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太陽が真上を通りすぎようとした頃、鬱蒼と生い茂った原生林の中に一人の男の姿があった。腰の高さほどある草をかき分けながら、ひたすらに前へ前へと足を進めている。その表情は険しく、頬はこけ、疲れきった表情をしていた。 「この辺りにも無いか」 ふう、と息を吐いた男・・・藤堂は、草むらをようやく抜けると、今までとはうって変わり、周りが岩石に覆われた場所に出た。少しの間この岩場も探索してみたが、水があるようにはとても思えず、額を流れる汗を手の甲で拭いながら、一度休憩を取ろうと近くにあった大きな岩に腰を下ろし、飯盒をあけ、中に入れていた水を一口飲んだ。 既にぬるくなった水は、それでも喉の渇きを癒やすには十分な効果があり、思わす藤堂は息をついた。残りの水の量から考えて、そろそろ拠点へ戻らねばならないだろう。 朝からかなりの距離を歩いたが、やはり水源は見つけられない。この島の大きさがまだ判らないが、川が幾つもあるとは思えない。どこか池や湧き水が湧いている場所があればいいのだが、やはり無いか。 こうなれば、やはり海に出て、出来るだけ拠点から遠い場所へ移動するしか無いのかも知れない。あるいは下流に行ったふりをしてから川の上流に移動するか。 ここ数日ずっと探索していたが、これ以上闇雲に探していても時間だけが無駄に過ぎていく。朝比奈はもう限界だ。あの三人は、何度話し合いをし、説教をしても、このまま我々に寄生し続ければいいという思考から抜け出す気はないようだ。自分たちを見殺しにするはずがないという自信があるらしいが・・・。 がさり、と草を分け入る音が聞こえ、藤堂は意識を音のした方へ向けた。間違いない、人の気配だ。木の影に隠れて様子をうかがっていると、見知った人影ががさがさと音を立てて草陰から姿を現した。 「ラクシャータか?」 「あら、藤堂じゃない?あんたもここに来てたの?カレーンちょっとこっち来なさい」 突然声をかけられたことに、驚いたラクシャータだったが、相手が藤堂だとわかってホッと息をつき、今自分が来た方向へ声をかけると、ラクシャータが声をかけた辺りからガサガサと音を立てて一人の少女が姿を現した。 「はい、どうかしましたか?って藤堂さん!」 「カレン君も来てたのか」 ぱあっと明るい笑顔で喜ぶカレンを見て、藤堂は久しぶりにその顔に笑みを乗せた。 立ち話も何だと、手近な岩場に三人とも腰を下ろす。 「君たちは、何か探していたようだが?」 「ええ、住む場所をね。一緒にいる連中と別れたいのよ。そうねぇ、あんたたちの所に行ってもいいかしら?」 「いや、こちらも同じことを考えていてな。新たな拠点を探していた」 ああ、そうなの、と疲れきった顔でラクシャータは笑った。 カレンは残念だと言いたげに深い溜息をついた。 同じように苦労していたらしい二人に、藤堂は苦笑するしか無い。 「・・・一緒にいるのは誰なのかしら?」 「仙波・朝比奈・扇・玉城・南だ。扇と玉城、南が何もしなくてな、川があるのに体を洗うこともしない。食料を捕ろうともしない。それでいて、腹が減ったから何か用意しろと言ってくる。お陰で、いつも朝比奈、仙波と口喧嘩をしていて、このままでは最悪の事態も起きかねない状態だ。まったく、あれで黒の騎士団の副指令と幹部だというのだから・・・」 ああ、すまない。駄目だな、愚痴っぽくなってしまった。 藤堂は苦笑しながらそう言った。 何時になく疲れた様子の藤堂に、ラクシャータは「気持ちはわかるから気にしないで」と、軽い口調で言った。 「そっちは全員騎士団なのね。こっちよりも、まだまし・・・でもないわねぇ。味方であるからこそ、協力できない役立たずは腹立たしいわよね。こちらは私とカレン、C.C.、千葉。そしてブリタニアのコーネリアとヴィレッタ。そしてセシル・・・白兜の関係者で私の古い友人が居るわ。こっちの問題児はコーネリアとヴィレッタ。そっちの三馬鹿と似た状況よ。だから新しい場所見つけたら、セシルも連れてあそこを出ようと思ってるわけ」 「全員女性か」 「そっちは全員男なわけね。で、どうする?」 「どうするも何もない。新たな拠点を探し、合流しよう」 「やった!私頑張って探します!」 話のわかる仲間と出会えたからだろうか、カレンの気力が回復し、やる気満々のいつもの明るい表情になっていた。カレンだけではない。藤堂とラクシャータも久しぶりに笑えたことで、心が軽くなったような気がした。 「とはいっても、そろそろ此方は限界だからな。そうだな、あと2日各自探してみるのはどうだろうか。3日後再びここで報告をしよう。