いのちのせんたく 第14話

「兄さん、そのじゃがいもを洗って下さい」
「これだね。わかった。任せてくれたまえ」

兄弟仲良く川辺で野菜を洗っている姿を遠くに眺めながら、川に入り魚を取っていたスザクは、いいのかなこれで?と二人を伺っていた。
最初の頃はクロヴィスが怖くて僕の服から手を離せなかったが、それでもクロヴィスと話を出来るまでに回復したルルーシュに、クロヴィスは自分が知るかぎりの状況を説明した。
ただし、ルルーシュがゼロだという話、ルルーシュと自分が兄弟だという話はせず「昔ルルーシュに似た弟が居たんだ。だから私のことを兄と呼んでくれ」とにこやかに言ったのだ。
ルルーシュが、その弟本人であること、そしてクロヴィス殺しの犯人であることは三人共知っている事実だが、あくまでもルルーシュは記憶を変えられている前提となるため、二人共この茶番に乗るしか無かった。

「・・・スザクのように、クロさんでは駄目でしょうか」
「いや、ルルーシュ。君には兄上、あるいはお兄様と呼んで欲しいのだ」
「では、せめて兄さんと呼ばせて下さい」

流石9歳の頃まで兄弟として接していただけある。何を言っても無駄と察したルルーシュは、そう提案すると、クロヴィスはそれで構わないと頷いた。
その日一日は僕の側からルルーシュは離れなかったが、今朝はようやく頭の整理がついたのか、クロヴィスと二人で朝食の用意を始めた。
弟に頼られたのが嬉しいのだろうか。芋洗いなどしたことがないはずのクロヴィスは笑顔でじゃがいもを洗い始めた。
ちなみに、クロヴィスの寝具だが、クロヴィスが最初に意識を取り戻した場所に案内されていくと、木箱が一つ置かれており、中には寝袋とマット、毛布とバスタオル、彫刻刀とノミセット・カンナ・木槌そして巾着袋が3つ入っていた。
そして巾着の中には、僕とルルーシュ、クロヴィスの着替えがそれぞれ入っていた。
ルルーシュ用には下着とシンプルな黒のシャツと黒のスキニーパンツが各3枚。クロヴィス用は下着とデザイン性の高い白のドレスシャツと白のスキニーパンツが各3枚。僕は下着と白のシャツとTシャツ、デニムパンツ各3枚。二人よりもTシャツ3枚分多く入っていた。
ルルーシュは、一番運動量が多いから着替えも多いのだろうと言っていたが、誰がそこまで考えて用意をしたのだろう?
何にせよ今よりも格段に楽な衣服を手に入れたことで、僕たちは早速着替えた。
どうせなら靴の替えも欲しかったが、それはルルーシュが昨日作ってくれたので当面は問題ないか。
昨日の夜、混乱したままのルルーシュは、僕の背に隠れながら無心に枯れ草を編み始め、草履を三人分作っていたのだ。
さすがにブーツでの生活は、散策時以外では蒸れて不快だったので、裸足で居ることも多かった僕を見かねて、今度作ってみると干し草の準備はしていたが、本当に作れるとは思わなかった。
初めて作ったのでどうにも納得いかないようだったが、履き心地はよくて、昨日の夜完成てからずっと使っていた。 それを見ていたクロヴィスが、自分も欲しいと言い始め、今は三人とも草履だ。

「スザク、いい加減上がってくれ。一体何匹取るつもりだ?」

考え事をしながら魚を取っていたため、既に7匹目。ついつい取り過ぎてしまった。
魚用罠には沢ガニとエビ、小魚が6匹ほど捕れていたが、足りないので2.3匹捕まえる予定だったのだが。
川から上がり、ついでに温泉に入り体を温めると、鍋をかき混ぜているルルーシュと、それを面白そうに見ているクロヴィスの元へ向かった。

