|
「そう、そのままスッと、そう、そうです。上手ですよ兄さん」 スザクが持ってきた魚を干し物にするため、ルルーシュの指導の元、クロヴィスは魚を捌いていた。 もちろん、包丁を握るのはこれが初めてである。かなり時間がかかったが、ようやく一匹目を開き終え、クロヴィスは深く息を吐きだした。 「ふぅ、料理というのは難しいものだね、魚を捌くのがこんなに難しいとは思わなかったよ」 「初めてでこれだけ捌けるのはすごいですよ。器用なんですね兄さんは」 ニッコリと笑いながらルルーシュが褒めると、クロヴィスは嬉しそうに笑顔を向けた。 「本当かい?よし、じゃあ次はどれを捌けばいいかな?」 「そうですね、これなんか良さそうですね」 「よし、ではやってみよう」 芸術という名のつくものは、何でも手を出していたクロヴィスである。木を掘ったり削るため刃物を扱った経験が生きたのか、包丁の扱いが予想以上に上手かった。 懇切丁寧に指導するルルーシュと、真剣にその指示を聞き、ゆっくりと魚に包丁を入れるクロヴィスを見ながら、スザクは干し物にはせず、お昼に食べることになった小魚を手際よくナイフで捌いていた。 この状況も、ルルーシュがいるからなんだろうな。 死んだはずの弟、死んだ自分。本来二度と話すことさえ出来ない状況だったのに、こうして話すことが出来るようになった。だからこそ、本来皇族がするような事ではなくても、弟のためなら、弟が喜ぶのであれば全力で取り組むのだろう。 なにせクロヴィスはあのルルーシュの兄だ。 ルルーシュのナナリーに対する超がつくほどのシスコンぶりを見慣れているから、兄であるクロヴィスがブラコンであっても驚くことではない。もしルルーシュがナナリーに殺され、今のような状況になったとしたら、やはり満面の笑みでシスコンを発揮するだろう。自分を殺した相手だとしても、ナナリーが犯人ならルルーシュは恨まない。恨むはずがない。だから、クロヴィスがルルーシュを恨んでいなくても不思議はない。 兄弟、か。なんかいいな。羨ましい。 ああ、でもカグヤみたいな妹はいらないかな。 ならルルーシュとナナリーで十分か。 「スザク、それが終わったら、人参と大根の皮を剥いてくれないか?皮はキンピラにするから厚めでいい」 「ああ、だからゴボウも持ってきたんだ」 「本来なら醤油や砂糖、鷹の爪とゴマが欲しいところだが、今ある物でもそれらしく作れるだろう」 ルルーシュは、左腕を釣っているため、開いた魚を右手だけで水洗いし、塩水に漬け込んでいた。 ちなみに塩は、今は煮沸ではなく、天日干しで作っている。 太めの竹を半分に割って、海岸近くの岩場の上に幾つも並べ、海に行くたびに海水をそこに満たして置いておくと、僕達三人が使うには十分すぎるほどの塩が採れた。 網目の細かいザルをルルーシュが作ったことで、にがりの除去も出来るようになり、塩の在庫は着実に増え、そのため、今まで保存食は燻製ばかりだったが、試しに魚の干し物に挑戦することになったのだ。 「そういえば、塩があるということは、大豆が見つかれば味噌や醤油が作れるのかな?」 「どうだろうな。たしか味噌や醤油には麹が必要だったはずだ。そして麹の原料は米だ」 「お米は流石になさそうだよね、欲しいのにな、醤油と味噌」 「普通に米も欲しいな。小麦と。大体醤油と味噌にはどれだけ時間がかかると思ってるんだ?」 「米と小麦は、人参や大根のように手に入る可能性はないのかね?」 「野生の米、つまり古代米である赤米、黒米、緑米。そして古代小麦。可能性は否定しませんが、俺は現代で使われている品種は写真などで見ていても、古代種は目にしたことがありません。なので見つける自信はないですね。竹林のように明らかにそれとわかるような群生の仕方をしていればいいですが、芋や大根などの根菜や、ヘチマや葡萄のように、雑草や野草の類に混ざって群生していたら難しと思います」 三人で話をしながらも、魚の処理は着実に進み、何かに使えるだろうとルルーシュが作っていた竹製の御座の上に並べて天日干しに入った。 「今日はあまり日差しが強くないから、このまま干しておけばいいだろう。さて、俺はこれから昼食の準備をする。下準備はスザクが全部してくれたし、後は煮たり炒めるだけだからな。右手だけでどうにかなる」 「本当に左手は使わないね?」 「使ったらお前にはバレそうだからな。これ以上怒られたくはないさ」 肩をすくめながら言うと、疑いの眼差しを向けられたが、それでもわかったよと、スザクは頷いた。