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「行きたいなら行かせてやればいいだろう?」 どうすべきか、どう切り出すべきか、それを最も得意とするルルーシュが思考停止してしまい膠着状態となった時、その声が聞こえてきた。 そろそろ自分の分の昼食が出来た頃だろうと戻ってきたC.C.だった。 「C.C.」 「久しぶりだな卜部。生きていたときより元気そうだな?」 「そんなことはないだろう?」 「そんなことは有るさ。精神的な重荷がなくなったことで顔つきが変わって見えるぞ?まあ、肉体的な疲労は、かなりありそうだが」 言われてみれば、たしかにそうかもしれない。 黒の騎士団は壊滅。 藤堂たちは処刑を待つ身となり、ゼロは記憶を消されブリタニア軍の監視下にあった。ゼロを解放し、藤堂達を救い出す。その最後の希望が自分たちだけ。元軍人であり四聖剣だからと彼らをまとめなければならない。作戦を決行するための資金集めもすべて計画し・・・何度も無理だと諦めかけた。何度も絶望し、人知れず涙を流した。あの日々に比べれば、離れた場所とは言えゼロと藤堂がいる島で、扇たちの世話だけすればいいのだから精神的な苦痛などさほど無く、肉体的に辛いだけだった。 実体を得るまで見てきた感じでも、敵味方の垣根を超えてルルーシュを中心に皆がまとまり、扇やコーネリアを見捨てる事無く全員でここを抜け出そうという意志で統一されている。恐ろしいと思うのは、この環境も十分すぎるほどの重圧のはずだが、ルルーシュは息をするかのごとく当たり前に彼らを導いているということだ。やはり、指導者としての器が有るのだと理解する。 今はその心と体を守るため、病を再発させないための環境を周りが整える必要はあるが、逆に言えば周りはたったそれだけのことに注意すればいいのだ。 その環境の基盤として、枢木スザクという存在は不可欠だと言うのに、C.C.はあっさりと切り捨てる発言をした。それは避けなければと、卜部は口を開いた。 「扇たちの相手は想像以上に疲れるからな。それよりも、枢木スザクをコーネリアとユーフェミアのもとに行かせるのは反対だ」 「なぜだ?」 C.C.は探るような視線を向け、スザクもまた鋭い視線で卜部を睨みつけていた。 「ユーフェミアは、成長しようとしている。まあ、死んでからの成長など意味は無いかもしれないが、それでも変わろうとしている」 「・・・どういうことだ?」 「クロヴィスは知っていると思うが、ユーフェミアは実体のないままの状態で暫くこの拠点に居た。いや、ここだけではなく、扇たちのところも、コーネリアのところも見ていた。この3つの拠点を見ているうちに、姉であるコーネリアの傲慢さに腹を立てたようだ。そのあたりはC.C.とラクシャータはよく知っていると思うが」 「ああ、あの皇女様は口だけで何もしない邪魔者だったからな」 「そう、自分の姉は素晴らしい人間だと信じていたが、傲慢な態度を見続けて失望したと言っていいだろう。ここでクロヴィスが一般人と一兵卒とともに、共存している姿を見ていたから、余計に姉の言動を許せなかったようだ」 腹違いの弟に、いいところを見せたかったからではあるが、それを差し引いてもクロヴィスはよくやっていた。今のクロヴィスなら、ルルーシュなしでもこの拠点をまとめ上げることができるだろうと思えるほど成長もしている。 「だから、妹である自分が姉の目を覚まさせるのだと言っていた。枢木スザク。もしあの拠点に向うと言うなら、ユーフェミアの決意と行動が無駄になる。彼女が実体化したのは、間違いなくそのためだ。邪魔をすれば、彼女はまた身体を失うだろう」 実体をどうやって手に入れるかなどわからないから、これは口から出まかせにすぎないが、自分たちと違いユーフェミアは身体のない状態でも干渉できた。その状態で安定していた。だが、姉のもとに行くと決め、コーネリアの拠点付近まで移動したときに実体化した。それまで何度もあの場所に行き来していたのに、決意した途端に身体を手に入れたのだ。全く関係ないとはいえないだろう。 「おい卜部、余計なことは言うな」 スザクをここから追い出す絶好の機会なんだとC.C.は言うが、ルルーシュの精神安定を考えたら絶対に手放せない駒だとわかっているだろう、と卜部は思わずC.C.を睨みつけた。そのC.C.の口元が弧を描く。 なんだ?と思ったのは一瞬で、スザクの表情が変わったことに気がついた。その口元を幸いスザクは見ていなかったが、クロヴィスはそれを見てはっと気がついた。 「スザクはユーフェミアの騎士だからね。主の元に馳せ参じるのは騎士の勤めだ。ルルーシュのことなら気にしなくていい。これだけの人数がいるのだから、スザクがいなくなっても問題ないだろう」 「主が望まなくても、主に疎んじられても、主が消える原因となっても、騎士だから行かなければな?」 クロヴィスは藤堂達がいるから大丈夫だと言い、C.C.はスザクの意志がどれだけユーフェミアにとって害悪かを口にした。それはただただスザクの神経を逆なでする言葉であったが、そのため相反するクロヴィスの言葉が頭に残る。嫌な言葉を無視し、耳障りの良い言葉を反復する。そう、自分はユーフェミアの騎士だ。これだけ人数がいるなら、自分が居なくてもルルーシュは安全だろう。 安全・・・? そこで、はっと気付かされる。 黒の騎士団だらけのこの場所に、C.C.がいるこの場所に、ルルーシュを残すということは、ゼロの記憶が戻る可能性が高いということだ。ルルーシュがゼロに戻り、ここにいる騎士団員をまとめ上げる可能性が高い。ユーフェミアの名前を聞いたことで一時忘れてしまった大事な、今の任務を思い出す。ルルーシュを残しては行けない。では連れて行くか?拠点が移っても、ルルーシュの知識と自分の運動能力があれば、住みやすい環境を再び作ることは可能だ。 だが、あちらにはコーネリアがいる。 ユーフェミアとヴィレッタはルルーシュのことを知っているから話を合わせてくれるだろうが、コーネリアは無理だ。死んだはずの弟であるルルーシュそっくりの人物だと言っても聞き入れるかどうか。「おまえは我が弟ルルーシュだ。戦争の混乱で忘れてしまっているのだろう」とか言い出したら止めることなど出来はしない。 そのルルーシュがユーフェミアの仇であるゼロだと知ったらどうなるか。 危険だ。 ここにいる以上に、危険な気がする。 ふと、にやりと口元に弧を描いたC.C.と目が合い、C.C.がその意図を持って煽っているのだと気がついた。ここから離れる訳にはいかない、ユーフェミアの元にはいけないと悟る。それらの思考も全て、老獪な魔女が誘導したものだと気づくことは無かった。 |