いのちのせんたく

第 180 話


「なるほど、ココナッツか。燃料として使うこともできるが、ココナッツオイル、ココナッツミルクだけではなく、種子の内部にある固形胚乳も食べることができる。炭水化物と各種ビタミン、ミネラルが豊富に含まれていて今の俺達には必要な栄養素の塊だ。そして何よりその外皮は強靭な天然繊維。物資の乏しいこの環境では・・・」
「いい。もういい。よくわかった。つまり、とても欲しいということだな、ココナッツが」
「・・・そういうことだ。特に外皮はココナッツファイバーとも呼ばれ、かつては船のロープ」
「わかった。もういい」

お前の話は長すぎるとC.C.は話を切った。今ここでココナッツの情報を延々と披露されても困るというか、興味のない連中はまた始まったよ・・・という顔で見ている。科学班と工作班は興味津々のようなので彼らにはあとで詳しく説明すればいい。

「本来なら私が交渉に行くべきだが、私は行けない」

C.C.が自分を適任だというのには理由がある。
あのコーネリアとヴィレッタの相手をまともにできたのがC.C.だけだからだ。何より扇の拠点で永田が殺害されている事を考えれば、不老不死である自分が適任だと考えていた。
ダールトンの話の通りユーフェミアが加わったことでコーネリアの意識が変わり、ダールトンの支援で肉体的・精神的な余裕が生まれたとしても、扇が突然豹変したようにコーネリアやヴィレッタがおかしくならないとは限らない。
人間の心は弱い。
この異常な環境で異常な生活を続けていけば、心が持たない。
正気を失う。
日に日に正気を削られ続け、やがてその心は限界を迎える。ここにいる者たちは、異常なほど安定しているこの拠点にいるから精神の平穏を保っているが、ストレスが四六時中かかり続けていたら、カレンたちだってどうなっていたかわからない。
・・・この拠点以外では、いつ、誰が狂気に陥るかわからないのだ。
気が遠くなるほど長い時を生き、人の持つ狂気によって幾度となく殺害され、正気を失うほどの孤独に蝕まれ続けた。正気を保つために人であった記憶も感情も心の奥底に閉じ込めて封じていた魔女は、人間の脆さを誰よりもよく知っていた。
そして、その対処もおそらく誰よりもよく知っている。
だから、最適なのだ。この土地で、動き回るのに。
それがわかっていても、やはり最優先はルルーシュである以上、ここは離れられない。おそらくルルーシュも同じ答えを出すだろうから、先にここを動かない意思を示す必要があった。

「当然の選択だね。君は、ルルーシュのためにここに来たんだから、あちらに行かれては困る」

何のために君をここに連れてきたと思っているのかね?と、クロヴィスは呆れたように言った。ルルーシュの病がこれ以上悪化しないようにするにはC.C.・・・コードユーザーによるギアスの安定が必要不可欠なのだ。今でも離れている時間が長いとヤキモキすることがあるというのに、あちらの拠点に行くなどありえない。どんなに急いでも往復に1日かかる。最近だって倒れたのだ。これ以上悪化させるわけにはいかない。

「そうねぇ。私もあの二人が心配だけど・・・行くなら男性も連れて行くべきね。・・・で、確認に行くのは決定でいいのね?」

ラクシャータが藤堂と卜部を見ながらそうたずねた。

「何が言いたい?」
「見に行くか行かないか。今まで何度も話にはなっていたでしょ。最近だってその話をしたけれど、結局行かないということで決定したわね?でも、また同じ話をしている。何かあるたびに行くか行かないかの話になるのは不毛だと思うのよ」

ラクシャータはそう言うと、ワインに口をつけた。
言われなくても、皆同じことを思っていた。また、同じ話をしていると。
そしてまた、同じ結果になるだろう。
何度繰り返せばいいのだろう、このやり取りを。

