が指示した場所は、先ほど藤堂達が素潜りをしていた辺りだった。

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同じ話何回何回ももしてる気がするけど気にしないでください。
そういえばここは海鳥はいないのかな。

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