いのちのせんたく 第142話


藤堂がいると楽だなと改めて思う。
一から十まで指示しなければならない扇達と違い、こちらが何をしようとしているかを読み、こちらが何も言わずとも部下たちに的確な指示を出していく。最終的な判断はトップにゆだねるが、よほどの事が無い限り藤堂と意見がぶつかる事はないし、ぶつかったとしても自分の意見を無理に押し通そうとする事も無く、納得できる理由であればすぐに引いてくれるし、反対に教えられる事も多い。それらはすべてより良い案、よりよい手段を模索するために必要な衝突でしかなかった。
木材を運ぶこの作業一つとってもそう。
どの木材から運べば効率がいいか、どう運べばいいか、何人ぐらい必要か、どの場所に度の長さを置くか全て指示しなければならず、森と河原を幾度となく往復し、すぐに後輩にまるなげしてサボろうとする玉城達の監視も考えればそれだけで1日が終わってしまいかねない。扇に任せた場合は非効率過ぎて予定の半分も作業が進まないため論外だ。ディートハルトがいればまだ任せられる面もあるが、玉城達が反発するのでやはり上手くはいかない。
幸いというべきか、今いるメンバーはサボろうとする者はいないし、藤堂の指示に的確にこたえようとする者たちばかりだ。1を言えば10を知る藤堂がメンバー全員の身体能力を加味して分担を決め、皆はそれに従い効率よく動く。藤堂なしでこのメンツがそろっていた場合、ただの学生であるルルーシュの指示にどれだけ従うか。黒の騎士団とブリタニア軍で分裂し争う可能性もあっただろう。藤堂というカードがこの島でも手に入ったのは幸運だった。

昼食を用意し終えると、藤堂が「後の作業はこちらに任せてくれ」というので、その場を任せ河原に戻ると、岩場から黙々と煙が上がっているのが見えた。その傍にはクロヴィス達がいて、どうやら釜戸に火を入れたようだった。
クロヴィスは合間合間に色々な粘土を用いて試作品を作っていた。今までは市販された粘土を用いて創作活動をしていたが、ここで使うのは自然の中にある粘土だ。経験則で予想しながら作成はしていても、どの粘土がどのような形で完成するかは焼いてみなければわからない。
黙々と煙が上がる石窯に近づくと、少し離れた場所で休憩していたラクシャータがこちらに気づき手を振った。かなり暑いのだろう、タオルを手に汗をぬぐいながら水を飲んでいた。

「順調そうだな」
「今の所はね」

そういいながら置かれていた水筒を手渡してきた。そう言えばかれこれ1時間は水を飲んでいなかったなと思い、それを口にする。
クロヴィスと仙波は火と煙の様子を見ながら、どのぐらいのペースで薪を入れるか相談していた。クロヴィスは経験者と言っても窯に火を入れる作業はしていない。作品を作り、理想とする窯を作りはしたが、後は人任せだ。仙波も陶芸用の窯は扱った事が無いため、これに関しては回数を重ねて行くしかないだろう。二人は話に夢中らしくこちらに気づいていない。

「昼食はここで食べるか?それとも河原で?」
「ずっとここにいたら干からびちゃうわ。河原で食べましょう」

クロヴィスの話では石窯はこの後数十時間この状態だ。交代し、見張り続けなければならないのだから、涼しい場所で休憩しなければ倒れてしまうだろう。

「あなたたち、私はルルーシュと昼食の準備をしに行くからね」

ラクシャータが大声で言うと、ようやく気付いた二人がこちらを見、了解したと手振りで示した。

「熱中症になりそうだな」
「そこは上手くやるわと言いたいところだけど、日差しを遮る物が欲しいわね。釜によるでしょうが、仙波の話だと屋根をつけて天気の影響を受けにくくしたりするらしいし、改良の余地はいくらでもあるわ」

雨が降ったら今のままだと火が消えてしまう。風が強ければ火が安定しない。言われてみればその通りだ。以前写真で見たものも、木造の屋根のようなものがあり、3方向を壁で囲っていたように思える。とはいえ、最初から屋根を作ると、窯に欠陥があった時に大参事になるから、今回は用意する話にならなかったのだろう。

「ラクシャータ、水筒の補充を頼む」
「わかったわ」

ラクシャータは慣れた手つきで焚火に火をつけ、川の水を沸かしはじめた。伐採組もそうだが、皆労働で大量の汗をかいている。飲み水は沢山用意した方がいいとラクシャータも考えていた。

「もっといい保存方法ないかしらね」

川の水を沸かさずに飲むのは自殺行為だ。だが、これだけの人数の水を賄うだけの量を沸かすのもなかなか骨が折れる。竹の水筒に保存する方法にだって限界はある。

「どこかに湧水でもあればいいんだが、今のところそれらしいものはないからな。陶器が上手くいくようならクロヴィス殿下に水釜を作ってもらうしか手はないだろう」

材料を刻みながら、ルルーシュは答えた。
下手な保存は出来ないが、水釜は昔から使われている貯水方法だ。扱いを間違わなければ飲み水の保存がしやすくなるのは間違いない。

「そうだ、ラクシャータ。これを預ける」

ルルーシュはポケットに入れていた物を渡した。

「これ・・・」
「C.C.が拾ってきた。落雷のあった場所で見つけたらしい」
「さすがね。その場所、手が空いたら調べに行きたいんだけど?」
「ああ、窯の方が順調なら、セシルと共に別行動を取って構わない。人手が足りないなら言ってくれ、人を回そう」
「ありがとう、助かるわ」

ラクシャータは手にしたモノをざらりとなでた。
一見すればごつごつとした、ただの石。
その石に纏わりつくように黒い砂が付着しているだけ。
だが、これはとても重要なモノだった。
おそらくはあの大雨の日、磁鉄鉱に雷が落ち、作りだされたのであろう天然磁石。付着しているのは砂鉄。この島に助けが来ない前提で考えた場合、レアメタルは諦めるとしても、鉄鉱石をどう発掘するかが悩みの種だった。銅鉱石にしてもそうだ。それを発掘するだけの道具も機材もここには無い。
だが、これがあれば砂鉄を回収できる。僅かではあるが手に入るそれらを使い道具を作れば、発掘作業も可能になるだろう。カミサマが色々道具をくれたとしても、こちらが望むものを必ずくれるとも限らない。特にKMFのような道具はくれないだろう。
・・・今まで科学者として出来る事はなかった。
多少聞きかじった医療を使い、多少理解できる技術の提供をしてきただけ。自分の分野と言えるものはなかった。それはセシルも同じだ。パソコンも無い、電子機器を用意する事も出来ないが、それでも。
これはその第1歩。

「これから忙しくなるわ」

磁石をポケットに押し込み、ラクシャータは楽しそうに言った。


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ラクシャータは天然磁石を手に入れた。

150話目前にしてようやく鉄。

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