いのちのせんたく 第173話


近いうちに雨が降る。
森の中で永田・卜部と共に散策していたというクロヴィスが少し慌てた様子で戻ってきてそう告げた。
空を見上げれば雲ひとつ無い青空がいつもと変わらず広がっており、どうしてそんな事がわかるんだ?と思わず眉を寄せたが、そもそもクロヴィスも永田も卜部も死者だ。人間の、生者の常識が通じなくてもおかしくはない。クロヴィスの突拍子もないこの言葉を、遅れて戻ってきた永田と卜部が当たり前のような顔で聞いていたので、まず間違いなく雨は降るのだろう。
わかっているのは、近いうちに雨が降るという情報だけ。
前回同様洪水レベルの雨量になる恐れもある。
今は前回よりも人数がいるため、用意する食料もその分増やさなければならない。もし雨だけではなく大風が吹くなら、木造の家が絶えられるかもわからない。最悪、全員があの洞窟に身を寄せることになるかもしれない。
この未知の島では、最悪を常に想定し、それを回避できるよう準備をしなければ。
近いうちが今日なのか、明日なのか、1週間後かはわかないが、今日のうちに最低限の準備はしておくべきだろう。ここでの生活はいのちが全てにおいて優先される。まもなく日が落ちる時間になる。それまでに、できる限りのことを。

「ならば、今から作業を始めよう。夕食は遅くなるが、万が一にも今夜降り始めたら、今までの作業が無駄になりかねない。藤堂」

ルルーシュが藤堂を呼ぶと、全て心得ているという顔で藤堂は頷いた。
中間地点へ向けての資材関係を取りまとめている藤堂は朝比奈・千葉・卜部・カレンと共にそちらの処理に当たることになる。切り出した木材が流れ出さないよう、それ以外の資材も流されないよう固定をするのだ。
雨に流されて材料を失うことは痛手だが、流れた木材が拠点周辺に損害を与える可能性もあるため、確実に固定しておく必要がある。
藤堂に任せておけば問題ない。では、次だ。

「ラクシャータ」
「すぐにかかるわ」

こちらも何も言わなくてもわかっていると、頷いた。彼女に任せておけば、セシル・永田・仙波とともに鉄鉱石などの資材関係や制作していたものをかまどのある岩場に集め、嵐にも負けないよう保管してくれるだろう。
彼らが制作したもの・集めたものを失うのは惜しい。
普段から整理整頓をしているから、彼らだけで十分問題ないだろう。

「・・・ただ、あの水車は無理ね」

ラクシャータが指し示した方向には水車があった。
水力を利用できるようになったことで作業効率も格段に上がっていたのだが、こればかりはどうにもできない。水没は免れないし、おそらく流されてしまうだろう。
わかっていると、ルルーシュは頷いた。
明日もまだ振らないようなら、削り出すのが大変なパーツは分解し保管することになるが、今日は諦める。

「C.C.。クロヴィス兄さんと畑に向かい、できる限り作物を収穫し、養生もできる限りやってくれ。スザク」
「わかった。二人が収穫したものや道具類は僕が運ぶよ。で、きみは?」
「俺はこのあたりにある道具類を洞窟に運ぶ。収穫が終わるまでこちらも手伝え」
「わかったよ」

人数が増えたことで道具も増え、それぞれの場所にいろいろなものが置かれていた。温泉にも石鹸を始め多くのものが置かれている。それらもできる限り回収する必要がある。
飲水も蓄えなければならないし、やることは多い。
鶏は前回水没しなかったエリアで飼っているが、今回はどうなるかわからない。今日は諦めるが、明日も降っていないようなら何羽かさばいてしまおう。卵もできる限り回収しておきたい。最悪を考え放してしまうのも手か。

「では、さっさと始めてさっさと終わらせよう。ルルーシュ、ある程度片付けたらお前は家で食事の支度をしてくれ。私はお腹が空いた」

日が落ちればどのみち作業はできなくなる。
今日だけで完璧に用意はできない。だからある程度優先順位をつけて作業をすることになるが、それでも戻ったみなはクタクタで、そこから全員で夕食の用意など無理だろう。
それなら河原の片付けも優先度の高いものだけにし、ルルーシュはさっさと食事を作りはじめ、暗くなり皆が戻ってすぐ食事ができるようにした方がいい。そして一息ついたら、交代で松明を片手に河原の片付けをした方が片付くだろう。
何より、ここで無理をさせたら明日ルルーシュは倒れるかもしれない。
そうなれば、世話役が最低でも一人必要になり、作業効率は二人分落ちる。
C.C.の言葉でその意図を察したラクシャータは同意するように頷いた。

「それなら、ルルーシュは今から夕食の用意を始めたほうがいいわ。C.C.たちが収穫するまでスザクの手が空いてるんだから、ここの片付けはスザクに任せましょう」

使ったら箱に片付けることを徹底させていたのだから、そこまで物は散らばっていない。ルルーシュが手を出すよりスザクに箱を洞窟や家に全部運ばせたほうが早いだろう。雨の間は暇を持て余すのだ。箱の中身は後で確認して片付け直せばいい。

「・・・わかった。では、そうしよう」

自分も片付けに参加したほうが効率がいいと言おうとしたが、他の者達までラクシャータに同意を示したため、何度も倒れて迷惑をかけた身である以上、否定しても分が悪いと判断し早々に諦めた。

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