もしその時になっても新たな拠点が見つからないのであれば、海岸に拠点を作る」 「海岸は私達も考えてたわ。了解。後2日こっちも探してみるわ」 「分かりました!」 一旦ここで別れることで話はまとまり、三人は各自の拠点へと足を向けた。 ドクン、ドクンと誰かの心臓の音が聞こえてくる。優しく包み込むようなその音に耳を傾けていると、反対側の耳からパシャリ、パシャリと水が跳ねる音が聞こえた。その音と共になにやら液体が体にかけられている感触。全く温度は感じないが、聞こえる心音も、体にかかる液体も、とても温かいものだと、そう思った。 それが何なのか確かめたいのだが、開いているはずの眼に映るのは真っ暗な闇だけで、それ以外何も見えなかった。でも、何かがここにあるはずだ。この心音は自分のものではない。見えないのであれば、手で触れればいい。そう思うのだが、体が鉛のように重く、指一本動かすのさえままならない。これは夢なのだろうか?自分は眠っているのか?信じられないほど鈍い思考。動かない体。夢ならばいい。だが夢でないとしたらこれは何だ?死という単語が頭に浮かび、思わず身震いした。その事に、そこにいる何かは気がついたらしい。体にかかる液体が止まった。 ・・・・?・・・・・、・・・・・? 何かが聞こえた気がした。なんだろう、とても懐かしい、でも、これはすでに失ったモノ。 二度と手に入らない、大切な。そう思った時、頬に何かが流れるのを感じた。 ・・・・?・・・・るの? 何かが頬に触れ、流れたそれを拭った。流れたのは涙か?俺は涙を流したのか? 頬に触れたのは、誰かの手だろうか。 優しく触れるその手に覚えがある。よく知っている大切なもの。妹と同じぐらい大切で、守りたいと、そう思っていた。だが、守るどころか、辛い目に遭わせてばかりいる。 お前を悲しませるつもりなどなかったのに。すべてが終わったら、必ず仇は取らせてやる。今は無理だが、必ず。そう思うと、再び涙が頬を流れた。 すまない、スザク。 「・・・っ!謝るぐらいなら、いい加減起きてよっ!」 耳元で聞こえたその泣声に俺の視界は一瞬で開けた。 暗闇から一点、明るい日差しを浴びた新緑が視界に飛びこんできた。水の流れる音、これはすぐ側の川の音。今まで聞こえなかったのが不思議なぐらい大きな川の流れる音と、草木が風に揺れる音。視界を少し下げると、体の周りには石で囲まれた水たまり。ああ、俺は温泉に入っていたのか。そのことを認識すると、白い湯気が視界に入った。今なら、自分が胸の高さまであるお湯に体を浸しているのが分る。 未だ力の入らないその体を、誰かが抱きかかえていた。 俺のものとは違い、筋肉に覆われた、男の腕。 両腕で体をギュッと抱きしめ、肩を震わせながら、その顔を俺の髪に埋めている誰か。いや、これが誰かなんて、確認するまでもない。 俺は先程まで重く動かせなかったはずの腕を上げ、俺の頭の上にその額を乗せている男の頭を撫でた。いつもはふわふわのくせ毛なのに、濡れているため、その髪はまっすぐになっているらしい。俺の指が触れた途端にビクリとその男は体を震わせ、のろのろと顔を上げた。 「・・・泣く、な、スザ、ク。どう、した。何が、あった?」 うまく口が回らない。俺はどうしたのだろう?まあ、そんなことは今はいい。問題はスザクが泣いていることだ。誰が泣かせた?誰が悲しませた?一体何があった?もう大丈夫だスザク。お前とナナリーは俺が必ず。 「ルルーシュ!?」 驚いたような声を出したスザクは、その掌で再び俺の顔に触れると、涙で濡れたその顔でじっと覗きこんできた。俺はその濡れた頬に手を伸ばし、流れる涙を拭った。驚いたような顔をしていたスザクは、とたんに破顔し、更に涙を流した。 「ルルーシュ、よかった。気がついたんだね?僕が分る?」 「なにを、言ってるんだ?スザクが、わからないはず、ないだろう?」 おかしなことを聞くスザクは、嬉しそうに笑った後、よかった、よかったと何度も言いながら、俺を抱きしめてきた。 側で様子を見ていたらしいクロヴィスも、その瞳に涙をためているようだった。 よかった、もう安心だと泣きながら話す二人の会話から理解った事は、スザクに説教をされて横になってから、既に5日経過しているということだった。 藤堂・ラクシャータ・カレンが再開した。 三人の気力とやる気が回復した。 ルルーシュの意識が戻った。 ルルーシュの体の痣がほとんど消えた。 ルルーシュの腕の傷はかなり回復した。 藤堂たちがかわいそうになったので、合流フラグを立てました。 当然扇たちは捨てる方向で話は進んでいきます。 ルルーシュ潰しても難易度変わらないので、さっさと回復させました。 温泉にはスザクとクロヴィスが交代で入れてました。 ご都合主義で傷も含めてある程度回復してます。 |