いのちのせんたく 第165話


「最初はね、これを使って川で砂鉄集めをしようとしたんだけど、思ったほど取れなかったわけ。で、どこかにいい場所はないか探してたら鉄鉱石を発見したのよ」

箸を止めたラクシャータが取り出したのは、ルルーシュが以前渡した磁石。
鉄は重要な素材だから、ラクシャータたちはコツコツ磁石で砂鉄集めを始め、いま採掘している場所で磁石が岩場に張り付いたという。鉄鉱石が発見されていたなら以前渡した磁石は不要だったと考えていたが、発見の役にたっていたようだ。

「あとこれ」

試作品のため不格好ではあったが、しっかりと方角を示しているそれをラクシャータは取り出した。集めた僅かな砂鉄程度なら今ある道具で溶かせるし磁石もあったので、方位磁石を2つほど作ってみたという。島を探索するなら、方角を知るのは大事なことだ。材料が揃えばまず先に作るのは当然だと言える。

「よくできている」

縫い針と磁石でも作れるが、ルルーシュには方位磁石を作る考えがなかった。
ある程度歩いて場所を把握していたこと、高いところからなら今いる場所がある程度把握できること。そしてこの奇妙な島では常識が通じないと思い込んでいたことなどが方位磁石という有益な道具の存在を忘れさせていた。
スザクは方向感覚も化物並みだし、クロヴィスはそもそも死者なせいか同じく方向感覚が恐ろしいほど正確だったのも原因かもしれない。
これを作成したラクシャータの表情が微妙で、話を聞くと思ったような効果を示さなかったのだという。

「この島にも一応方角の概念はあるようだけど、開拓をしていない場所ではくるくると回るのよね、それ」

だから役には立たないとラクシャータは肩を落としながらグラスを傾けた。
グラスの中にはぶどう酒。最近は大人たちが率先してぶどうを収穫、蒸留しているため、少量ではあるが毎日飲める程度のワインが製造されていた。味は今も美味しいとは言えない出来だが、それでも飲めることが大事なのだろう、ラクシャータも、他の面々も美味しそうに飲んでいる。

「開拓の基準はわかるか?」

普通ならば、まわりに強い磁場があり磁石が効かなくなっていると考えるべきだが、ありきたりなその結論を一時保留。調査を続け、磁場を否定する何かを発見し『開拓すると方角が確定する』という普通ではありえないことを突き止めたのだろう。この短時間にそんな常識はずれな答えを導き出せるのだから、彼らは本当に優秀だなとルルーシュは再確認し、ならば基準は確定させているはずだとたずねた。

「この河原の一部と洞窟、釜戸のある岩場、畑の一部、鶏の柵内の一部、あとトイレ周辺は大丈夫。トイレ周辺に木材を積み上げて確認みたんだけど、このぐらいの範囲でだめになったわ」

ラクシャータは、砂を敷き詰めた木箱を使い簡単な地図を書き出し、方角が確認できた場所をに印をつける。そこは使い心地が良くなるよう整備した土地。木材や岩などに磁力が無いことは確認済み。海岸もある程度整備しているが、カウントはされていない。カウントされた場所とされなかった場所、そして積み上げた木材の範囲をを思い浮かべれば、方位を知るためにどのレベルが求められているかよく分かる。このレベルに全て整備するのは効率が悪いし、やる意味もない。
だが。

「道は一切だめだったのか?」
「いえ、正常に使える道は少しだけあったわ」

道はここほど整備はされていない。普通に考えれば全て対象外のはずだが、そうではなかった。道の条件は若干変わるということだ。全て見透かしているようなルルーシュの質問に、説明が楽で助かるわとラクシャータは一度書いた図をすべて消した後、さらさらと道を書き出し、印を書いた。

「ということは、使える道とダミーの道を用意すれば、これを持たないものを迷わせることも可能、ということだな」
「ああ、なるほどね、それは可能だわ」
「中継基地からここへたどり着けないよう、偽の道も用意するということか」

藤堂がなるほどと頷いた。

「扇たちは驚異とは言えませんが、あからさまな1本道を用意するのはたしかに危険ですな」

仙波は眉を寄せながら言った。本陣であるこの場所には戦えないものがいるのだから、驚異は中継基地で取り除きたいが、草むらに隠れながら移動されれば気づけない。そもそもつねに中継地点に見張りがいるとも限らないし、夜も見張るのは難しい。自分たちが移動した跡が残るのは避けられない。ならば手間はかかるが偽物の道を用意するのは賛成だった。
自分たちは何度も往復するから道を覚えられるが、いざとなった時慣れないものが確実に正しい道を辿れるとは限らない。どこかにいざというときのための秘密の隠れ家を用意し、方位磁針を頼りにそこに逃げ込むことも可能になる。
そもそも、コーネリアたちと扇たちだけしかいないとは限らないのだ。
第4の拠点が存在し、それが敵対勢力だった場合拠点までの道を知られるのは危険すぎる。

「今後道に関してはいろいろ試してみるけど、鉄を優先させても問題ないわよね?」
「ああ、任せる。そもそも俺たちが道を覚えさえすれば不要なものだが」
「でも、暗くなると道はわかりにくくなるからね。何かあるのは明るいときだけとは限らないよ」

ここには懐中電灯とか無いんだし、あっても夜は違う道に見えるんだからとスザクはいった。これには仙波も藤堂も同意を示す。彼らは山の中に潜伏していた時期があるため、そのことを誰よりも理解していた。夜の森に一番適応しているのが藤堂と四聖剣、そして電気などない時代から生きてきたC.C.で、ここで一番適応できないのはルルーシュだった。前まで夜目は人並みだったが、今は殆ど見えない。これも病が原因だと思われる。スザクたちが一番心配しているのは、ルルーシュたち非戦闘員が逃げなければならなくなった時、無事に安全な場所にたどり着ける道標をどうするか。とはいえ、方位磁石だろうが傷跡だろうが、焦って道を見失えば目印がなくなることに代わりはないが。

「最悪は想定しておくべきか。中継地点の整備時にダミーの道作りも行おう」
「ところで、ルルーシュくん、中継地点を作る準備をするチームと鉄溶鉱炉を作るチームを分けたいのだが。もちろん炉を作るときは全員でやるべきだが、それ以外のときには並行して作業をしたほうがいいだろう」

効率良く動くなら、誰が何をするか明確にしたほうがいいと藤堂はいった。
ルルーシュも元々作業分担をする予定だったため、いい機会だと誰がどの作業をするのか、食事で全員集まっているこの場で発表することにした。



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・溶鉱炉組(制作班)
 ラクシャータ、セシル、クロヴィス、仙波、永田

・中継地点作成組
 藤堂、朝比奈、卜部、千葉、カレン

・スザルルCは別行動

ちょうど半分

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