「結論から言えば、みんな気になってるのよ。ここがあまりにも平穏で、あまりにも当たり前に生きていけるから、逆にあちらに残った人の安否が気になる。だけど、片や敵であるコーネリア、片や永田を殺害した扇。だから行かなくていい正当な理由を探してしまう。でも、気になって仕方ないから、また行くための理由をさがしてしまう。だからこうしていつまでも堂々巡りしてしまうわけ」

おそらく、ここ以外の拠点を全く心配していない人はクロヴィスと卜部・朝比奈だけだろう。クロヴィスはダールトンの報告を信じているし、何よりあちらにいるのはコーネリアだ。ユーフェミアもいる以上何かあればすぐに連絡が来る。だから何も心配はない。関わったことのない扇たちのことは、気にもしていない。 卜部にとってはコーネリアは対象外だし、扇は藤堂たちを困らせていたのを見ていた。永田を殺害している以上心配する気もない。ただ、巻き込まれた玉城と南には同情の余地があるため多少気にはしているが、ダールトンの報告を聞いて納得もしている。
朝比奈は扇たちを恨んでいると言ってもいいし、ブリタニア皇族はこのままのたれ死ねばいいと考えていた。
他の者達は大なり小なり彼らのことを気にかけていた。

「ならば、解決方法は一つだな」

わかりきっていたことだと、ルルーシュは息を吐いた。
理由を作って行かないということは、その理由で自分の気持ちを一時的に誤魔化すだけで、なんの解決にもならない。

「雨がやんだあと、両拠点の状況確認を行う。まずはブリタニアの拠点には、藤堂・卜部・ラクシャータ・カレン。その後一度ここに戻り、黒の騎士団の拠点に藤堂・卜部・スザク・ラクシャータで向かう」

ラクシャータを両方に向かわせるのはそれぞれの拠点に残った者の体調を確認させるためだ。彼女は軍人ではないため体力的にきついだろうが、セシルはどちらの拠点に連れていくにも危険だった。
コーネリア拠点は全員黒の騎士団を向かわせるが、扇拠点にはブリタニア軍人も連れて行くほうがいい。そうなるとスザクしか適任者はいない。カレンが行けば扇たちに同情し残る選択をしかねないため向かわせるわけには行かない。
ルルーシュがC.C.と共に行くという選択肢もあったが、体力と体調を考えれば無理だ。道の整備もできていない。痛覚が死んでいる以上、以前のように折れた枝や尖った岩で怪我をしかねない。

「ルルーシュ」

永田が手を上げた。

「どうした?」

「扇のところには、俺も行ったら駄目だろうか」
「何を言っているんだ。アイツラに殺されたんだろ!?」

ありえないと朝比奈が永田に言った。そもそも、朝比奈としては黒の騎士団結成前からの仲間である永田を扇が殺害したという時点で同情する気持ちは完全に消し飛んでいる。幽霊の永田を心配するのもおかしな話しだが、あの扇達の仲間とは思えないぐらいまともな人間だったし、いろいろと世話にもなっているので、それなりに心を許してもいた。

「だから、抑止力になるかもしれないと思ったんだ。最初から姿を見せる気はないけど、もし、扇がまた・・・」

永田はそこで言葉を切った。
つまり、扇がまた暴走したときに、自分が殺した永田の姿を見れば、それなりの効果を得られるんじゃないかというわけだ。だが、永田を見た瞬間にで正気を失い、何をしでかすかもしれない。メリットよりリスクのほうが大きいか?

「そんなに大変な相手なの?」

扇たちと直接的な面識のないスザクが、不思議そうな顔をしながらそういった。


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ルルーシュ拠点には加工に便利な竹。
女性陣には食料・水分補給・道具にと万能なココナッツがありました。
扇たちのところには何があるんでしょうね?(考えてない)

飲食関係:ココナッツオイル、ココナッツウオーター、ココナッツミルク、ココナッツシュガー、ナタデココ、ココナッツパウダー等
道具:外皮の繊維で強靭なロープなど。中身と外皮の繊維を取り除いた殻の部分で食器や雑貨に。

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