いのちのせんたく 第158話


ユーフェミアの知識の源。
それはルルーシュたちの拠点を見て得た知識だ。
ルルーシュの名前もスザクの名前も出せない。クロヴィスから得たと言ったところで、すぐにば嘘だとバレてしまう。だからユーフェミアは、黒の騎士団の拠点も見ていたので、それで覚えたのだと嘘をついた。黒の騎士団のトップであるルルーシュが主導し整えた拠点で、今は大半が黒の騎士団のメンバーだから嘘とは言えないのだが、黒の騎士団の拠点は扇たちのところで、あそこをルルーシュたちの拠点と認識しているユーフェミアにとっては小さくても嘘になるのだ。嘘に慣れていないユーフェミアの小さな嘘が発言に違和感を与え、彼女の発言は真実ではないのではないか?とコーネリアが疑う要因となっていた。

「前に言っていた、黒の騎士団2つの拠点で、か」
「はい。正しくはそのうちの一つ、クロヴィスお兄様がいるところでは、畑もあり、魚は海と川どちらも仕掛けを施して、毎朝食べる分を手に入れていました。海水から塩も作っていたんですよ。あ、私たちも塩を作りましょう!」

大切なことを忘れていたとユーフェミアは言った。
別の話題を出して、この話を終わらせたかったのもある。
いつ自分がボロを出すか、ルルーシュたちのことを口にしてしまうか不安なのだ。

「なぜ、両方の拠点で作っていない」
「え・・・あの、それは。・・・」

両方の。つまり扇の拠点でなぜそれをしないのか。ということだ。どちらも黒の騎士団の拠点ならば、同じレベルで生活していなければおかしいという、ごく普通の疑問。言うべきかどうかしばらく思案したあと、ちらりと、ヴィレッタの顔をみてからユーフェミアは話し始めた。あの拠点で起きた惨事をしれば、コーネリアは少しは考えを改めるかもしれない。

「もう一つの拠点には、黒の騎士団の幹部の人たちがいるんですが、その方たちは今のお姉さまのように、周りに命令するだけで何もしないため、他の方たちといつも口論していました。6人も男性がいたのに生きるのが精一杯な状況が続き、結局他の者たちはそこを離れ・・・もう一つの拠点に移動したのです」

ユーフェミアに似た者は、自分をバカにした。しかも黒の騎士団の無能と同列に置いた。そう考えたコーネリアは表情を険しくした。

「多少の薬があっても、体を壊せば死ぬかもしれないこの島で、病気にならずにいるためには、皆が心にも体にも余裕ができる環境づくりが必要だとは思いませんか?皆を生存させるためどうすればいいのかを考え、協力し、それを実現させるのが上に立つ者の役目ではないでしょうか」

お姉さま一人が楽する環境ではなく。

「・・・」

コーネリアは何も言わず、ヴィレッタはオロオロと二人を見ていた。

「もう一つの拠点では、皆が同じように働いています。クロヴィスお兄様もです。それでも誰も不平不満は言わず、トップの指示に従い、生き残るために必要な環境を整えていっています。私はお姉さまに、あのように皆に慕われる指導者であってほしいのです」
「環境を整えるということは、いつまでもここにいるということか?我がブリタニアが、いつまでもこの状況を放置していると?」
「お姉さまは勘違いをしています。まず、お姉さまが総督の地位を放棄し失踪したとき、お父様は捜索はしなくていい、好きにさせよと言っていました。ヴィレッタが失踪したとしても、大規模な捜索がされるとは思えません。・・・それ以前に、ブリタニアがここに救援を送ることはできません」
「・・・どういうことだ?」

皇帝の判断は、あり得ることだし、ヴィレッタ一人のために軍を動かすことはないと言える。だが、この島がブリタニアの、皇帝の研究施設なら・・・。


「お姉さまはすでに気付いているはずです。ここが、お姉さまたちの知る世界ではないことを。異常な植生、異常な生態系、異常な天候。何よりこの世界は閉ざされています。海の向こうに、世界は存在しません」

救援はいくら待ってもこない、そういう世界です。
ユーフェミアは、二人に現実を突きつけた。





「お前はそう考えたか」

どうにか隙きを作り、C.C.と二人きりになったルルーシュは自分の見解を述べた。ここは、現実とは異なる世界。今思えば、この世界に入るときに感じたのは、C.C.と契約をしたときのようなあの不可思議な感覚。精神が世界と切り離されたような・・・。そして、スザクが現れた時のあの文様。式根島から神根島へ、そして神根島の遺跡が崩れた時のあの力。すべてギアスに絡んだものだろう。太陽の位置の矛盾からも、この世界は現実とは異なる場所にあるのだと証明されている。
延々と語られた言葉に、C.C.は頷いた。

「おそらくは虚数の海に作られた空間だ」
「なるほどな。それで?言っておくが、私は何もできなかった」

C.C.の干渉で変化が起きることはないと告げると、ルルーシュはわかっているといった。C.C.がこの世界を維持する理由もないだろうし、何かしらできるなら、女性たちを守るために無茶な行動などしなかっただろう。

「俺が聞きたいのは、コードとギアスについてだ」
「コードとギアス?」
「そう、この不可思議な能力、そして、あの神根島の遺跡。お前はあの遺跡の扉の奥にナナリーがいると言ったが、どう考えても、あれはただの壁と文様だ。扉ではない。あの壁を壊したところであるのは岩盤だけだ」
「・・・そうだな」
「だが、あの状況でお前が嘘をつくとは思えない。つまり、あの壁は扉となり、その先にナナリーがいた」

