いのちのせんたく 第131話


「お姉さまは間違っています」

コーネリアとヴィレッタが語ったのはイレブンの醜い姿だった。
特に女性に対する犯罪はどれも吐気がするほど悲惨なもので、イレブンの男がどれほど野蛮で危険な存在か、いかに下等な民族なのかをユーフェミアが理解するまで根気強く二人は説明をした。ユーフェミアは二人が語る話を顔を青くしたり白くしたり、時には怒りで頬を染めながら聞いていたが、すべてを聞き、すべてを理解した上で出した結論はコーネリアの考えが間違っているという予想外のものだった。
これだけ説明してもわからないのか?いや、これでは情報が足りないというのか?と、コーネリアはムッとした表情でユーフェミアを睨みつけ、ヴィレッタは複雑な表情でそんな二人を見ていた。

「たしかに今のお話はどれも悲惨なものでした。どれも辛く、苦しく、残酷で、憎むべき犯罪です。ですが、それは日本人だからではありません。ブリタニア人にも犯罪者がいるように、日本人にも犯罪者がいたという話です。それと同じく、ブリタニア人に正しい人がいるように、日本人にも正しい人はいるのです」

それはそうだろうとヴィレッタは思った。
コーネリアとヴィレッタが話た男の恐ろしさ、醜さ、そしてそれに関わる犯罪は、何もイレブン特有のものではない。エリア11は完全に統治されているとは言い難く、テロも活発なこともあり犯罪率は本国より高いが、それはイコールイレブンによる犯罪が多いということではない。むしろ、イレブンを狙った犯罪のほうがはるかに多い。ブリタニアに目をつけられたら終わりだと考え、抵抗しないイレブンは格好の標的だから。
何より、イレブンが被害を訴えたところでまともに扱われることはない。すべての原因はイレブンにあるとして、罪を犯したブリタニア人は無罪となり、その結果被害者が有罪判決をうけ、多額の賠償金を支払うよう命じられるケースもある。どのような被害にあっても訴えればより大きな被害となって返ってくる。だから基本泣き寝入り。表面化していない犯罪がどれほどあるか想像もつかないのが現実だ。
これはエリア11だけの話ではなく、本国でもこの手の犯罪は多い。
それらを棚に上げ、イレブン=犯罪者と説明するのは無理がある。
ここは「敵に男がいる」それだけを前提とし、女三人しかいないこの場所を男たちが知ってる事の危険性を訴えるべきだった。無理にイレブンの男特有の犯罪だとしたせいで、ユーフェミアは男に対する恐怖と警戒よりも、イレブンは悪だとする内容の方に食いついてしまった。

「正しい考えを持つ者がいないとは言っていない。中には使えるものもいるが、そんな話今は不要だ。今、我々にとっての脅威は黒の騎士団、そしてイレブンの男どもだ。そこを間違えるな」
「その考えがおかしいのです。日本人とブリタニア人。生まれは違いますが、共に手を取り合い、助け合い、補い合って生きる事ができます。それを否定し、最初から日本人は恐ろしい、彼らは犯罪者だと決めつけるべきではありません」

先程まで恐ろしい話に身を震わせていたはずのユーフェミアは、凛とした面持ちで、真正面からコーネリアを見据えそう言った。皇女相手に怯むこと無く、まっすぐ見つめ自分の考えを述べることが、ただの研究員・・・その部下に出来るのだろうか?
あまりにも似すぎた容姿と、王者たる一族の血を感じさせる彼女に心がざわめく。

「お姉さま。たとえ敵であったとしても、このような不可思議な場所に集まったなら、手を取り合うのが人間です。・・・いえ、中には手を取り合うこと無く、他人を利用し楽をしようとする者もいます。ですが、そのような者たちは、協力し共に生き抜こうとする者たちから排除される存在となります・・・そう、今のお姉さまたちのように」
「何・・・?」
「気づいていないのですか?何故黒の騎士団がセシルを連れて行ったのか。ここに居てはセシルが辛い目に合うと考えたからです。何もせず、文句ばかり口にして、人を・・・セシルをこき使う方が居たから。だから彼女たちはセシルを連れて行ったのです。お姉さまの言うような酷い扱いをするためではありません」

違う、やはり違う。
これはユーフェミアではない。
ユーフェミアは私にこのように反抗したりはしない。
王者たる血を引き、戦場の女神とさえ称された姉を慕っていた妹が、その姉に向かいお荷物だと、何も出来ない無能だと言うはずがない。

「なぜそう断言できる」
「お姉さま。私はすでに死んだ身です。今はこうして体を得ていますが、これは一時的なもの。私はこうして身体を得る以前から、何度もここに来ていました。見ていたんです、お姉さま達を。そして他の場所の者たちを。何をしていたのかも、何をしていないのかも、私は知っています」

それはそうだろう。
おそらくはカメラかなにかを仕掛け、こちらを監視していたはずだ。だから、この娘はすべてを知っていてもおかしくはない。幽霊とは都合の良い設定にすぎないのに、彼女を否定しようとしても、その言葉を口にすることができなかった。。

「・・・私が、何もしていないだと?」
「はい、何もしていません。何も出来ず、何もやらない。私はお姉さまを尊敬していました。皆に慕われ、先陣を駆けるお姉様はとても素敵で、私の憧れで、誇りでした。そのお姉様が、まさか何もせず、ただ傲慢な態度で部下に命令しているだけだったとは、思いもしませんでした」

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