いのちのせんたく 第162話


予定外の事態。
確かにその言葉のとおりだと、ルルーシュは深く息を吐いた。

「私の聞いた話とは、ずいぶんと違っている」
「奇遇だな、俺の聞いていた話とも全く違う」

くだらない会話だと思いはしたが、言葉にすることで気持ちを整理することは大事だと思う。特に、このような常識の通じない奇妙な場所では、無理に感情を押し殺そうとすれば気が狂いかねない。
他者と同じ感情を共有している。同じ情報を共有している。たったそれだけの、わかりきったことを確認するだけでも、気持ちの整理をつけることができたりするものなのだ。
今、ルルーシュはC.C.と二人で崖の上にいた。
わかりやすく言うなら言えば、拠点として使っている洞窟上だった。
数日前なら、上ることさえできなかった場所。
ルルーシュが壊れて使い物にならなくなっている間に、洞窟前で建設していた木造の家は窓と扉を残し完成した。蝶番を作るにしても竹では強度が足りないし、金属はまだないため、窓と扉になる部分だけ後回しにしたのだ。夜にはすだれや木の板で塞ぐから、今のところ問題もない。
この木造の家は3階建てだった。とはいっても生活する部分のメインは1階と3階で、2階部分は1階と3階をつなぐ階段と、ちょっとした収納があるだけ。3階へ上りそこにある扉をから外に出れば、洞窟の上に出られるという作りだった。崖の上は平らで思ったよりも広かったため、1階部分より3階部分のほうが建物が大きくなっていた。床下には石が敷き詰められているため、強風でも大丈夫。鉄でも手に入れば杭を作って岸壁に固定させられるのだが、ないものねだりをしても仕方ない。
3階部分を作った理由は、周囲を見渡せる監視場所がほしかったからだ。こんな場所に作れば他の拠点から見えてしまう危険はあったが、監視ができる程度の小屋を建てた後、木や岩でカモフラージュは可能だと考えていた。だからここまで3階部分が大きくなったのは想定外だったが、それらを理解していた面々が、ルルーシュの許可なく予定を大きく変更をした理由は、そこに立てば嫌でも理解できた。

「それ以前の問題だったか」

ルルーシュのつぶやきに、C.C.はすべて理解しているかのように「そうだな」と頷いた。
見晴らしがいいのは、間違いない。
そして、こうして高い場所に安全に上れる様になったのは大きな進歩だ。
だが、当初の目的はすべて無意味なものになってしまった。

「だが、これで証明できたんじゃないのか?お前の説を」
「・・・そうだな」

できれば、違ってほしかった説だが、と、ルルーシュは息を吐いた。
この高台からは、すべてが見えた。
自分たちが普段から利用している川の全景。
水源がどうなっているか気にしたことはなかったから、高い崖の上から流れる川の水にも、その上にも興味は今まで感じていなかった。だが、それは愚かなことだった。いや、おそらく実際にあの崖を上り、水源を見にいけば、今ここで見えているものとは全く違う風景が見えていただろう。
・・・今ルルーシュとC.C.の視界の先には滝の上流、水源が見えている。そこには大きな池があるわけではなく、今まで視界に入っていなかった場所は、まるでジオラマのように切り取られた何もない空間となっていてた。水が何もない空間からコンコンと湧き出て、流れ落ちているのだ。

「まるで、水槽に作られたアクアリウムだな」

C.C.の皮肉めいた言葉は、視界に広がるすべてを物語っていた。
たしかに、拠点は岩壁に囲まれていた。海辺も、高い崖に囲まれており、崖の向うに回るにはスザクや藤堂並の身体能力が必要だ。実際にスザクは崖を上り、その先に進んだ。女性たちの拠点があったことも、確認していた。
だが、それはありえないと断言できる光景が、目の前に広がっている。
崖に囲まれた、ルルーシュたちが行動していた場所は広い。想定以上の広さがあった。まだすべてを見て回ったわけでもなければ、崖伝いに歩いて回ったこともないから、大きさを正確に把握できていなかったのは仕方がない。遠くまで広がる森と、その先にある岸壁。その姿は想定内だ。問題は、その岸壁の向こう側なのだ。
藤堂とC.C.たちが来た方向。
そこは、ほかに比べてかなり奥まで森が広がっているが、やはりその先には岸壁があるだけだった。どう見ても、別の拠点へ続く道は存在しない。
岸壁に囲まれた場所、その周りには広大な海が広がっていた。

