いのちのせんたく 第152話


「どう考えても、絞殺ね」

重苦しい空気の中、ラクシャータが言った。
首に残された手型の痣は、明らかにこの首を絞めた時のもの。
これだけくっきりとした痕がここに残る理由などそれしかない。
殺す目的で、首を絞めたのだ。

「・・・蘇生は無理か」
「問題は、それよ」

藤堂の言葉に、ラクシャータは言葉を濁した。川の水で体が冷えたにしても冷たすぎる。絞殺ならそれなりの時間が経っている可能性が高い。蘇生処置は失敗し、脈もなく呼吸もない今の状態を死んでいる、これ以上の処置は無駄と普通なら判断する。そう、普通ならば。
何やら思案したあと、クロヴィスを手招きした。

「わたしにできることが?」
「ちょっと、手を貸して」

手を?なにか手伝うことが?と思ったが、その言葉通りクロヴィスの手に用があったらしく、返事を聞く前にラクシャータはクロヴィスの右手を取った。手首に指を当てている様子から、脈を測っているのだとわかった。

「もういいわ、ありがとう」

納得したとは思えない表情のままラクシャータは手を離し、再び思案し始めた。忘れがちになるが、クロヴィスは死者だという。この情報が正しいなら、クロヴィスのバイタルはどうなっているのか気になったのだ。だが、バイタルサインは正常。体温も感じる。これが死人だなんていまでも信じられない。

「そもそも、永田って死んでいたんでしょう?」

軽い口調で言ったラクシャータに、スザクは眉を寄せた。

「たしかにそうかもしれませんが、でも、」
「ストップ、熱くならないで」

スザクの言葉を遮り、ラクシャータはルルーシュを見た。
どう思う?と無言で尋ねる。
その表情から、ルルーシュも同じ結論に至ったはずだから。

「問題ないだろう、しばらく寝かせて様子を見ればいい」

あっさりと答えを出したのはC.C.だった。

「寝かせておく?何でそんなことを」

埋葬するためにではないことを察し、スザクが言った。

「これは、死者だ。クロヴィスもな。誰がやったかは3択だろうし、それに関しては対処できるから、今はそこまで問題ではないだろう?問題は死んで時間が経っているのに、死の兆候がないことだ。まあ、死んだ直後という可能性もあるが」

ラクシャータが確かめたのはそういうことだ。
最初は何を?と思ったが、今考えれば当然の疑問だろう。

「ないから、何?」
「わからないか?死者を殺すなんて、言葉にしただけで笑えると思うんだが?」

ゾンビを殺す物語はよくあるが、それはあくまで物語だ。
そもそも死者が、すでにその肉体が朽ちた存在が、新たな身体を得動き回っている現状は、不老不死の自分が言うのもおかしな話だが、非現実的すぎる。
不可思議な力で現れた死者が再び動き出す可能性は、人間が不死になるよりも遥かに高いのではないだろうか。生きているような死体というのはたまに見るが、それでもやはり死体としての特徴は現れる。だがこれにはそれがない。と、いうことは。

「つまり、生き返る可能性があると?」

藤堂の言葉に、ラクシャータは頷いた。
死者が死者として生き返るという言葉もおかしいが、再び目を覚ます可能性はあると見ている。そもそも、生者の常識が通じるはずがない。

「クロヴィスたちの体の構造はわからないけど、今まで見てきて気がついたのは、多少の怪我や火傷はあっという間に消えること。まるで不死身の体のようにね」

温室育ちの皇子様がこの環境で大きな怪我もなく病気にもならず平然としていられるのは、この特異な身体だから。
今は、永田本人が殺されたと認識しているから、心臓も呼吸も止まっているだけではないか。生きているように見えても生者ではなく死者は死者。殺されようと何しようと、永田が死者であることに変わりはないのだから。

「見て、首の痣。さっきより薄くなってる」

言われてみれば、徐々に色が薄まっている。あと少しで完全に消えてしまうだろう。これ一つとっても、この体は普通ではないとわかる。

「・・・不老不死ということか」
「そんなところかしらね」

C.C.が感情無く言った言葉に、ラクシャータは同意を示した。

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