「なるほど、竹を食器の代わりにしているのか。うんうん、面白い」
「兄さん、箸は使えますか?」
「心配ない。日本の総督となることが決まった時に練習をしたからな」

昨日のあの様子からは想像できないほど和やかな雰囲気につい顔が緩む。
塩焼きにされた魚のいい匂いが漂ってきて、お腹がぐうと鳴った。

「ルルーシュ、お腹すいた」
「ああ、もう出来るぞ。朝からすまなかったなスザク。ほら、ちゃんと髪を拭け。風邪を引くぞ」
「そうだぞスザク。君が体を壊したら私たちも困るのだからね」

二人からそう言われてしまい、慌ててバスタオルで髪をガシガシと拭いた。
ルルーシュの体力の無さは昔から知っているが、クロヴィスも芸術肌のインドア派だ。
僕が体を壊せば、間違いなくルルーシュがまた無茶をし始める。それだけは阻止しなければ。

「よし、出来たぞ。スザクは、魚を器に置いてくれ。兄さんはこれをお願いします」

ルルーシュの作った料理は相変わらず美味しく、クロヴィスはよくこんな状況でここまで、と始終感動しながら箸を動かしていた。ちなみに朝食はじゃがいも・山菜・鶏肉・小魚が入った具だくさんの煮物、川エビ・沢ガニの汁物、焼き魚、大根の漬物。ここまで揃うとお米が欲しくなる。美味しい朝食を口にしながら、今日の行動予定を立てた。

「午前中は、海に魚を突きに行ってくる。昨日、試しに仕掛けた投網も見てくるよ。あと竹も補充しないと」
「俺は昨日できなかった洗濯をするから、今日は着いて行けないからな。十分注意して潜れよ?あとは、そうだな。さっきの魚の残りと、昨日スザクが捕まえてきたカエルを捌いて燻製を作る準備だな。実際に燻製にするのは日が暮れてからになるが・・・」
「燻製も作れるのか?作り方をぜひ見せてくれないか?ああ、それまでの間は地質を調べて来よう」

地質。その言葉に、僕とルルーシュはクロヴィスへ視線を向けた。

「やはり食器がこれだけでは不便だろう?粘土を探して陶器を作りたいと思ってね。私が来たあの場所辺りに小さな崖が会っただろう?地層の断面が見えていたからね、まずはあの場所を調べてみようと思っている」
「ですが、陶器を作るとなると焼き窯が必要になりますが、俺は流石に焼き窯の作り方まで知りませんよ?」
「見くびってもらっては困るよ、私は芸術と名のつくものはひと通り手を付けている。陶器も凝った時期があってね、自分用の焼き窯の設計もしたことがある。とはいえ、最初からうまくはいかないだろうがね」
「クロさん、焼き窯を作るときは呼んで下さい。自分にできることがあれば手伝いますので」
「うん、その時はぜひ手伝ってもらうよスザク。だが、その前にまず粘土探しだ。あと、せっかくノミがあるのだから、良い木材も探したいね」

自分の趣味も意外と役に立つだろう?と、クロヴィスはにこやかに笑った。



「おい、朝比奈腹減った。魚か芋無いのかよ」

だらしなく無精髭を生やした玉城が、河原に寝そべりながら朝比奈に声をかけた。
川に入って体を洗ったり、着ている服を洗ったりもしないので、あまりの匂いに正直近づきたくない状態となっていた。南と扇は日が昇ってだいぶ立つというのに、まだ起きる気配はない。

「なんでお前たちの食事を用意しなきゃならないんだよ」

暇な間に、近くの草むらで捕まえたバッタを焚き火で焼きながら、朝比奈は不機嫌そうに答えた。
木の根を食べるような生活を、藤堂たちは解放戦線時代していた事もある。
本来なら、これだけ食料があるのだ、もっと楽が出来るはずなのに、足を引っ張るものが居るというだけで、その疲労度は以前以上の物だった。
朝比奈は、藤堂と仙波の負担を少しでも減らそうと、この場所に待機することが多くなっていたため、朝比奈が玉城たちと衝突することも必然的に多くなった。

