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「確かに今は黒の騎士団の方ばかりなので、お兄様のいるあの場所は黒の騎士団の拠点と言えますね。ですが他に、黒の騎士団だけの拠点もあります」 ユーフェミアは意を決して話した。 「2ヶ所もですか!では、ブリタニアの拠点は?」 「私が知る限りはありません」 ユーフェミアの回答に、ヴィレッタはがくりとっ肩を落とした。敵の拠点は2ヶ所もあるのに、こちらはゼロとは。考えていた以上に自分たちは危険な場所にいるのだ。やはり拠点を移すべきだろうか。 「いえ、今はここがブリタニアの拠点ですね」 そしてクロヴィスがいる拠点が中立で、黒の騎士団の拠点はひとつ。でも、正確な情報は伝えないほうがいいと考え言葉を止めると、ヴィレッタは明らかに落胆した。 「始まりの状況はどの拠点も同じでが、クロヴィスお兄様の所は、こことは違いたった三人だけでした。敵味方に分かれることなく、皆が出来る事をやり、出来ない事を覚えていきました。あの場所では身分も人種も関係ありません。互いに支え合い、共に手を取り生きています」 「そんな事・・・」 あり得ない。理想論だ。 何よりそれは、ユーフェミアが望んだ行政特区の形ではないか。 「あの場所では差別は起きません。ですからセシルは無事です」 「無事!?あり得ません!」 男もいる黒の騎士団の拠点に女のブリタニア軍人が行って無事なはずがない。3人だった所に女性も加わるのだ。黒の騎士団の発言力が強くなるし、3人という少人数だから協力しなければ生き残れない、だから互いを利用する事にしただけで、人手が増えればクロヴィスとセシルは不要になるではないか。 「いえ、ここよりも安全です」 その言葉に、ざわりと背筋が震えた。 ここよりも。 つまりここは・・・? 「あ、ごめんなさい。ここが危険な場所という話ではないんです。セシルがここに残るよりも、クロヴィスお兄様の所にいた方が安全と言う意味です」 顔色を悪くしたヴィレッタにユーフェミアは慌てて説明をした。 どういう事だ?と眉を寄せた時、じゅわっという音が聞こえた。 見れば鍋が煮立ち、溢れはじめていた。 ヴィレッタは慌ててタオルを手に鍋を火から下ろした。 「セシルが、と言うのはどのような・・・」 「もしセシルがここに残ったら、あなたはこうして料理を作ったりしましたか?彼女たちがセシルを連れて行ったのは、ここにいたらお姉さまとあなたに殺されてしまうと思ったからです」 それこそ、奴隷のごとくこき使われて。 「そんな事は」 「ない、とは言えないはずです。彼女たちがいる間の事は見ていましたから」 それを言われれば何も言えない。 身に覚えがあり過ぎるのだ。 「協力し合う安全な拠点なら、何故私とコーネリア様を残していったのですか?」 「解りませんか?」 ユーフェミアは首を傾げた。 コーネリアが皇女だからという理由は当てはまらない。 クロヴィスがいるから。 ブリタニア軍人というのも当てはまらない。 セシルがいるから。 ではなんだ? 「お姉さまは皇族だというだけで何もせず、あなたも文句ばかりで何もしないで、お姉さまの顔色ばかり見て過ごしていたからです。争いの無いあの場所に、争いの種を連れて行きたくはなかっただけよ」 |