それなら、とスザクは当初予定していた竹を取りに行き、クロヴィスも同じように念を押すと、この近辺の地質を調べてみると、鍬を片手にその場を離れた。 さて、今ある材料で、スザクの胃を満たす量で、なおかつ兄の舌を満足させる料理か。材料も調味料も、最初の頃とは比べ物にならないほど揃ったのだから、あとは俺の腕次第。食料の確保や探索をスザク一人に押し付けていたのに、こんな怪我などして殆ど動くことができなくなったのだ。ならばせめて、二人が満足する美味しい料理を作ってみせると、ルルーシュは釜戸の火に薪をくべた。 「C.C.これは?」 「どれどれ、ほう。いいものを見つけたじゃないかカレン。それはナズナだな、食べられる」 「やった。じゃあ私この辺の取るわね」 「C.C.~こっちはどう?」 「ああ、ゼンマイか。それは駄目だ。食べれるが、アクが強すぎて食べるまでに何日もかかるぞ。それよりも、その横に生えている大きな葉の、そう、それはフキだ。茎部分を食べることが出来る。アクもあるが、処理は楽だ。」 よく知ってるわね、とラクシャータは、鎌を使いザクザクとフキを刈り取り、セシルがそれをリュックに入れていった。カレンも収穫したナズナを別のリュックに入れている。千葉は先ほどウサギを見つけたと、狩りに出かけた。コーネリアとヴィレッタは相変わらず偉そうに拠点に居座っているが、今のままでは救援は来ないだろうし、このままでは共倒れになると、騎士団側とセシルの話し合いの結果、あの二人はとりあえず放置し、食料確保も含め協力する事となった。 最初千葉はセシルを拒否したが、ラクシャータが、セシルを混ぜないなら自分も動かないと言ったため、渋々ながら千葉は了承した。セシルがこちらを手伝うことで、コーネリアとヴィレッタの食料も確保できるため、あの二人もこの状況を見逃し、反対に自分たちのために働けと言わんばかりにふんぞり返っている。 「この辺で十分だろう、あまり取り過ぎても食べきれないぞ」 「それもそうよね、千葉さん、ウサギ捕れたかしら?」 「駄目かもしれないな、ならば、ほら、そこにいる丸々太った蛇でも捕まえておくか?」 「へ、蛇!?」 「何だカレン。蛇はうまいぞ?」 そう言いながら、C.C.はすたすたと160cmはあるだろうその蛇に近寄ると、ヒョイッとその蛇を掴みあげた。 「ふむ、アオダイショウか。安心しろ、毒はない」 腕に絡みつく蛇に動じること無くそう言うと、遠巻きにその様子を見ている三人に、C.C.は不敵な笑みを浮かべた。 持ち帰った山菜や蛇などの調理の指示はC.C.が行い、セシルとラクシャータが捌き、千葉とカレンが焼いたり煮たりと、役割を決めて行っている。なぜならセシルの恐怖の味付けを体験してしまい、ある種のトラウマを植え付けられたからだ。大鍋で煮こまれたそれらの味見をしたC.C.は、こんな物だなと、頷いた。 「なんだ、まだ出来ないのか。もう少し手際よく動いたらどうだ」 「コーネリア様をお待たせするな!急いで用意しろ!」 何もせず、偉そうに命令する二人に、千葉とカレンがあからさまに不機嫌な表情となったが「相手をするだけ無駄だよ」とラクシャータが言い、セシルが「ごめんなさいね」と謝るので、怒りをぶつけるわけにもいかなかった。どのみち、あの二人の相手はC.C.がする事になったため、口出しは禁止されている。 おかげで、最初の頃よりもだいぶ皆の体調も精神状態も回復はしたが、やはりいい状況ではない。長期戦になるのであれば、余計にこの二人をどうにかしなければ。この回復は所詮一時的、前より環境が良くなったことで気持ちの切り替えができたからだ。 「なっ、蛇だと!?そんなものをコーネリア様に食べさせるつもりか貴様!」 材料はなにか気になったのだろうヴィレッタが、セシルから説明を受け、その内容に驚き、文句を言い始めたのを見て、やれやれ仕方がないなと、C.C.はヴィレッタの元へと足を向けた。 クロヴィスは魚の捌き方(初級)を会得した 海で採れた魚で干し物を作った。 C.C.は数百年生きているだけあって知識は豊富だった。 女性組は多少まともな生活になっていた。 ルルーシュの腕を封じても、兄が動いてしまい意味なし。 刃物はスザクも難なく扱えるので更に意味なし。 クロヴィスはルルーシュと同じく手先は器用だと思います。 全然難易度が上がらないスザルルクロ組。 |