「・・・やはりおかしいな」

ルルーシュは、空を見上げながら言った。

「私も、向こうで岸壁を登ったことがある。ここまで高くはないが、それでも、周りをある程度見渡せる場所だ」

ルルーシュも、スザクに手を引かれ高い場所には登ったことがある。

「そこからは、こんな海は見えなかった。もっと、大きな島の形が見えた」
「奇遇だな、俺もその景色を見た」

この景色が異常なのだ。
今まで知りえた情報と知識をすべて覆す光景。
セシルが疲労困憊していた理由。
スザクや藤堂たちが、ルルーシュを置いて動いている理由。
それは、この崖の上から見える景色と、他の場所から見える景色の差を調べているからだ。特に、スザクが前に通ったルート。海岸を通りC.C.たちの拠点へ向かうルートの確認をしている。そのためには案内役のスザクが必要だから、離れて行動するしかないのだ。
そして予想通り、少し離れた場所からこの崖の上を見ても、いま建っているこの3階部分は視界に映らないのだという。監視場所としてほぼ役には立たない。だが、隠れた居住区としては十分に使える。

「ここはアレだな。ゲームで言うところの、バグだ」
「バグ?」
「あるいは、製作者専用の視点。ゲームの登場人物である私達が知ることができないはずの視点が手違いで残ったものだろう」

これで確定したことは、ルルーシュが以前推測した通り、この島は見た目通りの島ではないということだ。拠点として用意された箱庭が複数あり、特定の場所に足を踏み入れれば、別の箱庭に移動する。あるいはループする。視界に入る風景も、それに合わせて作り出される。その移動があまりにも自然だから、大きな島にいるのだと錯覚する。実際の箱庭は想像よりもはるかに小さくて、岸壁の外は海しか無く、箱庭どうしの行き来は超常の力の作用で行われている。移動の際、ここの島に来た時のように、ギアスのマークがどこかに現れている可能性もある。
箱庭の管理者の考え一つでそれらの接続は断たれ、元の場所に戻ってこれなくなる可能性もあるわけだ。

「全く同じ舞台を用意し、同時に管理している誰か。だが、これではっきりしたことがある」
「なにかわかったのか?」
「俺たちは、この拠点の大きさと、藤堂とお前がいた拠点の方向と大きさから、この島の大体の形を思い浮かべていた。・・・島を3等分あるいは4等分し、それぞれの拠点として使っていたのではないか、という話だ」

覚えているだろう?という問いに、当然だとC.C.は返した。

「ああ。だから、もしかしたら私達の知らない拠点が、あと一つか二つあるかもしれないという話だろう?」
「だが、もともと島の形が決まっていないのだとしたら?いくつも、それこそ無限におなじ箱庭を複製できたとしたら?」
「・・・他にも多くの拠点が存在しているかもしれない、ということか」
「俺たちの拠点から繋がっているのはあの2箇所だけかも知れない。だが、もしかしたら」
「私達と同じ目にあっている、別の拠点同士が接続されているかもしれない、か」

それは笑えない。
この辺りは黒の騎士団・・・いや、ルルーシュが優勢だが、ほかの場所ではブリタニアが優勢かもしれない。もしかしたら、ナナリーも巻き込まれているかもしれない。シャルルたちが巻き込まれていないとは限らない。いつ、どこで、どう接続されるかわからない。

「可能性は、いくらでもあるということだ」

常識で考えたら痛い目を見る。
あってもあと1、2箇所という考えは捨てておくべきだ。

「可能性、か」
「それを考えるのは、俺の役目だ」
「考えるだけ無駄だと思うぞ」

あまり深く考えるなと忠告した。
超常のことなど悩めば悩むほど、どつぼにはまる。
常識はずれな世界での生活と不安で精神が疲弊する。
それは、避けなければならない。

「これがもし超常の存在が産み出したゲームなら、探索謎解きモノだろう?なら、用意された手順を踏んで、箱庭の主の提示したシナリオをクリアし、ここを抜け出すことを考えることだ」

相手がだれであれ、これがゲームならルールが存在する。それを読み解けば勝ちだというのだが、この世界はギアスで作られた出口のない牢獄の可能性がある。と、言おうとしてC.C.はやめた。
なぜなら、自分にギアスは効かないから。
ならばなんだ?
神、Cの世界の干渉か、コードにはまだ未知の力が眠っているのか。
ここが誰かが生み出した箱庭なら、その誰かは、なぜこのメンバーを集めたのか。なぜ、全員を生かしているのか。これらすべてに意味があるのか、ただゲームとしてたまたまこうなっただけなのか。死者が参加していることに理由があるのか。ルルーシュには無駄だと言っておきながら、一度意識しだすと考えが止まらなくなる。答えなど出るはずがない謎に気が狂いそうになる。

「ところでC.C.、あれなんだが」

ルルーシュの声にC.C.は思考の沼から戻り、遠くを差したその指先を見た。


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無理やりでもいいからどうにか終わらせる方向にもっていくべきじゃないかな?と思い始めて無理やりな設定を押し込む。(でもきっと完結はしない)
これで後でたくさん人が増えても矛盾が出てもいいわけができる(天才)

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