いのちのせんたく 第164話


この不気味な場所は、あの大雨の日以外連日快晴なことにセシルが目をつけ、あちこちに作ったという日時計が、この1週間で生活に必要不可欠なものになっていた。作業のために散っていた者たちは、皆お昼の時間だと次々に拠点へと戻ってくる。
島での生活でいちばん大事なのは、病気にならない事。そのためには無理をせず、働く時間と休む時間は明確にし、規則正しい生活をおくることが大事だった。時間がある程度だがわかるようになり、規律や目的が出来てからは、みなの表情から疲れや不安といった負の感情がさらに減ったように思える。
泥だらけだからとお風呂場は女性が先に使い、男性陣は集めた鉱石を川の下流の方で洗ったり道具を洗ったりと後片付けを始めた。話を聞けば、発掘作業は午前中に2・3時間程度行い、午後からは疲れたものは休み、まだ余裕のあるものが農作業などをするのだとか。鉱石はたくさん欲しいが、無理をしても仕方ない。何より発掘するのに必要なつるはしや、採掘用の金槌などの道具が無いから取れる量も少ない。鉱石を加工して道具を作ってから本格的な発掘するほうが効率もいいし、溶鉱炉もこれから作り、その後テストもあれば型作りもあるのだから、このペースでもそれまでに必要数が集まるという。
これらはラクシャータが決めたらしく、彼女がいれば問題ないなとルルーシュは安堵した。

ルルーシュが料理を始めようとしたので、料理は当番制にしたし、永田とルルーシュは今後の予定や設計図などに関する話を詰めるようにと周りは何度も言い聞かせ、テーブルの方へと追いやった。ルルーシュについていこうとしたC.C.はしっかりと捕まり、料理づくりに強制参加させられてた。反対にルルーシュのサポート兼監視役という名目でお風呂上がりのセシルがやってきた。彼女に悪意はないのだが、彼女の作る創作料理の破壊力を皆が知っているため、いろいろ理由をつけて当番からも外していた。

女性の次に男性が入浴し、数名が洗濯を始めた頃スザクたちが戻ってきた。
スザクと藤堂たちは海岸のルートを通り崖の向こうを確認しに行っていたのだ。

「ルルーシュ!」

スザクはルルーシュの姿を見つけると、即座に駆け寄ってきた。
まるで飼い主を見つけた犬のようだと誰もが思ったがくちには出さない。
言ったところで、スザクは「そうかな?」と首を傾げるだけだしルルーシュは「確かにスザクは猫よりも犬だな」といって終わりそうな気もする。

「スザク、戻ったのか」

永田とラクシャータ、セシル、仙波と話を詰めていたルルーシュは顔を上げた。

「うん、ただいま。・・・起きてたんだね」

嬉しい表情から一点、少し不安げに・・・いや、疑いの眼差しを向けてきた。ルルーシュをゼロに戻す訳にはいかない。そのためにはスザクが傍にいて、ゼロ=ルルーシュという情報を遮断したかった。でも、今回は寝ているルルーシュを背負って行くという主張も全員に却下され、置いていくしかなかった。まさか自分が戻る前に起きるなんて・・・と、思っているのだ。それを見逃すルルーシュではない。

「ああ。すまないな、また迷惑をかけた」
「迷惑なんて、そんな事考えてないよ」

ふるふると首を振るが、その表情は晴れない。

「報告は食事のときにたのむ。今はこちらを詰めたいんだ」
「それ何?」
「溶鉱炉の設計図だ。鉄が見つかっても加工できなければ意味がないからな。明日から作業に入る」
「鉄?そんなの見つかったの?」

