いのちのせんたく 第154話


「という話をした」
「そうか」

スザクの目をかいくぐり、C.C.はルルーシュに昨夜の話をした。 ヴィレッタの話は余計だろうと思ったが、扇を知る人間はあの男の優しさを信じきっている。もし、本当に扇が犯人だった場合、その信頼が命取りになりかねない。一介の学生である自分が扇の人となりを知っているのはおかしな話だから何かあったときに手出しができない。C.C.が突如この話をしても、場合によっては嘘だと一蹴されてしまう。
そういう意味では藤堂とラクシャータと情報を共有するのは悪くない手だ。藤堂の言葉なら四聖剣とスザクは信じるし、ラクシャータの言葉ならセシルは信じるだろう。あとの問題はカレンだけだ。兄の親友だった扇を盲信しているところがあるから、場合によってはこちらを捨て扇に協力するおそれがある。
ゼロへの信頼と扇への信頼。どちらが勝っているかは測りかねる。

「だが困ったな。卜部を戻せば永田の二の舞いになりかねない。かと言って藤堂を行かせるのもリスクが高すぎる」

これで生存能力が高いならいいのだが、そうでもない。
不安しかないメンツだ

「しばらく放置すべきだろうな」
「やはりそうなるか・・・永田の話では玉城と南は大丈夫だろう。扇は自分の身内だけになった今、ようやくまともに行動できる可能性はある」

この場合の身内は、扇グループを指す。
基本は抑えて教えていたから、後は扇のメンタル面を支え、行動をしてさえくれれば、食料が豊富なこの場所で死ぬ確率はぐんと減る。

「だが、流石にここまで人が増えると手狭だな」

今まで3人だった場所に、一気に人が増えすぎている。

「それは考えている。あくまでもここは拠点にすぎないからな。今日中に家も完成するから、その後手を伸ばす・・・が」
「何か問題でもあるのか?」
「永田が川を流れてきたのが引掛かる」
「森で殺されたのに、か?森だと発見が難しいから川にしたんだろう」

扇が川に流すはずがない。だからこの箱庭のカミサマとやらが。

「おそらくな。つまり、人を・・・この場合人と考えていいかは微妙だが、簡単に瞬間移動させることが出来るということだ」
「ああ、あちらからこちらにか」

太陽の位置の話を蒸し返すなら、この土地と重なっている別の空間に有るものを簡単に移動できるということになる。

「その時点で、いま開拓の進んでいる場所以外、自分の認識した場所であっているのか不確定になった」

見晴らしがよく人の出入りがある開拓済みの場所は認識したままの位置にあると考えていいはずだ。だが、他は。

「真っすぐ歩いているつもりが、実は直角に曲がっていた、という事はたしかにありえるな。だが、考えても仕方がないだろう?」

A地点からB地点に移動させられていたとしても、常に同じ位置に移動されてたら気づきようもない。

「そうだな。まあいい。いまは一つ一つ手を進めるだけだ」

まずは、こちらの地盤を整えることを優先させる。
扇の問題はその後だ。

「さて、スザクが心配する前に戻るか」
「そうだな、自称騎士様は嫉妬深いからな、お姫様を返すとしよう」


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「永田のやつどこ行ったんだろうなぁ?」

ぱちぱちと爆ぜる焚き火の中にさつまいもを押し込みながら玉城は言った。卜部は藤堂のところに行くと聞いたが、永田が何処かに行く話は聞いていなかった。昼寝前に見た雰囲気も、いなくなる感じではなかったのに

「扇は、何も聞いていないんだよな?」

南が確認すると、「あ、ああ。聞いていない」と、扇は力なく言い、うつむいた。玉城と南は休憩したが、扇は休んでいない。いくら体力が回復したと言っても、一度壊した身体が完璧に治るには時間がかかる。疲れが出て、ぶり返したらマズイから、扇は休ませたほうがいいだろう。

「今日の晩は芋でいいだろ。食ったら扇は寝ろ」
「いや、だが・・・そうだ、畑を作らないか?」
「畑?」
「ああ。今まで遠くまで取りに行ってただろ?でも近くに畑を作れば、簡単に食べ物を集められる」
「だが、育つには時間がかかるだろう?」
「永・・・、田の話だと、この島は植物が育ちやすいらしい」
「へー。じゃあ、どこに畑作るか決めようぜ!」

このあたりの地形はある程度把握した。
どこに作れば便利か玉城と南は考え始めた。
それを見ながら、扇は揺らめく炎を見つめていた。
頭が働かない。
俺は、今まで何をしていたのだろう。
両手を開き、それをじっと見つめる。

「俺は・・・」

この手で。

「なんか言ったか?扇?」

永田を。

「玉城、少しそっとしておこう。疲れているんだ」
「それもそうだな」

知られていた。永田に。
敵の、ブリタニア軍人と関係を持っていたことを。
一瞬で頭に血が上り、気がついたらこの手で、永田の首を絞めていた。偽物のくせに、永田のふりをして俺たちを惑わせる。今の日本にこんな技術はない。だからこいつは、ブリタニア人だ。ブリタニアが俺たちを分裂させるために送り込んだんだ。逃げようとした永田を殴りつけると、足をふらつかせ地面に倒れた。逃げられたら困ると足を手を背中を蹴り上げ踏みつけ、立ち上がろうとしたのですかさず馬乗りになり、首を絞めた。俺たちを信用させた後裏切るつもりなんだろう。俺達は、モルモットじゃない。C.C.のような人体実験など御免だ。
どれだけそうしていただろう。
気がついたら永田はピクリとも動かなくなっていた。
その時ようやく、人を殺したのだと理解した。
永田を、殺したのだと。
戦闘ではなく、自分の感情に任せて殺したのだと。
怒りが引いて冷静になり、自分がしでかしたことに恐怖した。
急いで蘇生させなければと思った時、永田は消えた。
それを認識した瞬間、俺は地面に尻もちをついていた。
永田の上に乗っていたのだ、その高さ分落ちたのだ。
先程までそこに居たのは間違いなく、永田が残した爪痕が地面にもくっきりと残っていた。だけど、永田は居ない。

「なん・・・で」

幽霊だからだ。
幽霊だから、消えたんだ。
ほら、誰かが言っていたじゃないか。
俺達が心配で、化けてでてきたんだと。

「ほんとうに、永田・・・だったのか?」

おれは、永田を、殺したのか。
いや、殺したのだ。永田を。
俺達のために来てくれた仲間を。



「まあ、永田は幽霊だったからな。やっぱり、いきなりいなくなっちまったが、またひょっこり戻ってくるかもしれないだろ!そんな落ち込むなって!」

ばしん、と力いっぱい背中を叩かれて扇は我に返った。
無意識に「永田」と呟いていたらしい。

「そうだぞ扇。永田が戻ってきたときに呆れられないようにしよう」

何も知らない玉城と南の言葉に、扇は知らず涙を流していた。

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