いのちのせんたく 第163 話


「水車だな」
「それは見ればわかる」

遠く、海にほど近い川下に、水車以外の何物でもない建造物があった。
川の流れに合わせ、水車はゆっくりと動いている。

「お前が無能になったこの1週間、暇だったんだよ」
「・・・作ったのか」
「家を作り終わって男手が余った。その前に、ラクシャータたちが暇を持て余したからな」

なにせ現場監督と言えるルルーシュが潰れたのだ。指示が途絶えたのに釜戸周辺の改装も終えてしまい、暇だった。ならたまには休めと言われそうだが、暇を持て余せば余計なことを考え不安になる。
だから、やれることをしたいのだ。
ここで生き残る目処は立った。衛生面も最低限整った。でもまだまだ足りない。ここに一生済むのが目的ではなく、この異様な場所から生還するのが目的なのだ。観測するにしても情報収集するにしても、モノが足りなすぎる。足りなければ作ればいい。近代文明に慣れきっているから原始的な状況には戸惑うが、欲しいものへの道筋と理論はわかっているのだから、順に揃えていけばいい。どうせルルーシュも欲しがるものなのだから、指示も許可も必要ない。時間があるなら、自分たちの好きにする。その結果の一つがこれだ。

高台から降り、川を下り水車小屋に入ると、そこには石臼と、それを回す巨大な歯車が大きな音を立てていた。水車の回転の力を利用し、材料を粉末にする機械を作っていたのだ。これがあれば、どんぐりやくるみの粉末も簡単にできる。これでとうもろこしや小麦でもあれば食事事情もかなり良くなるだろう。
今は、前々から集めていた貝殻を砕いているところだった。貝殻が山と積まれたカゴから、自動的に石臼に貝が流れ、粉末になった粉を別のかごが受け止めていた。作りは荒いがよくできている。
それに貝殻に目をつけたのは流石だ。なにせ貝殻は何にでも使える。
いままでは荒く砕いたものを畑の肥料にするのがせいぜいだったが、いつか時間を見て大量に砕かなければとは思っていたのだ。さすが科学者達。貝殻の成分には前々から目をつけていたに違いない。聞けば、後々使えるからと乾燥させていた骨やカニなどの甲羅もすでに粉末にしたらしい。手当たり次第に砕いて、増水で流されないよう洞窟に保管しているらしい。

「ちょっとルルーシュ、あんたそんなに歩き回って大丈夫なの?」

カレンが手にかごを持ったまま駆け寄ってきた。そのかごには見慣れないものが入っていて、ルルーシュは眉を寄せた。

「カレン、それは?」
「ああ、これ?クロさんと永田が土探ししてたときに見つけたのよ。クロさんこれがなにかわかってなかったみたいで、いま他にも珍しいの見つけてたからって言ってラクシャータさんと見に行ってる」

よっこいしょとかごを地面に置くと、ずしりとおもそうな音が聞こえた。これだけの重さを軽々と抱えていたのだからカレンもなかなかなものだ。ルルーシュは屈んでかごの中のものを手に取る。土やら何やらがついていて一見ただの石の塊に見えるが間違いない。

「鉄か。ならば次に必要なのは」
「鉄用のカマドだったっけ?今、永田さんが基本設計考えてるわ。と言っても専門じゃないから構造がよくわってなくて、何度か作り直しはあると思うけど」
「そうか、なら問題はない。俺が知っている」

鉄が手に入れば作れるものが増える。工具に関しては立派なものが手に入っているが、ここを抜けだすためには他の道具が必要だし、それらを作るために工具を溶かすわけにもいかなかった。単純に溶かしたところで量が足りないというのもあるが。

「あんたほんとに何でも知ってるわね。あと2時間もすればみんな戻ってくるから、あんたはその時に永田さんと話をしたら良いわ」

食事に準備に加わらず体を休めろ。でも何もしないのは無理なんでしょ?なら次の予定立ててなさい。と、遠まわしに言っているのだ。ルルーシュはすぐに気づき眉を寄せ、C.C.はほくそ笑んだ。なにせ1週間も寝込んだのだ。もう大丈夫なんて強がりは言えないし言わせない。
頭をつかうのも疲労がたまるが、一番は動くことだ。

「温泉、今のうちに入ったら?みんな泥だらけで帰ってくるから、混む前に入り終えたほうが良いわよ」

なにせ発掘作業。むき出しの岩場にあるとはいえ泥だらけにはなる。
カレンも全身土で汚れていた。

「それもそうだな。行くぞルルーシュ」
「ちょっ、待ちなさいC.C.!なんであんたも行くのよ!?」

当たり前のような顔でルルーシュの手を引き始めたので、カレンは慌てて止めた。寝ている間はスザクとクロヴィスがルルーシュを入浴させていたが、あれは男同士だ。たとえ介助とはいえ男女で入るのは問題がありすぎる。

「良いじゃないか別に」
「良くないわよ!!ルルーシュ!」
「な、なんだ!?」
「一人で、入れるわよね!?」
「当たり前だろう。俺はC.C.と入るとは言っていない」
「どーだか」

疑いの眼差しをむけられ、ルルーシュがムッとしたので、あ、これは本気だなとカレンは気づき表情を改めた。

「そういえば、あんたここに飛ばされた時ゼロじゃなかったの?」

スザクがいないときにしか聞けないことを思い出し、カレンは訪ねた。カレンたちが飛ばされたのは蓬莱島にいたときで、ゼロもその時蓬莱島にいた。スザクがルルーシュの記憶が改ざんされたままだと判断している以上、ここに来るタイミングが違ったのか?と疑問を感じたのだ。C.C.もそこは確認していないと言っていた。

「ああ、タイミングよく学生服をスーツケースに入れて持っていたからな。ここに来てすぐに着替えた。あれはわからないところに隠してある」
「そう。それならいいわ」

そういえば、あのあとエリア11に戻るって言ってたってたっけとカレンは思い出した。ゼロの衣装は見つかってはまずいものだ。あれがあればここにいる誰かがゼロだとバレる。着れる人間も限られているし、何よりスザクが知ればルルーシュだとバレる。

「私はこれ、石場に持っていくから。C.C.」
「わかったわかった。私は見張りとルルーシュが倒れてないかだけみているよ。ルルーシュにストレスをかけてまた逆戻りになっても困るからな」

羞恥心を与えてからかうのは楽しいが、時と場合は選ぶべきだ。

「ルルーシュ、長湯は駄目だからね」
「ああ、わかっている。溶鉱炉の図面は俺が描くと永田に伝えてくれ」

わかったわとカレンはその場を立ち去った。

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