いのちのせんたく 第20話

カエルの肉と、薄切りにした大根、百合根を昆布と塩を加えて煮たもの。魚は塩を振ってそのまま焼く。卵は茹でて塩を振る。キュウリや生で食べられる野菜はそのまま薄切りにして添える。
それらを口に運びながら、スザクはうん、と頷いた。

「やっぱりこの方が美味しいですよね」
「そうだね、下手に手を加えない方がよさそうだね」

いろいろ試してみた結果、僕達はそう結論づけた。
美味しい料理を作ろうとすればするほど、食べれないものになってしまうので、魚は焼く、カエルや蛇、燻製にした物は煮ても焼いてもいい。根菜は薄く切って煮ないと苦くて硬くて食べれたものじゃない。山菜のたぐいはアクの処理ができないので、手を出さないほうが無難。味付けは昆布と塩以外は使わない方がいい。
よくルルーシュがドングリの粉を練って薄く焼いたナンのような物を作ってくれていたが、自分たちで作ろうとしても生地はまとまらない上に冷めると硬くてまずくなる。それなら殻ごと茹でた後、殻を剥いて軽く焼いた方が美味しかった。どの食材もそんな感じで、自分たちは俗にいう男の料理を作るほうが美味しいことを悟ったわけだ。
内容はワンパターンになるが、不味いよりずっといい。
ルルーシュに食べさせるときは、細かく刻んだりほぐせば問題はなかった。今も細かく切ったキュウリを、クロヴィスの作ったスプーンに乗せ、それを食べさせていたところだ。口に食べ物を入れると、ゆっくり咀嚼しながら食べているので、食事面では今のところ問題はないだろう。
やはり湯治という案は良かったようで、昨日一日温泉に入れただけで、顔色も良くなり、体に残っていた痣もかなり薄くなったように見える。食料には余裕があるので取りにはいかず、今日もこれから温泉に入れる予定だ。

「・・・そういえば、クロさん。昨夜の説明してもらえませんか?」

僕のその言葉に、食事をしていた手を止めたクロヴィスは、困ったような顔でこちらを見た。





昨夜、腕の中に居たルルーシュが自分の意志で動いたのを感じ、僕は眼を覚ました。
死んだような眼をしたルルーシュは自分から動こうとしないはず。それはつまり、ルルーシュの意識が戻ったということではないだろうか。僕はルルーシュに声をかけず、じっと、その様子を見つめた。
ルルーシュは自分の体を、とても重いと言いたげに、ゆっくりと動かし、背中側に居るクロヴィスの方を一度見た後、仰向けになった。その瞳にはわずかに光が戻っているようにも見えるのだが、やはりまだ覚醒していないのか、虚ろな瞳を虚空に向けていた。しばらくしてから、のろのろとした動きでその腕を虚空へと伸ばし、まるで何かをつかもうとするその様子に、僕は言い知れぬ恐怖を感じた。
その腕が震えながら、何もない宙をつかもうと指を動かした時、横から勢い良くその腕を掴み、引き下ろした者が居た。それは必死の形相のクロヴィスで、その視線はルルーシュと同じく虚空を見つめている。ただし、ルルーシュのように焦点の合わない視線ではなく、間違いなくクロヴィスの眼には何かが見えているようだった。

「いい加減にしなさい!駄目だといった意味がまだわからないのかい!?」

わずかに怒りもにじませた声音で、クロヴィスは虚空へ向けてそう言った。

「そうではないだろう、ルルーシュは生きているのだから、そちらへ連れて行こうとしてはいけない。話がしたいなら、私のように此方側に来たらいい。・・・だから、聞きなさい。思いついたからといって、相手のことも考えずに行動するのはやめなさい」

クロヴィスはルルーシュの手を握りながら、虚空にいる誰かを叱っているようだった。一体誰だ?死者であったクロヴィスには見えているということは、相手は死者なのかもしれない。

「・・・昨日の夜もかい?」

眉を寄せてそういったクロヴィスの言葉に、スザクは思わず顔をしかめた。虚空に居る相手は、ルルーシュが昨夜ここを抜けだした理由で、もしかしたらこの状態になってしまった原因なのかもしれない。つまり、敵だ。だが、見えない相手と戦うのは得策ではない。再び光を無くし、暗く淀んだ瞳でただ目の前に視線を向けているルルーシュを抱き上げると、クロヴィスが視線を向けているその虚空から少しでも距離を取ろうと、洞窟の出口に向かって移動した。
クロヴィスもそれに気づき、僕達を背に庇うように体を動かした。

「君の悪い癖だよ、それが出来たのは、結局私達が皇族だったからに過ぎない。皆が私達の考えを名案だと讃え、実行してくれたのは私達が強者だったからだ。自分の望みが何でも叶うと思ってはいけないよ、ユフィ」

その名前に、スザクは何も見えない虚空を凝視し、そこの場から動けなくなった。
クロヴィスがユフィの名前を言ったすぐ後に、ユフィはその場から姿を消したようだった。もう大丈夫だというクロヴィスの言葉を信じ、寝床にルルーシュを戻してから、どういうことなのか聞いてみたが「ユフィはルルーシュと話がしたいと、私ばかり一緒にいるのはずるいと、わがままばかり言っているんだ」と、困ったように言っただけだった。
ユフィの幽霊がルルーシュに取り憑いているのだろうか?
でも、ルルーシュのこの症状は病気が原因だと言っていたはずだ。





