いのちのせんたく 第145 話


「貴方は確か・・・藤堂さんの」

ルルーシュを背にし、鋭い目で睨んでくるスザクを卜部もまた鋭い目で見据えていた。今は共同生活をしているからルルーシュを守る騎士気取りでいるが、この均衡が崩れたらブリタニア皇帝の騎士に戻り、ルルーシュとC.C.を捉える道を選ぶ男だ。過程を気にしながら、最悪の道を選び続けるのが枢木スザクという人間だ。この拠点で、最も警戒すべき相手だと卜部は考えていた。

「枢木スザクか。こうやって話すのは初めてだな」
「貴方のことは、藤堂さんから聞いています」

藤堂の部下、四聖剣の1人。
あの藤堂の部下だから他の黒の騎士団員よりは安全だろうが、信用はできない。朝比奈のような者もいるから。情報では、バベル・タワーで死亡している。つまり卜部も幽霊だ。ゼロの正体を知っていると考えていいだろう。そんな人物がここに来るなんて。最近の緩んだ空気のせいかすっかり忘れていたが、ルルーシュがゼロだという記憶を戻しかねない人物の多いこの場所で、どうしてルルーシュを1人で行動させてしまったのだろう。セシルがいるから今は大丈夫だったはずだが・・・危険すぎる。
もしルルーシュにゼロの記憶が戻れば、ここにいる黒の騎士団をまとめ、クロヴィスと自分たちを拘束するだろう。いや、ここを抜け出すまでは知らないふりをしてこちらを利用するか。ルルーシュなら、ゼロならやりかねない。そんな状況に、するわけにはいかないのだ。
ただならぬ空気を感じたセシルは不安から口を閉ざし、ラクシャータは面倒なことになったわねと眉を寄せた。
そう思ったのはルルーシュも同じで、スザクに気付かれないようにあたりを見回した。すると、藤堂達が木材を運んでいる姿が見えた。スザクも木材を運んでいたのだろう、河原には木材が1つ転がっていた。

「藤堂さん!来てください!」

ルルーシュは、手を振りながら大きな声で藤堂を呼んだ。
あのルルーシュが大声で呼んだことで、藤堂は何事だとあたりを見回した。すぐにスザクがルルーシュを背にかばっているのを見つけ、緊急事態か?と藤堂もまた木材をその場に残し駆けてきた。藤堂が駆け出したのを見て、三人で1本の木材を担いでいた朝比奈、千葉、カレンもまた木材を置き、駆けて来る。

「・・・卜部!」
「中佐、お久しぶりです」

驚き目を丸くした藤堂に向かい、きっちりと姿勢を正して卜部が頭を下げた。

「どうして・・・いや、クロヴィスがいるのだから、そうか」
「はい、自分もすでに死んだ身。クロヴィス同様、一時的に仮初の肉体を与えられた幽霊だと考えられます」

この状態が何なのか、卜部もクロヴィスも正確には理解していない。
だから断言は出来ないが、自分は死に、その後の世界を見ていたのだから、幽霊が実態を持ったと考えるのが正解なのだろう。

「・・・よく、戻ってきた」

たとえ一時的な邂逅だとしても、二度と逢うことの敵わないはずの者との再会は心を、声を震わせ、卜部もまた藤堂との再会で、知らず目に涙をためていた。

「卜部さん!?」
「卜部、どうして」

朝比奈と千葉、そしてカレンもまた卜部の姿に驚き、息を呑んだ。

「久しぶりだな、みんな。俺はクロヴィスと同じ幽霊だ」

簡潔な説明だが、それで皆は理解した。
クロヴィスは自分が消える可能性を考えていないようだが、幽霊は幽霊。どんな意図でここに有るかは解らないが、それはどんなタイミングでここから消えるかもわからないということだ。必要な情報はできるだけ早くに渡すに限る。この箱庭が超常の存在の作り出したものであるなら、自分たちに都合の悪い存在は容赦なく切り捨てるだろう。
伝えたいことはある。
扇達がいるあの拠点で、藤堂たちと分かれて行動した扇たちだけが目にしたあの場所の情報。だがこれは、おそらく死者が口を出してはいけないモノだろう。

「俺は幾つか話したいことがあってきました」

あちらの拠点のことも心配だ。
あまり長居はできない。
そう考え卜部は話し始めた。

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