いのちのせんたく 第136話


「ユーフェミア様でしたか。いつからそちらに」
「ヴィレッタが起きる少し前です。ダールトン、くれぐれもお姉さまには気付かれないよう注意してください。あなたが居ると知れば、お姉さまは頼り切ってしまいます。私達は死者。この島を離れれば消える存在なのですから」
「わかっています、ユーフェミア様」

すべて見ていたのだから、ユーフェミアが何を思い行動していたかもダールトンは知っている。邪魔をする気など最初から無いと答えた。

「ではダールトン。柵を作り終わったら一度クロヴィスお兄様のところへ行ってください」
「ユーフェミア様、あの拠点は十分発展しております。私がいなくても」

いま人手が必要なのはここだとダールトンが主張すると、ユーフェミアは首を振った。

「そうではありません。私の伝言と、この拠点に人は寄越さないようにと伝えてほしいのです。きっとラクシャータはお姉さまとヴィレッタの様子を見に来なければと考えているはずですから」

命を守ることを重視している科学者だ。そろそろ反省しているだろうし、定期的に生存確認するべきだと主張している頃かもしれない。この拠点の現状を伝え、ダールトンが裏から支援することを伝え、何かあればダールトンという連絡係が居ることを教えるのは大事だと言った。
ユーフェミアは知らないことだが、ユーフェミアがコーネリアとヴィレッタの三人で拠点の立て直しを始めたことを卜部が伝えていた。
とはいえ、健康面が心配だとラクシャータは主張する頃かもしれない。ルルーシュは人は駒だと、不要になれば切り捨てると口では言うが、何だかんだと利用できる理由を探して切り捨てない。自分の駒であるヴィレッタと皇女であるコーネリアはまだ使えるからそれまで健康を維持した状態で生かすと考えるだろうから、ラクシャータの案に同意するのは当然の流れだ。

「解りました。ところでユーフェミア様。もう一つの拠点のことでお伝えしたいことが」
「もう一つ?扇たちの拠点ですか?」

ルルーシュたちの拠点では問題が起きるとは思えないから、こんな神妙な顔で話を切り出すとすれば、扇たちのほうだろう。扇の名前に、ヴィレッタは明らかに反応した。

「卜部と永田があちらに行ったことはご存知でしょうか」
「ええ」

こちらに来る時、ではあちらには自分たちがと向かった者がいたから知っている。彼らが問題を起こすとは思えないのだが。

「今はふたりとも、クロヴィス様の拠点に移っています」
「え?どうしてですか?」

扇たちの惨状を改善するため二人は向かったはずなのに、あの二人も見捨てることを選択したのだろうか。となると本当に改善は難しいのかもしれない。
ダールトンは「お耳を」とユーフェミアに言い、なにやら伝えると、ユーフェミアの顔色が明らかに青くなった。何があったのだろう。生者が知ってはいけないことなのだろうか。・・・扇は大丈夫なのだろうか。

「そんなことが・・・何があったか、クロヴィスお兄様たちは気づいていると考えていいのですね?」
「はい。全員ではありませんが・・・」
「そうですか。ではそのことも間違いのない情報として伝えてください。永田の気持ちは解りますが、危険は危険として認識しなければなりません。そしてヴィレッタ」
「は、はい」
「扇の拠点のことを心配に思うかもしれませんが、そこは問題ありません。反対に今あなたがあちらに行けば、危険な目にあいかねませんから、会いに行こうなどと思わないように」
「あ、いえ私は・・・」

そういう関係だったのは記憶がなかったからだ。
気にしているのは、ルルーシュ以外の人間に知られるのを恐れているから・・・のはずだ。でなければ、自分がイレブンを・・・

「この島をどう判断するのかは人によります。扇は一番危険な解釈を始めているのかもしれません」

自分の保身のためにかつての仲間を殺害した。そしてその遺体が消えた。現実なのか夢なのかの境界が曖昧になり、今まで共にいた玉城と南以外が行けば疑いを向け、二度目の殺人が起きかねない。いまは安心できる仲間だけで行動させるのがいいだろう。

「姫様・・・コーネリア様はこの島が陛下による研究施設あるいはゲームの盤上だと考えておられます。クロヴィス様のところは、この島の真相に最も近づいているので、そちらは何も心配ありません」
「ええ、わかっています」

だってあそこにはルルーシュがいる。きっと正しいルートを見つけるだろう。

「それと、永田のケースが毎回適用されるとは限りません。私達は死者とはいえこの島では再び死ぬ存在だということが確定した以上、コーネリア様のためにも無茶はしないようお願いします」

死んだらルルーシュたちのところに流れ着くとは限らない。死んで消えてそれで終わるかもしれない。幽霊に戻れるのか、またここに戻ってこれるのかもわからない。
・・・でも、生者である二人を守るためなら構いませんよね?と、ユーフェミアは心の中で舌を出した。

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