いのちのせんたく 第136話


「いいか、ガスバーナーでもない限り、最初からこんな大きな枝に火はつかない。最初は小さなものに火をつけ、徐々に火を大きくするんだ。これはライターじゃないから火花しかつかない。ここに付属されているマグネシウムを削れば火はつきやすいが、見ての通り量には限りがある。これは雨なんかで火がつきにくい時に使う様に」

そこまで説明したが、南はともかく玉城は既に内容が頭に入っていないようだった。異国の言葉を聞いたかのように、眉を寄せている。こんな時はたしか、図を書いたり実践して見せたりするといいんだったな。と、ルルーシュとスザクのやり取りを思い出しながら永田は説明を続けた。

「まずは焚火の組み方だ。玉城が用意してくれたものは残念ながら使えない。見ての通り太い枝のものばかりで組んでいるから、このままだと火がつかない。仙波さんが薪の傍に落ち葉や枯れ草を用意してくれていただろ?あれがいるんだ」
「へ?あんなのどうすんだよ」

枯れ枝なら何でもすぐに燃えると考えていた玉城は驚いた。
それはそうだろうな、仙波さんが用意した落ち葉と草に、いやがらせか馬鹿にしているのかと文句を言っていたから、必要だから集めたという考えが無いのだ。

「枯れた落ち葉とか、燃えやすいものを最初に燃やして、次に細い枝、そして大きな枝と順に燃やすんだ。だから柴刈りに行くときは、落ち葉も拾っておくようにな」
「芝刈りってなんだ?」
「草刈りのことじゃないか?」

見当違いな回答に、永田は違うと首を振った。

「芝生の芝じゃないからな、柴刈りっていうのは。ほら、昔話でよくある『おじいさんは山へしばかりに』の柴刈りだ。薪になる枝なんかを拾い集めるって言えば分かるか?昔の人は芝刈りで集めた草木を使って火を起こしたり、売ってお金にしていたんだ」

それは同時に山を手入れすることにもつながる。
へー。と、南と玉城は感心したように頷いた。
自分もしばかりは芝刈りだと思っていたから、二人の反応は良く解る。この辺は仙波達の行動をみて知った知識だった。

「まずこの枯葉や枯れ草を一番下に、次に細い枝をのせて、こんな感じだ。着火すれば下から順に燃え広がる。ああ、こんな風に空気が通る隙間も忘れずにな」

組終わると、玉城にファイヤースターターを渡し、この辺を狙えと指示して火花を出させる。慣れていないため最初は火花すら出なかったが、何度かやると小さな火花が出た。残念ながら風が邪魔をしてつかなかったため、手で覆ったり、自分たちの体を使って風の流れを遮り、何度か試すと火花が枯れ草を燃やし、枯葉を燃やした。

「おい、うちわいるんじゃねーかうちわ」

火を大きくするには仰ぐ必要があるという知識はあったらしい。

「いまやれば消えるぞ。逆に風で消えないよう注意するんだ」

小さな枝に燃え移ればこっちのもの。あとはどうすれば火が燃え、そうすれば消えるのか。それは自分たちでやらせて理解させればいい。今まで全部他人任せだったが、こういう作業を玉城が好むのは知っている。消火用の水はヤカンに入っているし、石だらけの河原だから火事にはならないだろう。

「松ヤニも着火剤に使えるから、見つけたらとっておくといいぞ」
「よっしゃ、じゃあさっさと芋煮るぞ!」

腹が減ったと、芋と水を入れている飯盒を火にかけた。
今までは燃えてて当たり前の焚火だったが、自分たちで調整しなければいけない事を覚え、玉城と南はあーでもないこーでもないと試行錯誤し火力を調整した。
この分なら放置しても大丈夫だろう。
扇はというと、体調不良だと言って洞窟に戻った。
おそらく永田がいなくなり、玉城と南だけになれば元の扇に戻るだろうが、一体何をそんなに意固地になっているんだか。考えても意味はないなと、永田は近くの草むらで野草を探した。

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