いのちのせんたく 第153話


永田の死体は、それから1時間後に普通に目を覚ました。
まるで昼寝から目を覚ましたかのように。
これで、死者が再び死ぬことはないことが証明された。
とはいえ、絶対に蘇生できるとも限らない。
だからこの件に関して検証はしなかった。

目を覚ました永田は最初かなり困惑していた。
それは突然場所が移動し、この拠点に来たことに対する困惑なのか、自分が殺されたという異常事態にいまだに心が追いついていないのかはわからなかった。何があったのか、永田に聞いても「よくわからない」とはぐらかされて答えてはくれない。だが、その態度と表情で、知っていて答えないのだと皆は気がついた。
木材を運び終えたカレン達も合流し、今日の作業は終了。後は火の入った石窯を交代で見張るだけということになった。
C.C.の希望と永田と卜部の歓迎会もかねてワインが振る舞われ、美味しい料理に舌鼓を打ちながら皆が楽しそうに食事を楽しんでいる時、C.C.とラクシャータ、藤堂は石窯の近くに居た。
石窯の様子を見るには人数が多いが、女二人では心配だと藤堂が言えば皆はそれ以上言わなかった。久々のアルコールと美味しい料理、そして卜部と永田がいることで、石窯にいる三人のことなど皆すぐ意識から外した。
持ってきたいくらかの料理とワインを飲みながら、状況を整理する。
この場にルルーシュを呼ばなかったのは、スザクの監視があるからだ。ルルーシュの意見が聞けないのは残念だが、下手な情報をスザクに渡す訳にはいかない。最初は藤堂とラクシャータの二人でと考えていたが、C.C.を呼んだのは思いもかけない情報を彼女が持っていることが多いからだった。

「おそらくは、扇だな」

藤堂が言った。
卜部の話も合わせれば、一番可能性が高いのは扇だった。
まさかあの日和見主義がか?と、C.C.は眉を寄せた。
仲間が大事だとうるさいぐらい言う男だ。
あいつの言う仲間は、黒の騎士団というよりも自分のグループのメンバーの意味合いが高い気もするが、それであったとしても永田は仲間の枠に余裕で入るはず。それを手に掛けるなんて想像もつかない。

「5人目が現れた可能性もあるんじゃないか?」
「その場合も黒の騎士団の誰かということになるわ」
「どうしてだ?」

意味がわからないと、料理を口にしながらC.C.が言った。

「簡単よ。首を絞めた手の痕が2種類あったの。最初の痕は、正面からだったわ。そして背中と足の裏側に打撲痕、手に擦過傷。頭に鈍器で殴られた痕。おそらくだけど永田が抵抗して一度首から手が離れ、逃げたところで頭を殴られ、倒れた」

後はただの暴力。そして最後に。
傷はルルーシュも見ていたから、おそらく同じ結論を出しているだろう。
正面から抵抗もせず首を・・・ということは、警戒をしなくていい相手で、直前まで雑談していた可能性が高い。黒の騎士団と言ったが、永田は結成前に死亡しているから、元扇グループに限定される。だが、新たにここに流れ着き、永田と出会ってすぐに殺す可能性は、限りなく低いはずだ。

「だが、何でそんなことをしたんだ?人を殺すメリットなど、今はないだろうに」

むしろ、デメリットしかない。
しかも、動機もわからない。

「メリットが有るかどうかは別として、こんなおかしな島に長期間居たら精神的におかしくなる可能性は高いわ。死者と一緒になんて普通は無理でしょ」

ここの連中が適応している方が、異常なのよとラクシャータは言った。たしかに、非常識な島で死人と暮らすなど正気の沙汰ではない。

「扇は副司令なわけだし、自分がどうにかしなきゃって責任感でも湧いちゃったのかもね」
「・・・・いや待て。もし扇が犯人だとすれば、もっと単純だ」
「ほかに何があるのよ」
「常々聞かされてきたわけだが、死者であるクロヴィスたちは、死後私達のことを見ていた、いや、感じていたのだろう?」
「そんな話をしていたな」

藤堂は同意を示しながらワインを口にした。

「なら簡単だ。卜部が死んだのはブラックリベリオンより後だが、永田はゼロが現れるよりも前だ。扇が知られたくない事実を、永田は知っている。それだけだ」
「我々に隠し事をしていると?」
「それも、知ってる人間を殺すほどの内容ってこと?」

