いのちのせんたく

第 179 話


大量の道具と食材の片付けに困っているが、物がたくさんあるというのはこんなに心強いのかと考えさせられた。また大雨が降り、何日も洞窟内に閉じ込められるかもしれないのに、不思議と何の不安も感じなかった。
ルルーシュ達の話では、こちらでは保存食をそれなりに作っていたから問題なく過ごせたというが、あちらでは食料がなにせ足りなかった。食糧不足といつ止むかわからない大雨に不安をいだきながら、何もすることなく一日を呆けて過ごすのは心身に多大な負荷をかけた。今回はC.C.が無茶をしないか心配しなくていいのも嬉しい。

雲ひとつ無い青い空を見上げながら、カレンは大きく息を吐いた。

「なんだ?何かいいことでもあったのか?」

髪を洗っていたC.C.が小首をかしげながら言った
知らず顔が緩んでいたらしい。カレンは笑いながらC.C.を見た。

「べーつーにー。・・・背中、流してあげようか?」
「・・・なんだ?気持ち悪いな」

急にどうしたんだとC.C.は眉を寄せ、不可解なものを見るような目を向けてきた。

「なによ、そこまで嫌がらなくてもいいじゃない。・・・前のときは大変だったから、こんなに楽でいいのかなーって思ってたのよ」
「たしかに、そうだな。しかも、前に来たときはヘビやカエルの肉が主だったが、いまではどちらも食べなくなった。メインは鶏肉だし、時々とはいえウサギ肉も手に入る。今朝は朝比奈が鹿を仕留めたから、今は鹿肉もある」

何度も試行錯誤し、鹿を罠にかけることに成功していた。くくり罠という、鹿の通り道に仕掛けて獲物の足にロープを引っ掛ける罠を使ったのだ。
鹿肉は鶏やうさぎと違って臭みが強いが、ルルーシュはうまく料理するだろう。 新鮮なら刺し身でも食べれるが、万が一を考えてそれはやめた。内臓もしっかり焼けば寄生虫も問題ないのだが、やはりこちらも万が一を考えてやめた。この島がこちらに都合のいい環境を作り出す異常な空間だとしても、エキノコックスのような寄生虫がいないとは限らない。リスクを犯さなければいけないほど食材に困ってない以上食べない選択をするべきだ。

「野菜もいっぱい、海産物もある。ココナッツで過ごしてた頃とは大違い」
「あれはあれでなかなか美味しかった」
「そうなのよね。種持ってきて植えたいわよね」

生育の速さも異常なのだから、種があればここの海岸でも育ったかもしれない。

「そういえば、素材としてほしいと前に言ってたな」
「ルルーシュが?何に使うのよあれ」
「ココナッツオイル」
「ああ~~~~!」
「なんでも、料理に使えるだけではなく、石鹸や洗剤にもなるとか」
「マッサージ用のオイルでも聞いたことあるわ」
「マッサージにもか?では髪にも使えるんじゃないか?」
「・・・」

じっとカレンはC.C.の髪を見た。こんな島で過ごしてるとは思えないぐらいきれいな髪に見えるが、以前に比べたら少し傷んでいるようだ。自分の髪は・・・相応にひどいことになっている。ルルーシュがヘチマ水などでいろいろ作ってくれているが、それでも屋外生活をしている以上痛まないほうがおかしい。
千葉は髪が短いからあまりわからないが、ラクシャータの髪もかなりボサボサになっていて、今は一つに結んでいる。

「・・・欲しいわね・・・」
「欲しいな・・・」

場所はわかっている。
コーネリアたちはあまり海には行かなかった。
行って取ってくるのはそう難しくないはずだ。

「でも、見つかった時大変よね」
「・・・なら、こっそり行くのではなく、堂々と行って交渉するのはどうだ?」
「交渉って?」
「塩や保存食を持っていって、ヤシの実と交換する。物々交換による交易だ」

互いに利のある取引。
そして、それを理由に状況を見にも行ける。
はっきり言えば、C.C.は不安だった。
ユーフェミアのおかげでどうにかなっているとダールトンは言ったが、あのお花畑が行動してうまく回るのか不安だった。あちらの拠点がどうなろうと知ったことではないが、いまのルルーシュの状態を考えれば、ストレスになること・・・腹違いとはいえ実の姉と妹の安全確保は大事な要素なのだ。


「・・・とはいえ、私はルルーシュからあまり離れられない」

コーネリア相手の交渉にはC.C.が適任だが、そんなに長い間ルルーシュから離れられない。今はルルーシュの体調が安定しているので、今のようにある程度の時間離れても問題はないが、夜はその分つきっきりになる。となれば誰が行く?カレン一人では無理だ。行くなら護衛がいる。スザクは論外。ルルーシュから離れないだろう。藤堂、千葉、卜部あたりが適任か?だが、動いてくれるだろうか。

「なんにしても」

カレンはざばっと音をたてて立ち上がった。

「ルルーシュの許可がないと無理よね。そろそろ戻りましょうか」

そう言うと、カレンは脱衣室に向かった。

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