いのちのせんたく 第143話


「そういえば、セシルはどこに行ったんだ?」

あっという間に昼食を用意したルルーシュが、あたりをも回しながら尋ねると、それを受け取りながらラクシャータもまたあたりを見回した。

「そういえば、遅いわね」
「なにか別の作業を?」
「釜に火を入れてすぐに、夕食用の野菜の採取を頼んだのよ」

あちらでの生活で散々こき使われ、心身ともに一番疲労していたセシルは、石窯の暑さに耐えられると思えず、早々に避難させた。休憩しろと言っても、皇族であるクロヴィスが働いているのに自分が休む訳にはいかないと拒否するので、比較的安全でラクな作業を頼んだのだが、1人で行かせたのは失敗だったか。カゴが減っているから、畑に向かったのは間違いない。

「見てくる」

即座に森へ向かおうとしたルルーシュを引き止める。

「私も行くわ。万が一ということもあるから」

倒れていたらルルーシュだけでは対処できない。ラクシャータは昼食をテーブルの上に置き、細く割った竹で作ったクロッシュをかぶせた。この奇妙な場所では料理に虫がつくことはないが、気分的の問題だ。

「水とカゴは持った」

この場合のカゴは、いくつかの薬と、タオルが入った簡易救急箱として使っているカゴだ。これで出来ることは限られているが、無いよりはましだろう。ラクシャータは自分が頼んだ野菜を頭に浮かべ「こっちよ」と先導して歩き出したのだが、森の方から声をかけられ、その足を止めた。

「ラクシャータ、何処かに行くの?」

ひょっこりと木陰から顔を出したのはセシル。

「・・・あなたが戻ってこないから探しに行こうと思ったのよ」
「あら、そうなの?ありがとうラクシャータ。ルルーシュくんもね」

穏やかにほほえみながら言うので、心配は杞憂だったかと胸をなでおろしたのはほんの一瞬で、次の瞬間ルルーシュとラクシャータは顔をこわばらせた。
彼女の背後に、人がいたのだ。
この拠点の人間ではない。
そのことで反射的に警戒したのだが。

「・・・ああ、そういう事もあるわよね」

一つ息を吐いた後、ラクシャータが言った。
よく見知った顔だ。
敵ではない。
敵ではないが、叶うことなら一発ぶん殴ってやりたいと思っていた人物だった。
二人の反応を見て、セシルはそうだったわと、自分の後ろにいた人物を紹介した。

「ラクシャータは顔見知りなのね。ルルーシュくん。こちら、卜部さんと言って、藤堂さんの部下なの」

一般人のルルーシュにわかるように、セシルは説明した。
畑で野菜を採取するついでに雑草むしりをしている時、卜部がやってきたのだという。軍人であるセシルは、逃亡中だった頃の藤堂たちを知っていたから、ひと目で卜部だとわかった。スザクの師匠であり、千葉たちの上司である藤堂が選んだ部下だから、直接の面識はなくても信頼に値する人物だと気付き、セシルの警戒心はゼロになった。
あまりにも無防備に接してきたので、卜部の方が戸惑ったぐらいだ。この異常な環境のせいで、セシルは黒の騎士団=敵という図式を忘れているのかもしれない。
そして、卜部がすでに死んでいることを、知らないのかもしれない。
微妙な空気になっていることに一切気づかず、セシルはニコニコと微笑んでいた。

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