いのちのせんたく 第130話


黒の騎士団の藤堂がこの島の何処かにいる。
いや、いるのは藤堂だけではない。
このユーフェミアは他にもコミュニティがあるとはっきり言った。
飛ばされてきたというのは、この島での実験の為集められた者を指すのだろう。
当然か、研究スタッフが居る場所をコミュニティとは言わない。
となれば、残るはモルモットだけだ。
問題はそれがいくつありその中でも大事なことは、黒の騎士団を含む敵対勢力の数。そしてこちらが合流できる味方のコミュニティが存在しているのか。
今までとは違い、敵に男が加わった以上いつ襲われるかわからないのだから、できるだけ早く後手に回ったこの状況を打開する必要がある。そのために必要なのは何より情報。そう思っているのに、このユーフェミアは情報を話そうとはしない。
あくまでも自力でどうにかしろということなのか。

「質問を変えよう。複数あるそのコミュニティだが、黒の騎士団の拠点は一つだけと考えていいのか?」
「あ・・・えっと、それは、その」
「なぜ答えられない。それとも複数あるのか?敵がどれだけいるかわからない以上、我々は夜もまともに寝られない状況だとわかっているのか!お前の考えの甘さが、我々の尊厳と命をうばう結果になりかねんのだぞ!」

馬鹿にしているのかと思うほど下手くそな芝居で、知らぬ存ぜぬを通そうとする姿に苛立ち、叱責するように怒鳴りつけると、ユーフェミアはビクリと体を震わせ、両目を見開きこちらを見た。恐怖と驚きと、泣きそうな瞳を向けられ心を揺さぶられる。だが、ここで引く訳にはいかない。引けないのだが、そんな顔で見られてしまえば、偽者だとわかっていても・・・!
二人のやり取りを大人しく聞いて居たヴィレッタだったが、コーネリアの動揺に気づき、これは名誉挽回のチャンスだとばかりに口を挟んだ。

「よろしいでしょうか、コーネリア様」

ヴィレッタの言葉にコーネリアはハッとなった。
そうだ、ここには部下もいたのだ。
部下の前で取り乱すとは何たる失態。
だが、話しかけられたことで少し冷静さを取り戻せた。

「なんだヴィレッタ」
「ユーフェミア様は、今がどれほど危険な状況なのか理解されていないように思われます。敵に男がいる。それも恐らく複数。その意味を理解して頂くほうがよろしいかと・・・その、ユーフェミア様は皇室でお育ちになられたことで、男の恐ろしさを知らないのではないかと・・・」

機嫌の悪いコーネリアに睨まれているせいか、語尾がどんどん小さくなって言ってしまう。ここで毅然とした態度で進められなければ、皇女の信頼を得てその側近になることなど夢のまた夢だと言うのに。
だが、コーネリアはヴィレッタの様子など気にもせず・・・いや、正確には気にする余裕はなく、言われた言葉だけを頭の中で繰り返した。
たしかに、ユーフェミアには汚いことは見せず、教えずに来た。
あの子は自らそのような情報を見るような事はしない。
だからこのユーフェミアはそういう設定なのだ。

「なるほど、手順を踏まなければ進めないわけか。面倒な」

おそらくは、”何も知らないユーフェミア”を演じるこの娘は、彼らの用意した手順を踏まな居限り情報を出さないのだ。そして今必要な手順が、自分たちがいかに危険な状況か教えることだろう。

「・・・は?」

コーネリアの言葉の意図がわからず、思わず口をついたヴィレッタに、コーネリアは余計な事を呟いていた事に気づいた。

「いや、こちらのことだ」

ヴィレッタもユーフェミアもコーネリアの発言の意図が理解できず、1人納得したように頷くコーネリアを見て目をパチクリとさせていた。
目の前にいるのは、”死んだはずの妹ユーフェミア本人”なのだ。
それを前提とし、ユーフェミアが理解できるよう説明して初めて次に進む。
そういうゲームなのだ。
そう自分に何度も言い聞かせる。
ユーフェミアを語るこの娘は腹立たしい。
あの子を穢したものたちが憎い。
だが、今はダメだ。
愛憎が渦巻き、湯水のごとく湧き上がる怒りをどうにかコントロールしなければ。
この愚か者たちは、すべて終わった後厳重な処罰をするが、今は妹なのだと考え、出来る限り冷静に、根気強く説明するのだ。
このユーフェミアがイレブンの男を恐れるような説明を。
全く、面倒な手順を踏ませてくれるとコーネリアは心の中で舌打ちし、しばらく思案した後、努めて冷静に話し聞かせた。

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