どうやらスザクたちが出たあとに見つかったらしい

「ああ。早めに加工できる環境を作りたい」

塩田も完成していて、寝ている間に一度作業を行い想定以上の塩を手に入れていた。煮込むときに薪をかなり使うからと炭も作っていた。炭専用の釜戸は無いが、今ある釜戸でどうにか炭は出来たらしい。これは、この奇妙な空間の補正がかかっているだろうが、その方がありがたいから誰ももう気にしていない。
炭があれば火力も安定する。料理にも炭が使われるようになり火加減や火の維持が格段に楽になったという。眠っていたのはたった1週間だが、行動力のあるものがこれだけ揃えば物事はどんどん進んでいく。そのすべてが必要なもので、みな優秀だなと安堵していた。

「鉄があればKMFみたいなものが作れるの?」
「飛躍しすぎだ。そこまでのものはできないが、今後の役に立つものは作れる。それよりスザク、さっさと汗を流してこい。そろそろ昼食だぞ」
「あ、そうだね。行ってくる」

ルルーシュが鉄に夢中になっていたと考えたのか、仙波とセシルが傍にいたからなのか、スザクは安堵したような顔でそこを離れた。いままでみんなと行動をしていて、仙波はルルーシュ=ゼロだと知らないと確信していた。その仙波がいるなら確率は低いと思いたい。思いたいが、可能性はあるだろう。そこは今問い詰める訳にはいかないと一度身を引いたに過ぎなかった。

「ほーんと元気よね」

ラクシャータがどこか呆れたように言った。一緒に行っていた朝比奈がバテバテで藤堂にも疲労の色が見えているのにスザクは疲れを一切見せていない。1時間ぐらい走ってこいといえば走るんじゃないだろうか。

「若いって良いわね」

ニコニコ言うセシルの言葉に、ラクシャータが若干渋い顔になるのは、もう若くないと言われた気がしたからだろう。10代後半の若者と体力面を競うのはそもそも間違いだと言おうとしたが、それを言えば同じ年齢のルルーシュが比べられることになる。相手はスザクだ。基準にしてはいけない。

「まあいい、話を戻そう。永田、これを作る材料を出して欲しい」
「・・・」

それは苦手なんだよなと永田は頬を引きつらせた。よく知っている窯とは異なるものだし、何がどのぐらい必要かなんて想像できない。それが表情にありありと出ていたため、ラクシャータが助け舟を出した。

「どういうものかはだいたい理解したから、それは私とセシルがやるわ。ただ、細かな部分はわからないから、相談に乗ってもらうことになるけど」
「そうだな。ではそのように頼む。人手が必要なら優先的に回す」
「溶鉱炉以外に急ぎのものがあるのかしら?」

優先的にということは、他にもやることがあるのだ。
食料調達はそこまで難しくなく、先日朝比奈が仕掛けた罠に鹿もかかり肉と毛皮が手に入った。鹿はかなりの数を見ているし、この世界が普通ではないからある程度の数狩っても問題はない。鹿と魚に偏らないよう蛇やカエルもいくらか獲っているし、山菜もあらたに発見し、海産物も豊富。柑橘系やぶどうなどの果物もあり、クリなども山程とれている。大豆畑も順調で、あとは今後のための木材の切り出しと鉄以外思いつかないが。

「前に話した、中継地点の整備だ」
「ああ、そんな話もあったわね」

目標とすべき場所はまずは扇達がいる拠点だろう。なにかがあると、確定している場所だから。調査に関してはルルーシュが行くのが望ましいので、休憩ポイントは必要だし、永田が殺害されたのだとすれば、敵を中継地点で抑えたい。犯人は誰かはわからない。扇たちかも知れないし、別の誰かかも知れない。永田が口を開かない・・・ということは扇・南・玉城だと思われるが、確定しない以上完全な対策はできず、やはり最前線の防衛拠点は必要になる。中継地点であり防衛拠点。そこに向かうまでの道も整えなければ、物資の運搬だけでも大変なことになる。

「そうなると、やることは多そうね」

何も思い浮かばず、何もせず、ただ日をかさねていたあの頃よりも100倍大変だが、ずっと建設的で目的もはっきりしている。精神的には100倍楽だとラクシャータは笑った。

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