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ヴィレッタは、今後の行動をどうするかを考えていた。 強力な助っ人であるダールトンの存在をコーネリアに知られないようにするためには、間違っても二人が鉢合わせてはいけない。 いつ誰がどう動くかをお互いに把握しておく必要がある。 考え方を変えれば、コーネリアの1日の行動パターンが明確になれば、ダールトンは自由に動き回ることができるのだ。 そのために必要なこと。 簡単な話だ。 規則正しい生活をすること。 何時に起き、何時に食事をし、何時に畑仕事をし、何時に入浴し、何時に見回りに行くのかを決めてしまえばいい。それだけのことだ。 となれば必要なのは時刻を知る方法。この島で用意できるのは日時計ぐらいだが、コーネリアの行動範囲は決まっているから、それらの場所で一番日当たりのいい所に日時計を設置すればいい。日時計はすでに河原に一つユーフェミアが用意したから、それと同じ要領で作ればいいだろう。 最大の問題は、コーネリアに規則正しい生活をさせる方法だ。 皇族ではあるが、コーネリアは軍属。本来であれば規則正しく過ごす方が楽なはずだ。この島に来てからいろいろなことがありすぎて規律とは無縁な生活となってしまったが、きっかけさえあればもとに戻る。そのきっかけをどう作るか。 ・・・考えるまでもなく、ユーフェミアに相談し、コーネリアを動かしてもらうのが一番確実で簡単だろう。なにせユーフェミアもダールトンがいることを知っているから、間違いなく賛同してくれる。 「となると・・・」 起床・朝食・作業・昼食・作業・入浴・夕食・就寝・・・1日の行動予定を考えながら、畑の手入れを続ける。時折拠点を確認しに戻り、コーネリアとユーフェミアがまだ入浴中であることを確かめ、また作業をする。二人の邪魔はできない。皇族だからという理由だけではなく、再会してから初めて姉妹が一緒に入浴しているのだ。 皇族が庶民と一緒に入浴などありえない。つまり、コーネリアがあのユーフェミアを死んだはずの妹だと認識しているということだ。 いや、もしかしたらユーフェミアのニセモノにボロを出させようと、油断をするよう演じているだけかもしれないが。 この関係の良し悪しはともかく、今後コーネリアの行動をある程度こちらで調節するためには、二人には本当の姉妹として接してくれたほうが助かる。 畑の手入れを終え、そろそろ二人が風呂から上がっているかもしれないと、野菜をいくつか手にして立ち上がった時、後ろから声をかけられた。 「・・・っ!、だ、ダールトン将軍っ、」 あまりにも思考に没頭していたからか、4人目の存在にまだ慣れないのか。なんにせよ、近づいてくる音にも気配にも気づかなかったのは失態だと、ヴィレッタは慌てて取り繕ったが、ダールトンにはバレバレだった。皇族の護衛としては完全に落第点だが、あえてそのことは口にはしない。 「ちょうどよかった。ユーフェミア様から雨の話は聞いているか?」 「え?いえ、雨ですか?」 ユーフェミアがダールトンに雨の話をした時、ヴィレッタはいなかった。だから、念の為確認をしたのだが、案の定まだ話はされていなかったようだ。 「そうか、まだか。これは、ユーフェミア様が気づかれた情報だが、近いうちにまた雨が降る」 「また、ですか。あのような大雨が、また・・・」 ひどい、雨だった。 C.C.がぼろぼろになりながらも食料を用意してくれたおかげで飢えずにすんだが、なんの用意もなく再び大雨が降れば、今度はどうなるかわからない。 「規模は不明だが、同じ状況になる可能性は十分ありえる」 「わかりました。ユーフェミア様に確認後、避難準備に入ります」 「お二人のことは任せる。食料は私が集めて明日の朝までに用意しておく」 食料は栽培しているものだけでは足りない。鶏もまだ捕まえていない。できる限りの備蓄を今日中に洞窟へ持ち込むとしても、数日しのげるかどうかだ。 明日の朝まで雨がふらないことを祈り、ダールトンがかき集め、その後はダールトン自身も生存できるよう環境を整える必要がある。前回より降る可能性を考えれば、最有力候補は岩場だが、洞窟からも岩場が見えるので使えない。となると、木の上で数日耐えられる程度の準備は必要か。万が一のときは姿を隠してもいられないだろう。洞窟近くでコーネリアが立ち入らない場所の木の上に潜むのが最善手かもしれない。前回と同じなら、森の中までは浸水はしないのだが・・・。 「いつ降るか、予想はついているのですか?」 「いや、わからない。今日かもしれないし明日かもしれない。1週間後かもしれない」 「わかりました」 今は散らばっている道具類の回収を優先する。あれらを失えば、今後の生活で不利になる。食料も、今日回収できるものは集め、あとは薪を時間の許す限り運ぶ。 「C.C.のような無理はするな」 大雨の中、食料が足りないからと森に入るなと言っているのだろう。 「はい。ところでダールトン将軍。今後連絡を取るための合図など考えておいたほうがいいのでは?」 そう言いながらヴィレッタはダールトンを、特徴のある一本の木へと導いた。コーネリアに知られずに連絡を取る案として、この木の裏に二人だけがわかる目印を置かないかと言えば、ダールトンはその案を受け入れた。 そして、明日以降・・・雨の日は別として、コーネリアとユーフェミアに規則正しい生活を送ってもらう話をし、どの時間に拠点にいてどの時間に拠点から離れるのか仮のスケジュールも伝え、二人はそこで別れた。 思った以上に時間が過ぎており、ヴィレッタは野菜を手に大急ぎで拠点に戻ると、二人は夕食の準備に取り掛かっていた。どうやらユーフェミアが主導でヴィレッタが戻るまでの間自分たちでやれることをやっておこうとなったらしい。いつもなら遅れたヴィレッタに対し、コーネリアは不愉快そうな顔をしていたが、今日はユーフェミアのおかげなのか、そこまで機嫌を損ねていないようだった。 「遅くなりました」 「大丈夫です。私達も今お風呂から上がったところです」 ユーフェミアがニッコリと言った。 「何かあったのか?」 遅くなったのは、何か問題が起きたからではないか?と訪ねてきたので、ヴィレッタはユーフェミアに一度視線を向けた。何かしら?と言いたげにユーフェミアは首を傾げている。これは忘れているのか、すでに話し済みなのかわからない。さて、どう説明するべきか。 「ユーフェミア様。今朝、私にお話してくださった天気のお話は、コーネリア様にはされましたか?」 「今朝?なにか話をしましたか?」 話はしていないが、天気の話というキーワードで察してほしかった。 「雨が降るかもしれない、というお話です」 あっ、と声を上げ、ユーフェミアは自分の口に手をあてた。 「・・・ユフィ、雨が降るというのか?」 「はい、そうでした。いつ降るのかはわからないのですが、近いうちに間違いなく雨が降るはずです」 ありがとうございますヴィレッタ。と、ユーフェミアは雨の話をしたことに感謝をした。危なかった。ダールトンと会い、話を聞けてよかったと、ヴィレッタは胸をなでおろした。 |