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泥の沼に全身が浸かっているようなだるさが不快だった。 そして、凍えるほど寒い。 全身が冷たく、手の感覚も足の感覚もない。 この場所から離れようと歩いているつもりなのだが、前に進んでいる感触はない。そもそも、どっちが地面なのかもよくわからない。心臓が早鐘をうち、息苦しさに拍車をかける。だが、こんな場所にいつまでもいる訳にはいかない。 帰らなければ。 ナナリーのいる場所へ。 ああ、でもあの子は今、ブリタニア皇帝の、あの男の手にあるのだ。 ナナリーを、取り戻さなければ。 はやく、はやく、あの子のもとへ。 焦り、もがけばもがくほど、ズルズルと引きずり込まれる。 何も見えない、何もわからない。笑えるほど頭が働かない。打開策も何も思いつかず、ただ手足をばたつかせる。 どうすればいい、どうすればナナリーのもとに帰れる? そんな時間をどれだけ過ごしただろう。 目が回る、吐き気が酷い。 ナナリー、ナナリー、なな、りー そのとき、優しい声が呼んでいることに気がついた。 「ルルーシュくん、目が覚めた?」 眩しい、明るい。そう思うより早く、声が直ぐ側で聞こえた。 声の主はセシル。 いつもと同じ優しく穏やかな笑みで「おはよう」と言った。 さっき聞こえた声は彼女のものなのだろうか? もう、どんな声だったのか思い出せない。 夢の記憶などそんなものか。 「おは、よう・・・」 話しづらい。声が、枯れている。 「のどが渇いたのね」 水を持ってくるわね、とセシルが部屋を出た。 ・・・部屋。 そう、部屋だ。見覚えのない部屋にいた。 荒く削った木材を組み上げて作った部屋。 組み立てていた家が完成したのか。 窓の部分もくり抜かれているため、青空が見えた。 そうだ、蝶番の部分をどうするかまだ答えが出ていないから、窓をとじることはできないんだったなと、思い出した。少しづつ寝ぼけていた頭が目を覚ましていく。 「・・・今は、何時だ?」 寝過ごした。 いや、この様子だと、何日か寝ていたのかもしれない。 くだらない夢を無駄に見続けていたなんて失態だ。 体を起こそうとしたが、思うように体が動かない。全力でどうにか上半身を起こした時、セシルが戻ってきた。 「ルルーシュくん、無理はしないで。やっと熱が下がったんだから」 ああ、やっぱりそうかとルルーシュは頭を抱えた。 また、体調を崩して行動不能になったのだ。 失態だと舌打ちをしたいところだったが、セシルがいる手前我慢した。 「はい、お水」 水で満たされたコップを手渡され、ルルーシュは素直に受け取った。 思った以上にのどが渇いていたらしく、ごくごくと一気に水を飲み干すと、セシルは水筒からまた水を注ぎ入れてくれた。 どうやらボケた状態で4日、その後熱で3日寝込んでいたという。 ・・・7日も。 どれだけ恥を晒せばいいんだ。 「やっと起きたか」 部屋に入ってきたのは、C.C.だった。バスタオルで髪を拭きながら歩く姿に、いままで温泉に入っていたことがわかる。セシルから聞いて上がったのだろうか。 「少しは顔色も良くなったみたいだな」 C.C.はずかずかとルルーシュのそばまで歩み寄ると、屈んで自分とルルーシュの額をあわせた。早朝まであった高熱が嘘のように引いている。これなら大丈夫だろうと、額を離した。 「セシル、交代しよう。あとの面倒は私が見る」 早朝までC.C.が看病し、そこからセシルと交代。C.C.は仮眠と軽食、入浴を終え戻ってきたところだった。ルルーシュの世話と看病であまり休んでいないC.C.だったが、若さからか短い休憩で疲れが抜けたように見え、いろいろあって疲れ切っていたセシルは、無理はしないでねといいおいて部屋を出た。 「・・・そういえば、」 「スザクなら今はいない」 口にする前に言われ、ルルーシュはむっと口を閉ざした。 「そう怒るな。予定外の事態が発生しただけだ」 ルルーシュにと入れられた水を飲み干しながらC.C.が言った。 |