いのちのせんたく 第168話


「落とし穴で獲物を捕るのは難しいようだな」

コーネリアはようやく理解した。
落とし穴で動物を捕るのは難しいのだと。
ユーフェミアは落とし穴で獲物を捕るのはムリだとルルーシュを見て知っていたが、それを言ったところで聞かないと考え、姉がやることを何も言わず手伝った。ルルーシュだって最初はこうだったのだ。だからこれは、最初に体験しておくべき儀式のようなものだろう。
ルルーシュもコーネリアも自ら動くタイプだ。そして多くの失敗を繰り返し、多くのことを学んでいく。失敗も全てが経験となり、今後の行動に役立てていくだろう。
大きな穴を掘った後、ヴィレッタが丸1日木の上から見張ったところ、獣は人手の加わった場所のニオイを嗅いだ後、避けて通ることがわかった。ヴィレッタの気配で避ける獣のほうが多かったが、それでも獣は人間が思う以上にニオイに敏感なのと知ったのは大きい。
獣道・・・動物の足跡を見つけ、その導線上に穴を掘ったまでは良かったが、人間の匂いが付着した怪しい場所には近づかないし、そもそも一人で這い上がるのは難しい穴でも、野生動物なら脱出できる。殺傷能力もないため、万が一獣がかかっても捕獲にまで至らない。
もし鹿を捉えることが出来ても、次は皮をはぎ肉を捌かなければならない。どうにか始末できたとしても、あれだけ大きな獣の肉を、冷蔵庫もないこの島では腐るまでに食べきることは不可能だった。
肉を干したり燻製にするのは見たのでやり方はわかる。蛙や鶏のような小さなものと同じくらい小さく切れば同じやり方でいいと思うが、あんな大物ではその作業だけで大変なことになりそうだ。
1匹でも狩り、全て保存することが出来たなら、肉の心配はもう無くなるだろう。そこまでやれるのか、それとも腐らせてしまうのか。確率は後者のほうが遥かに高かったので、姉が諦めてくれて本当に良かったとユーフェミアは胸をなでおろした。
ルルーシュはすぐに諦めてくれたけれど、コーネリアはルルーシュよりも諦めが悪く、穴掘りだけで3日、穴を隠す方法に1日かけ、見張りに1日。5日かかって諦めた。
本当にようやくだ、ようやく、諦めてくれた。

「お姉さま。鹿のように大きな動物の肉が必要なほどここに人はいませんので、鶏やうさぎを飼って増やしたほうがいいと思います」

この不思議な島では、ひよこは数日で大人の鶏に成長する。
ルルーシュの拠点で一定数以上増えないこと、減ったら減った分だけ卵が孵化し、鶏が補充されることがわかっている。減った分だけ増える。ありえないことだが、ここではそれが当たり前なのだ。だからそのありえない普通の出来事を利用し、鶏やうさぎを飼うべきなのだ。
昔なら殺すのは可愛そうだと止めたかもしれない。
でも、生きるためには必要なのだ。
家畜は殺され肉となり自分たちの口に入っていたのに、目の前の命は殺さないで食べないでというのは偽善でしか無い。それをユーフェミアはここで学んでいた。食べるために殺すのは自然の摂理だが、食べない、食べきれないのに殺すのは避けるべきだ。

「鶏か・・・だが、あれを捉えるのは・・・」
「素手で捕まえれませんか?」

前にヴィレッタが鶏を捕まえようとして失敗したのは知っているけれど、鹿を捕まえるよりずっと簡単だと思う。罠だってもっと小さいものでいい。もしかしてコーネリアはユーフェミアとヴィレッタの知らないところで鶏を捕獲しようとしたが、思ったよりも素早いため捕まえられず、鶏より鹿のほうが標的も大きく確実だと思ったのかもしれない。

「よろしいでしょうか」

ヴィレッタが、額に流れる汗を拭いながら手を上げた。罠用に作った落とし穴は残しておくのは危険だと、彼女は一人で穴を塞いでいた。

「なんだ?」

言ってみろとコーネリアは促した。

「先に飼育用の柵を作り、その中に鶏を追い込むのはどうでしょうか?」

魚の追い込み漁と同じ要領ですというヴィレッタに、ユーフェミアは目を輝かせ「いいアイディアです!」と、手を叩いた。コーネリアもなるほどと頷いたので、ヴィレッタは胸をなでおろした。

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