いのちのせんたく 第132話


ふわぁ~っ・・・と、大きな欠伸をしたのはカレンだった。
それに続くように他の面々も大なり小なり欠伸をしている。
今までの環境から開放され、心底リラックスしているからこそ出た欠伸だったが、1人そうは思っていないものがいた。言わずもがなルルーシュである。
まだ日が沈んで間もないが、慣れない環境に身を置き続けていることで体力が落ちているのだろう。今はまだ食料にも余裕があるし、今日もいくらか補充できた。足りなくなってもこの人数ならすぐに集めることが出来るだろう。天気が悪くならない限り飢える心配はない。・・・と、彼らが聞けば、いやいや違う、体力は余っている。体調もここに来てから一番いい。ただ気が緩んでいるだけだと否定される内容だったが、思考を読めるマオのような能力者はここにはいないため、ルルーシュの考えを知るものも止めるものもいなかった。
ならば、明日はもう少し楽な作業をすることにしようとルルーシュは結論を出した。
この判断に後悔するのは当のルルーシュなのだが、当然未来を知る能力のないため、その結論を変えることは残念ながら無く、予定を次々組み立てていく。

今日のように海まで行くのはスザク1人で十分。
体力馬鹿のスザクは人が増えたことで作業量が減り、逆に体力が余っているようだから何も問題ない。この環境で一番怖いのは病だ。体力が落ちれば免疫力も下がり、その結果大病を患う可能性はある。
よし、明日の昼は鶏料理だ。肉を食べ、栄養のバランスを考え野菜を採取。
そうだな、大豆畑を広げたいから、その下準備もしてもらうか。
本来の予定は木を切り加工し、新しい小屋の建設準備をするつもりだったが、1日2日遅れたところで何も問題はないだろう。
カレンの欠伸から10秒とかからず結論を出したルルーシュは口を開いた。

「皆聞いてくれ」

その言葉に、半分眠りかけていたカレンたちはルルーシュに視線を向けた。

「明日の予定だが、仙波・ラクシャータ・セシルは兄さんとこの拠点での作業にあたって欲しい。やることは2つ。一つは焼き窯の下準備だ。できれば2.3日中に火を入れたい。もう一つは塩田の設計図と試作品の作成だ。やり方は任せる」

このあたりの話は海岸にいる時も話していたため、仙波たちはわかったと頷いた。彼らは目端が利くから焼き窯の最終確認と塩田の試作品・・・竹を組んでミニチュアを作り、クロヴィスが保管する粘土のどれが理想に近いかシミュレートしてくれるだろう。その結果が出るまで塩田は保留だ。

「藤堂、千葉、朝比奈は畑を拡張する下準備をして欲しい。多少耕し、出て来る石を取り除くだけでそう難しい話ではない。場所は明日教える」

子供が命令口調で話す姿に、朝比奈たちは眉を寄せたが、藤堂は大きく頷いた。
人数が増えれば畑の拡張は当然必要だ。
海に行く前に多少拡張したが、それでは全然足りないだろう。
拡張するなら早い方がいい。
藤堂が了承を示すと、朝比奈と千葉はそれに従った。

「C.C.とカレンはこの周辺を散策してくれ。聞けばC.C.は山菜などの知識に長けているという。オレが見落としている物を見つけることが出来るかもしれない」
「遠くまで探しに行けというわけではないだろうな」

眠そうにしながらゴザの上に横になっていたC.C.は嫌そうに言った。

「いや、すでに開拓された範囲でいい」

ルルーシュの言葉にC.C.は、ああそういうことかと納得した。
これだけ丁寧に開墾しているのだ。見落としている食材があるとは思えない。・・・まあ、ルルーシュの知識が絶対だとはいえないが、確率は限りなく低いだろう。となれば、C.C.が見つけられるもの。もしかしたらC.C.だけが見つけられるものが無いか調べろと言っているのだ。
つまり、この島を脱出するためのヒントをだ

「仕方ないな。このあたりの散歩ついでに何か探してやるよ。だが、カレンは不要だ」

遠出するならまだわかるが、近場なら1人で十分だ。
それに、万が一何かを見つけた時カレンが居ると邪魔でしか無い。

「ちょっと、不要って何よ不要って!あったまきた。絶対明日一緒に行くからね」

別に挑発したつもりはなかったC.C.だったが、カレンが予想以上に食いついてしまい、しまったと眉を寄せた。こうなったら最後、夜が明けてすぐにここを離れてもカレンは全力で走り回ってC.C.を探すだろう。そうなったらもっと面倒臭いことになる。ちらりと視線をカレンからルルーシュに戻すと、フフンとでも言いそうな表情でこちらを見ていた。
ああそうか、おまえわざとだな?こうなること知ってたな?なんだ、そんなに枢木スザクと二人きりになりたかったのか?許さんぞ?散歩なんてしないでお前たちの周りをうろついてやるからな。覚悟しておけよ。という意味も込めて睨むと、ルルーシュは困ったように柳眉を寄せ小さく笑った。
まさかここまで計算済みとか言うなよ?
ああ、だが魔女と並ぶ魔王だから可能性はあるか。

「そしてスザク。明日は朝にいつも通り仕掛けを回収して欲しい。その後鶏を捕獲する」
「鶏を?お肉?」

途端にスザクの目が輝いた。
肉はそれなりの頻度で出しているが、それでもやはりテンションが上がるらしい。

「ああ。明日の昼は鶏肉をたっぷり使うつもりだ」
「やった!僕頑張るよ!」

幼い子供のようにはしゃぐスザクに、藤堂たちはまだまだ子供だなと小さく笑った。

「では、明日も忙しいからな。今日は早く休もう」

それぞれに返事をし、出していたものを片付け始める。

「ルルーシュ、私はもう少し起きているよ」

クロヴィスがニコニコと笑いながら言った。
人数が増えたことで体力に余裕ができたのはスザクだけではなかったらしい。

「僕もまだ眠くないから起きてようかな。ルルーシュは寝たほうがいいね」

そう言ってスザクが持ってきたのは仮眠用の箱。

「ほら入って」
「いや待てスザク。寝るなら俺は小屋に」
「だーめ。ほらほら」

なんで入らなきゃいけないんだと暴れるルルーシュを慣れた手つきで押さえ込み、中に入れる。後はもう簡単だ。心音を聞かせるように抱きしめあやせば夢の中。

「うまいものだな」

呆れたような、関心したような声で言ったのは藤堂。
体力馬鹿の師匠の体力も人並み外れているのか、若い朝比奈たちは早々に眠りに行ったのにまだこの場に残っていた。

「コツが有るんです」
「そのようだな」
「そのコツを聞き、同じようにやってもスザクのようにはならないのだけどね」

何度やってもこればかりは勝てなくて悔しいよ。と、クロヴィスが言う。

「さて、君たち二人が残ってくれたのは私にとっては好都合だ。海底で見たものを話してもらいたい。抽象的でもかまわない。何か感じるものがあるかもしれないからね」

それは芸術家としての好奇心か、死者であるクロヴィスだからこそ感じられるものがあるのか。あるいは謎解きのように彼らの持つ漠然としたイメージから解読を試みるというのか。クロヴィスの意図はつかめなかったが、ここで何か手がかりがつかめるならと二人は話し始めた。

131話
133話