あの、扇が?
それはないだろうと二人は苦笑したのだが。

「記憶をなくしたルルーシュの監視役として、アッシュフォード学園の教諭をしている軍人がいる。名はヴィレッタ・ヌゥ。ブラックリベリオンで扇を撃った女だ」

本来なら、この情報の開示はルルーシュの許可がいるだろうが、そうも言っていられない。もし扇が犯人なら、厄介だ。あれは平時では仲間を大事にする男で、頼りがいはないがいい人だからと信用されている。だから、仮面の男という不可解な存在よりも、一部の部下からの信頼があるのだ。
元の世界に戻ったときに、扇が馬鹿なことをしでかした時、ゼロだけでは対処しきれないことが置きかねない。ならば、扇よりも信頼されている藤堂とラクシャータを引き込んでおくほうがいい。これは、保険だ。

「あなた、扇を撃った奴を知ってたの?」
「扇の協力者だと聞いていたが、ブリタニア軍人だったのか?」

扇だけが知っていた地下協力員。
結局、その人物に関して扇が話すことはなかった。
だから、それが誰か分からずじまい。
あの戦争の中、一瞬見ただけの女性の顔を覚えている者はいなかった。

「ああ。しかもあの二人は男女の関係にあった」
「・・・情報はブリタニアに筒抜けね」

なにせ組織のNo2だ。多くの情報を持っているのだから、ハニートラップを仕掛けられてもおかしくはない。
藤堂は、敵を懐に入れるとはと、怒り顔を歪めた。

「そうでもない。女はブラックリベリオンのあの日まで、扇がテロリストだということを知らなかった・・・いや、忘れていた」
「忘れて?」
「女は、記憶喪失だった。おそらく、黒の騎士団との戦闘で傷を負ったんだろう。それを見つけた扇は自分の家に連れ込んだ。後は、わかるだろう?」
「・・・あの、扇が?」

にやりと笑うC.C.の表情でラクシャータは悟ったが、あの扇らしからぬ行動に流石に信じられないと口にした。

「・・・どういうことだ?」

この手の話には疎い朴念仁が首を傾げたので、ラクシャータとC.C.は、本気かこの男、千葉も大変だなと思わず顔をしかめた。

「つまりだ。戦闘で怪我をし、記憶をなくした女と男女の関係だったんだ。女は記憶を取り戻し、扇を殺すために撃った。当然だろう?自分はブリタニア軍人で、相手はイレブンのテロリスト。しかもヴィレッタは純血派だった」

ここまで話してようやく藤堂は理解した。
ヴィレッタは皇族に仕えるガチガチの軍人だ。しかも地位にかなりの執着を示している。それを先日まで間近で見ていたラクシャータとしても、彼女が自分の意志で扇の恋人になるとは思えなかった。

「記憶障害を起こした怪我人を病院に運ばずに、っていう時点でらしくない行動だけど。まあ、彼女は美人だから・・・」
「先に言っておくが、ヴィレッタはすでにルルーシュの配下だ。記憶がないとはいえイレブンと通じた事実は、致命的だからな。公表されれば爵位は剥奪され、下手をすれば口封じをされる。そこを突いて引き込んでいる」

彼女は身の破滅を避けるため、ルルーシュの配下になるしか無かった。そして、配下になったということはこれら全てを肯定している事にほかならない。

「・・・本人の意志じゃなかったんでしょ」
「それでも、だ。イレブンと関係を持っただけでも十分すぎる。扇は同意の上だと、愛し合っていたのだと言うかもしれないが・・・記憶のない人間、しかも銃で撃たれ怪我をした人間に、『自分が助けた。きみを狙っている人間が何処かにいる』と言われてみろ。自分を助けた男を盲目的に信じ、優しい人だと錯覚しないか?理由もわからず命を狙われていることに恐怖し、ただ1人の味方にすがりつきたくならないか?」

それは吊り橋効果どころじゃない。
記憶が戻った時、ヴィレッタはどれほど絶望しただろう。

「最低ね」

ラクシャータは吐き捨てるように言った。

*****

このやり取り多分まだ書いてないよね?
書いてないと信じる。
(過去に書いた内容覚えてないです)

藤堂さんは何も言わないけどめちゃくちゃ怒ってます。

152話
154話