いのちのせんたく 第146話


「まず、扇とコーネリアの拠点ですが、様子を見に行く必要はありません」
「必要がない?」

クロヴィス、藤堂、ラクシャータ、ルルーシュ、スザクはお茶を飲みながら卜部の話に耳を傾けていた。朝比奈と千葉、カレンは木材運びを。仙波は釜戸の火を見ているためここにはいない。
卜部との会話は藤堂とラクシャータがし、この拠点のトップであるルルーシュが立会い、スザクはそのルルーシュの護衛として付き添う事になった。
クロヴィスは卜部の指名だ。

「扇たちのところには、永田という元扇グループの者がいます」
「永田?」
「ああ、確かそんな名前のメンバーがいたって言ってたわね」

藤堂には馴染みのない名前だったが、ラクシャータは聞いたことがあった。

「確かシンジュク事変で行方不明になったとか。・・・死んでたのね」
「シンジュク事変というと、扇達が毒ガスを盗んだというあれか」
「はい。扇たちは自分の話は全く聞きませんが、永田の話はある程度聞き入れます。今は永田がこの島での生き方を教えていますが、中佐が様子を見に行けば、また頼ろうとするでしょう」

扇達を見捨てず、定期的に様子を見る前提で藤堂達はここに受け入れられた。だから木材運びが終わり、ある程度の目処が立ったらも出立するつもりでいた。卜部の言う通り、藤堂が顔を出せば、自分たちは辛い思いをしている、助けろと訴えてくるだろう。

「そしてコーネリアの拠点には、ユーフェミアが行っています」
「ユフィが!?」
「・・・」

スザクは驚き声を上げた。ルルーシュたちも驚きを隠せないが、ただ1人クロヴィスだけは冷静に話を聞いていた。

「兄さん、知っていたんですか?」
「お姉様のところに行ってきます。と、言っていたからね」

そうだった。 ここに居たユーフェミアの幽霊とクロヴィスは普通に会話ができたのだ。どこかの段階で二人きりで話をし、その情報を手に入れていたのだろう。何故隠していたんだ?と皆が訝しんだ時、スザクが立ち上がった。

「ユフィ・・・ユーフェミア様が・・・!」
「待ちなさいスザク」

クロヴィスは冷静な声でスザクを制した。
動揺の隠せない表情のまま、スザクはクロヴィスを見た。

「ここにユーフェミアが居たことは前から知っていたはずだが、何をそんなに慌てている?」

わかっていて聞いている。
それがわかる声と、視線だった。

「今の話だと、ユーフェミア様も身体を得たということですよね」
「だから、なんなのかね?あの子の騎士として、あの子の元に戻るつもりかな?」

クロヴィスは、わずかに非難を込め言った。
図星なのだろう、スザクの表情が騎士のそれに変わっていた。
それを見て、卜部はやはり枢木スザクは信用に値しないと判断し、藤堂たちもスザクの危うさにここでようやく気がつく。
ルルーシュは、表情こそ変えないが、内心酷くショックを受けていた。
やはり、スザクはユフィのためならルルーシュを簡単に捨て、裏切れるのだと実感した。失われた主が目に見えない不確定な存在ではなく、目で見て、声を聞いて、触れ合える存在として戻ってきたのだ。代用品の主など、もう必要ないのだろう。
国を裏切り、親友を裏切り、その地位を手に入れた男だ。
仮初の仲間も、仮初の主も、簡単に踏み台にし、利用するなどわけもない。
さて、どうするべきか。表面上変わっては見えないが、 ルルーシュがイレギュラーに、いや、スザクに弱いことはよく知っているクロヴィスと卜部は、思考を停止させているだろうルルーシュをちらりと見、小さく息を吐いた。

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