C.C.は嘘を嫌う。そして悪質な冗談は言わない。そう信じたからこそ、あの日あの時あの場所に向かったのだ。

「そうだ」
「誰でも使える扉なら、厳重な管理がされているはずだが、その痕跡はなかった。長い間放置されていた遺跡に、ブリタニアが・・・シュナイゼルが興味を持った。だが、開けることはできていない。つまり、コードあるいはギアスを持つものだけが使える扉ということだ」

コードだけに反応するなら、C.C.はルルーシュ一人に行かせなかっただろう。コードあるいはギアスが鍵となり、通ることの出来る扉となる。

「あの扉は、世界の何処かにある別の扉と接続する移動装置である可能性はあるが、ただ移動するためだけのモノだとは思えない。となれば、答えは一つ。あの扉の先には、本来存在しないはずの空間が広がっているということだ」

この世に、地球上に存在するはずのない空間が。

「だから虚数空間か」
「間違っているか?」
「いや、あの遺跡の扉は、異なる空間につながっている。この世に存在しない世界が。その異なる世界を歪め、つなげ、別の扉から外に出ることも可能だ」

世界の何処かに移動することは可能だと訂正した。だからこそ、V.V.はあそこにいたのだ。あの空間からブリタニアへ移動するために。

「ならば、出る方法はあるということだな?」
「あの扉から入ったわけではないし、出るためのモノはなにもない。言っただろう、ここでは何もできなかったと。Cの世界に通じるあの場所と同じなら、私はとっくにここから出ている」

ここに居続ける理由はない。さっさと全員を現実世界に返して、いまごろソファーに転がってピザを食べていたはずだ。

「Cの世界?」
「集合無意識、輪廻の輪、神と呼ぶものもいる」
「なるほど、あの遺跡は神の座へ行くための祭壇というわけか」

普通であれば、神などいるはずがないと一蹴するが、コードとギアスが存在し、不老不死の魔女もここにいる。そしてこの空間。嘘を嫌う女が嘘をつくとも思えない。ならば神と呼ばれる何かが存在しているのだろう。だがそれは、今は関係のない話だ。

「それで?何が聞きたい」
「スザクが現れた時、ギアスの文様が海岸に浮かんだ。ギアスが無関係とは思えない。もし海底にある遺跡が門の代わりをするとすれば、最悪だな」
「私は出られるが、お前たちは無理だな」

潜水艦が作れるなら可能性はあるが、生身で水圧に耐えられるのはおそらく体力馬鹿師弟とカレン、四聖剣だけ。ルルーシュと科学者はまず無理だし、扇たちも無理だろう。門が開くまでどのぐらいの時間がかかるか、門をくぐるのにどれだけかかるか、閉じるまでどのぐらい猶予があるか。その先がどうなっているかもわからない。一か八かの賭けだが分が悪い。

「となれば、先に調べるべきは卜部が言っていたものだな」
「なにかがあるというあれか。私が見てくるか?」
「いや、今はだめだ。扇達のことを考えれば、それなりの準備も必要だ」
「私は殺されても問題はないだろう」
「死んだ人間が生き返れば、扇たちは更に手に負えなくなる」

それもそうかとC.Cは納得した。
死なないバケモノをまともに扱う人間など、ルルーシュぐらいだろう。普通なら、恐れおののき、バケモノだと判断し殺しに来る。嫌なぐらい、経験したことだ。

「だが、あまり長い時間ここにいるのも問題なんじゃないか?」

すでにここに来てどれだけの時間が立ったのかわからない。
だが、1・2ヶ月ぐらいは経過しているはずだ。

「時間が、普通に流れていればな」
「どういうことだ?」
「少なくとも、1日の時間はその日によって異なっている」
「どうしてわかる」
「数えればわかることだ」

日の出から日の入りまで。毎日は無理だが、太陽が特定の木の上に現れてから、特定の木の影に隠れるまでの時間を数えるようにしている。日によっては数時間ものずれが生じているし、スザクの体内時計でさえ完全に狂っている。

「多少のずれはあっても日が落ちまた登っているのだから、日数は経過しているだろう?」
「そうともかぎらない。例えば木の実などは収穫した数日後に突然全ての実がなる。まるで、収穫する前の状態に巻き戻されたように」
「・・・お前、まさか」
「時間が一方向に流れているとは限らない。見ろ」

そう言ってルルーシュは上着をぬいだ。
上半身裸になったルルーシュの体に、異常は見られない。

「どこもおかしなところはないぞ?」
「だから問題なんだ」

ルルーシュはここに来てから体に色々と怪我をした。
怪我を負った頃は徐々に治癒する様子が見えたが、ある程度治り、その怪我が意識の外に行っていたある日気がついた。怪我の痕跡が、ひとつも残っていないことに。
クロヴィスの怪我が消えるのは、生き返った長田のことがあるから同列には考えられないが、スザクだって擦り傷、切り傷は作っていたし、カレンたちも以前会ったときにあった怪我が今はきれいに消えて無くなっていた。擦り傷、切り傷ばかりだったが、それでも全員きれいに消えるものではないはずだ。

「なるほどな。この島の生態系だけではなく、ここにいるお前たちの体も、時間の逆行の影響を受けている可能性があるわけか」

無限に採取できる植物も、採取前に戻っただけかもしれない。畑や整えた道、作った道具類がそれを否定する材料になるが、こちらに都合のいい世界である以上、それらは逆に時間が通常通り流れていることを錯覚させる舞台装置である可能性がある。

「全ては机上の空論だが、もしそうなら焦って駒を進めるのは愚策だ」
「まあ、お前がやりたいようにやればいい」

私は、お前が死なないよう協力するだけだと魔女はそっけなく答えた。

157話
159話