「死者である私が、死んでいる間に手に入れた情報を、生者に教えることは、あまり良いことではないんだが」

そう前置きをすると、クロヴィスはルルーシュへ視線を向けた。

「私がそうであったように、ユフィもこの島で起きていることを感じている。そして、ルルーシュと話がしたいと、何度かルルーシュに干渉しているのだよ。ここに君たちが来た初日、夢の中でなら会えるのではないかと、ユフィはルルーシュの精神に干渉し、その結果、ルルーシュは行政特区の記憶を夢の形で見てしまった。君も引きずり込まれて見てしまっただろう?ルルーシュがここまで悪化した最大の原因はそれだ。どうやらその後も何度かルルーシュに接触しようとしていたようだね。一昨日の夜ルルーシュが外へ出たのは、ユフィに呼び出されたからだ。干渉しても話すらろくにできないのなら、自分の所に連れて行けばいいのだとユフィは考え、ルルーシュの手を引いて連れて行こうとした。その結果、ルルーシュの精神が耐え切れず、今の状態になったのだろうね」
「ユフィが・・・ルルーシュを恨んで、取り憑いているということですか?」
「それは違う。ユフィは恨んでなどいないよ。恨む理由もないからね。ただ、ルルーシュと昔のように話がしたいと、ただそれだけなんだ。体を壊し精神が不安定なルルーシュは、その干渉に耐えられなかった」
「恨む理由が・・・無い?」
「・・・余計なことを言ってしまったね。ルルーシュは体力的にも回復してきたし、そろそろ目を覚ますだろう。そうすれば、ユフィの干渉も受けなくなる。だから、また体を壊さない限り、問題はないよ」
「・・・ユフィは今のルルーシュの状況を知っているんですよね?それなのに、悪化するとわかっているのに、干渉していると言うんですか?ユフィがそんな事、するわけがない」

あの優しく、慈愛に満ちたユフィが、衰弱したルルーシュを追い詰めるようなこと、恨んでいないならするはずがない。もし干渉するなら、ルルーシュを癒やすためのはずだ。

「ユフィは思いついたら即行動の子だからね。相手の意志はあまり考えないのだよ。自分の行動は絶対に正しい、皆が受け入れてくれると信じている。君もそのことはよく知っているだろう?スザクを騎士にした時、ユフィは君の意志を確認したかな?君は一度でも騎士についてユフィと話したことはあったかい?行政特区の宣言をした時、総督である姉上でさえ、そんな話は知らなかったのだよ。あの場には君とルルーシュ、そしてナナリーがいた。三人の目の前で、自分が考えた行政特区の宣言をしたい。そう思いついて、あの子はあの場で、カメラの前で宣言した。その後のことなど何も考えずにね。ユフィは自分が考えて、名案だと思ったことを押し通す子だ。それが叶ったのはあの子が皇族だからで、周りの人間があの子の機嫌取りをし、その望みを叶えていたからに過ぎない。その筆頭が姉上で、ユフィの行動で起きたあらゆる不祥事は姉上がもみ消していた。ユフィは知らなかったようだけど、あの子の善意は多くの人を救うが、同時に多くの人を苦しめ、傷つけてきた。・・・君はユフィの優しい面だけを見ていたから信じられないかな」

クロヴィスは、ユーフェミアは手のかかる妹だよと、眉尻を下げながら、そう言った。






・ルルーシュ・
 *暫くの間行動不能になりました。
 *会話が成立しなくなりました。
 *温泉効果で腕の怪我と痣は治リかけています。
 *ユフィに取り憑かれています。

・スザク・
 *ルルーシュを心配しています。
 *料理がまずくてだんだんテンションが下がってきました。
 →ルルーシュへの過保護度が上がった。
 →クロヴィスへの信頼度が上がった。
 →ユフィに対し警戒心が上がった。

・クロヴィス・
 *ルルーシュを心配しています。
 *ユフィの行動に対し怒っています。
 *料理がまずくてだんだんテンションが下がってきた。
 →ルルーシュへの過保護度が上がった。
 →ルルーシュへのブラコン度が上がった


※ユフィがその辺に居るようです。



ルルーシュ居なくても、環境はある程度整っているし、スザクがいれば食べるのに困らない。動けないルルーシュの世話を兄と友人が奪い合い始めた時点で、難易度上げるのは無理だと気づきました。スザク潰してもルルーシュが世話するだろうし、もうスザルルクロ組はさっさとルルーシュ復活させて、このままイージーモードで生活してもらいます。


ユフィの言動は、本人への意志確認も、上司(総督)への報告もなしに、自分の考えを実現させるものなので、完全に皇族だから出来たことですよね。しかもテレビやマスコミに対して発表しているから、後戻りも出来ない情況にしているという。皇族の発言だから叶えないといけないし、戦闘中に告白とか、スザクじゃなきゃ完全にブチ切れる状況だったと思う。というわけで、スザクからユフィの<慈愛の姫フィルター>外れないかなと、幽霊状態で参加。
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