いのちのせんたく

第 176 話

はっきり言ってしまうと、ユーフェミアは嘘や隠し事が下手だった。重要な情報を耳に入れてしまうと、その内容は敵に筒抜けになるだろう。そのぐらい人を欺くことに向いていなかった。
今までよく悪増渦巻く皇室で生き残れたなと思うほどに、純粋で人の言葉の裏を読むことを知らない。皇族としての教育を受けているから醜態を晒すことはないが、世の中が悪意で満ちていることをあまりにも知らなすぎる。
・・・いや、それはおかしなことだとヴィレッタは気が付き、同時に背筋が凍りついた。
今が戦争のない平和な世界であるならあり得ただろう。だが、今は戦乱の世。無関係な国の姫ではなく、彼女の父がまさに世界に戦火を広げているのだ。そして戦争の酷さ、その爪痕を彼女はよく知っている。なぜならエリア11の副総督でもあったのだから・・・ちがう、そうじゃない。そんな遠回しな話ではない。
理由がどうあれ、過程がどうあれ、彼女自身が多くの憎悪を生み出し、多くの命を奪い、そして奪われた存在なのだ。
言葉通りにすべてを見ていた存在ならば、自分が何をしたのか・・・日本人を欺き、一箇所に集め、そして虐殺したことも、ゼロに殺されたことも理解しているはず。あの事件をきっかけに始まったブラックリベリオンによってさらに多くの命が失われ、結果としてエリア11の治安は一気に悪化したことも全て知っているはずなのだ、このユーフェミアは。
副総督になったばかりのときならば。いや、あの日、ユーフェミアが豹変する前ならばわかる。ありえるだろう、慈愛の姫と呼ばれたのだから。
だがあの日を経験した・・・見ていたユーフェミアが、はたして慈愛の姫のままでいられるものなのだろうか。重火器の使用、KMFの操縦は皇族全員身を守る手段の一つとして教育を受けている。だから軍人とは程遠いユーフェミアはKMFの操縦もできるし、迷うことなく重火器を扱えた。だが、人を殺したことなど無かったはずだ。
私でさえ、初めて人を殺めたときは・・・それがイレブンであったとしても、やはり罪悪感が胸を締め付け、数日うなされたものだ。人とは、ブリタニア人のことであり、イレブンは人ではない。殺すことが仕事だ。そう言い聞かせたこともある。慣れるまでの間、自分の心の弱さを憎んだものだ。
私でさえそうだったのに、このユーフェミアはどうだ?
慈愛の姫。イレブンにも平等の愛情を向けていたと言われている人物が、あれを経験しても昔のままでいられるものなのだろうか。
私の勝手なイメージなのはわかっている。
だが。
それともこれがブリタニア皇族の本質なのだろうか。
・・・ルルーシュもそうだ。
記憶のない間、普通の学生にしか見えなかった。
一般人を演じているようには見えなかった。
あれが、テロリストになる前の本来のルルーシュだったのだろう。
そんな普通の学生が、実の兄を殺害しても周りに気づかれることなく過ごしたのだ。人の嘘に敏いと言われ、付き人が気味悪がっているという噂のナナリーでさえ騙し通していたのだ。
クロヴィスは新宿ゲットーの壊滅命令を出し、そこに住むイレブンも全員殺すよう命じた。
コーネリアはブリタニアの魔女と呼ばれ、自ら最前線に立ち敵の血しぶきをその身に浴びている。
ブリタニア皇族にとって、命とはそういうものなのだ。
ならば、ユーフェミアが、慈愛の姫と呼ばれた心優しい皇女が、多くの命を手にかけても慈愛の姫のまま、穢れを知らぬ純粋な姫のままでいることは、ブリタニア皇族であるなら当たり前のことなのかもしれない。
皇族にとっては、同じ皇族の命以外は軽い。
それは、ブリタニア人がイレブンを始めとするナンバーズの命は軽いと考えていることと同じなのだろう。そう考えた時、一瞬扇の顔が浮かんだ。今の私は、イレブンの命を軽いと考え、引き金を引けるのだろうか。いや、引かなければならない。・・・それを考えるのは今じゃない。

ああ、そうか。
ユーフェミアがいれば、自分がコーネリアに罰せられる可能性は低くなると考えていたが、それは甘いのだ。この二人の機嫌を損ねれば私などあっさり殺されるだろう。もし救援が来たら、その場で殺される可能性もありえる。今は、使い勝手のいい駒だから生かされているだけに過ぎないのだろう。
ここでコーネリアと過ごすことで昇進する道がひらけると考えていたが、その考えは甘いのかもしれない。
そもそも、この地で死んだ場合どうなるのだろう?
ユーフェミアのように幽霊になるなら・・・失態を犯しコーネリアに殺されたあとも今のユーフェミアのような体となってコーネリアの世話をすることになるのかもしれない。

幽霊・・・そういえば、ユーフェミア、クロヴィス、ダールトン。全員ゼロに殺された人物だ。この地にいる幽霊はゼロに殺された者なのだろうか?これもギアスなのか?まさか、自分たちも実はゼロに殺されたからここにいるのではないか。いや、でも、自分たちは生きていると教えられたはずだ。
ヴィレッタは、そんなことを考えている場合ではないと思いながらも再び自分の死を考えていた。



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ルルーシュ拠点は鉄壁の安心安全安定で崩す方法が思いつかないし、扇拠点も今のところ不安要素が少なくなってしまったので(扇をこれ以上刺激すると誰か死にかねないのでさわれないとも言う)コーネリア拠点を疑心暗鬼に。全拠点を安定させてもいいんですけど、不安要素がないと展開がおなじになるので。

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