「なんだよ、自分たちだけカエルやら蛇やら食っておいて、俺達には何も食わせない気かよ」
「自分たちでどうにかしようとは思わないの?」
「俺達がやるより、お前らがやるほうが早いだろう。効率って言葉知ってるか?」
「働かざるもの食うべからずって言葉を理解してから言うんだね」

藤堂に言われて我慢をしているが、朝比奈はもう限界が近かった。



「なんだ。ブリタニアの魔女というのはずいぶんと器が小さいのだな」
「何だと貴様!コーネリア様を侮辱する気か!」

何かにつけて人を見下し続けるコーネリアとヴィレッタの相手をC.C.がしていた。
昨日までは千葉とカレンが相手をしていたのだが、疲労の見え始めた二人には重荷だなと、C.C.が自ら相手をすることにしたのだ。同じ魔女と呼ばれるもの同士、年季のある分C.C.も負ける訳にはいかない。
食料確保も、掃除すらしないで喧嘩ばかり売るこの二人は、空気を険悪にする以外何もしない。
ブリタニア軍に所属するセシルにも、最初千葉とカレンは冷たくあたっていたが、ラクシャータの学友で、スザクの同僚、そして上官二人に使いっ走りや、嫌な仕事ばかり押し付けられ苦労する姿を見ていたせいで、今はコーネリアとヴィレッタの見ていないところでは仲良くやっていた。
見るに見かねたC.Cが二人の相手をするようになったせいか、ラクシャータ・カレン・千葉・セシルに多少精神的ゆとりが出来たようにみえるが、いつまで持つだろうか。
私が、じゃない。他の人間がだ。
拠点となる場所さえ見つかれば、この二人を捨ててやるさ。
C.C.は嘲笑いながら、この二人だけと別れるようどう話を進めるか考えていた。






スザルル組にクロヴィスが加わった。死者のはずだが今は気にしないことにした。
スザルルクロ組に寝袋・マット・毛布・バスタオル各1枚、彫刻刀とノミセット・カンナ・木槌・巾着袋×3(着替入)を手に入れた。

・ルルーシュ・
 →スザクへの依存度が上がった。
 →スザクとの友情度が少し回復した。
 →クロヴィスへのブラコン度が少しだけ上がった。

・スザク・
 →ルルーシュへの過保護度が上がった。
 →ルルーシュとの友情度が少し回復した。

・クロヴィス・
 *環境適応力が上がった。
 *陶器をつくろうと考えている
 →ルルーシュへのブラコン度はMAXだ。

扇、玉城、南は食材探しも放棄して藤堂達に寄生していた。

・朝比奈・
 *そろそろ限界だ。
 *藤堂の説得を試みている。
 →扇・玉城・南への信頼度等は、最低まで下がっている。

・仙波・
 *そろそろ限界だ。
 *藤堂の説得を試みている。
 *体力的にもきついようだ。
 →扇・玉城・南への信頼度等は、最低まで下がっている。

・藤堂・
 *新たな拠点探しをしている。
 →朝比奈・仙波の限界を感じている。
 →扇・玉城・南には呆れて何も言えなくなっている。

騎士団(女)組は、コーネリアとヴィレッタから離れて住める場所を探していた。ただし、疲れきってるセシルは連れて行こうと考えている。
騎士団(女)組にC.C.は意外と頼りにされている。




一時的に二人を混乱させただけで、爆弾として役に立たなかったクロヴィス兄さん。芸術家のクロヴィスは合流しても役立たず(ただしルルーシュに強く出られない)でスザクが苦労し難易度が上がると考えたのに、むしろ難易度が下がってしまいました。
クロヴィスが出るならユフィも出せるので、7話の行政特区バレ要らなかったなと、バレを書いたことを後悔中。ユフィがスザクに説教するほうが絶対よかったのに。
HTML表
13話
15話