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「おいしい!」 「うん、やっぱりルルーシュが作る料理は美味しいね」 「・・・そんなに喜んでもらえるものは作れてはいないのだが」 5日間眠っていたような状態だったルルーシュは、目を覚ましはしたが動きが鈍く、当分は無理をしないよう二人に言い聞かされたのだが、食事ぐらいは作らせてほしいと頼み、二人にも手伝ってもらい作ったのは、干した魚と野菜・野草類を煮込んだ鍋。ルルーシュからすれば、味付けも下ごしらえもかなり適当で、あと少し手を加えればもっと美味しくなるのにと、かなり残念な出来なのだが、それでも二人は美味しい美味しいと次々箸を進めていった。 「二人共、俺が眠っていた間、ちゃんと食べていなかったのか?」 これだけ食べ物が豊富で、その上スザクまでいるのだから問題無いと思っていたのに。勢い良く減る鍋の中身に、もしかして二人は自分の世話にかかりきりになって、ろくに食事をする暇もなかったのではないかと心配になった。 「ううん、ちゃんと食べてたよ。美味しくなかっただけで」 「そうだね、固いし苦いし、泥臭いし、美味しい料理とは程遠いものばかりだったよ」 「まさにサバイバル料理って感じかな」 その時の味を思い出したのだろう、二人は苦笑いした。 不味い料理だと?今作ったものも、ただ野菜類を切って、アクを抜いてからひとつの鍋で煮て、多少味を調える程度しかしていないのだが、それなりに食べれるものにはなっていると思う。 それを、不味くて食べきるのに苦労した?二人は一体どんな料理を作っていたんだ?と、不安になり、思わず眉を寄せた。 それを見たスザクは、横から手を出してその頭を小突いた。 「こら、ルルーシュ。そんな深刻そうな顔するな。魚とかカエルとか、芋とか、見知った食材だけを扱うようにしてからはちゃんと食べれるものになったよ。灰汁抜きとか、渋抜きとか、知識のない僕達には無理だってことがよくわかった。そんなに心配なら、もう体を壊さないようにすること。無理はせず、僕達の言う事もちゃんと聞くこと。そして、美味しいご飯を僕達に作ってよ」 鍋の中を綺麗に平らげたスザクは、そう言いながら、片手鍋で作っていたコーヒーのお代わりを全員のカップに注いだ。 「そうだよルルーシュ。今の君は自分の体調の良し悪しは分からないのだから、私達の判断を信じなさい」 満足気に、たんぽぽコーヒーを口にしながらクロヴィスまでそう言うので、既に知っているC.C.以外には絶対に見せたくはなかった姿を見られた以上、ルルーシュは頷くしか無かった。 「・・・不満そうだなルルーシュ。お前があんな状態になって、俺達が苦労しなかったとでも?」 昔のような口調で話し始めたスザクは、本気で怒っているのだろうとルルーシュは判断し「いや、迷惑を掛けた。すまない」と、顔を伏せた。それでなくとも足手まといだという自覚はあった。それなのに、自分の面倒すら見られない状況になったのだ、どれほど二人の負担になったのだろう。 色々と考え始め、暗い顔となったルルーシュを見て、スザクはしまったと、怒りに任せた自分の発言を後悔した。 実際、ルルーシュが人形のような状況になったことで、食材の確保も探索も何も出来なかったのは確かだが、ルルーシュが用意していた保存食と川で取れる魚類で事足りたので、食料面での不安は何もなかったし、周辺の整備も殆ど終わっていたので、クロヴィスに世話を任せていつも通り採取や探索に行くことも出来た。 それをしなかったのは、ルルーシュが心配だったのと、世話をされることを良としないルルーシュを世話するという貴重な機会を逃すなんて選択肢は元々無かったからだ。その上、あのルルーシュは庇護欲をそそり、その側を離れがたかった。 クロヴィスと二人で世話をしていたというのもあるが、人形のようなルルーシュは手が殆どかからなくて、クロヴィスとルルーシュが昼寝をしている間に、ルルーシュが怪我をした道の整備も終わらせる余裕も会ったほどだ。 たしかに、不安による精神的な疲労と不味い料理という苦労はあったが、それ以外は疲労も苦労も感じなかった。 かと言って、ここで甘いことを言ってしまうと、また無理をしてしまう。 しっかり説教はしておきたい。 でも、精神的負荷は再び人形になる原因になりかねない。 どうすべきだろうと悩みながら、スザクは眉根を寄せ、口を真一文字に結び、ルルーシュを見ていた。端から見ればルルーシュを責めているように見えるその様子に、ルルーシュの顔色はますます悪くなり、そんな二人を見ていたクロヴィスは困ったように苦笑した。 「ルルーシュ、スザクはすごく心配していたんだよ。私は病も、あの状況の君も勿論知っていたが、スザクは何も知らなかったかのだから、彼がどれほど心を痛めたか分るかい?スザクが怒っているのは君が心配だからだ。だからそんなに考えこまずに、今後スザクを心配させずに済むよう行動しなさい。・・・よく聞きなさい、ルルーシュ。君がこの拠点をしっかりと管理し、今後の予定を立て、食事や健康面も気遣ってくれるから、こんな奇妙な場所でも行動をすることが出来る。こんな場所でこれだけ不自由なくいられるのはルルーシュの力だ。君は役立たずではないのだよ」 クロヴィスはそう言いながら、顔色を悪くしているルルーシュの頭をなでた。ルルーシュは、そんな行為に文句ひとつ言わず、されるがままだった。まるでまた人形に戻ってしまったようなその様子に不安を感じるが、それ以上に今聞こえた内容のほうが気になった。 「役立たず?ルルーシュが?何の話ですかクロさん」 「おや?私はそんなことを言ったかな。最近歳のせいか物忘れが酷くてね。さあ、ルルーシュ。片付けは私がするから、少し横になりなさい。顔色が悪い」 「クロさん!」 「スザク、ルルーシュを休ませるため、洞窟まで連れて行ってくれるね?」 質問は許さないという、凛とした皇族としての声音で命令され、スザクはそれ以上質問するのはやめた。 まだ一人で歩くとふらつくルルーシュを洞窟まで抱いて運ぼうとしたが、俯いたまま小さな声で「絶対に嫌だ」ときっぱりと拒絶され、自分で戻れるというルルーシュをどうにか説得し、背負って運んだが、戻っている間スザクが話しかけても、ルルーシュはスザクの肩に顔をうずめたまま一言も喋ることはなかった。 大人しく横になるよう言い聞かせた後、スザクは急ぎ河原へ戻った。 河原では既に慣れた手つきでクロヴィスが食器を洗っていたので、スザクもその横にしゃがみ、まだ洗っていない鍋を手にし、川の水で洗いはじめた。 「・・・教えて下さい。ルルーシュが役立たずって何の話ですか?」 じゃぶじゃぶと、タワシで汚れを洗い流しながら、クロヴィスは「死者の情報を生者に与えるのはあまり良くないのだけどね」と、以前も聞いたことのある前置きをしてから、その顔を曇らせた。 「死者であるユフィはこの島で起きていることを見ている。勿論ルルーシュのこともだ。そのユフィが言ったのだよ。ルルーシュは自分を役立たずだと思っているのだとね。食事の用意ぐらいしか出来ないのに、体を壊して今まで以上に足を引っ張ってしまったと思っているようだ」 「そんな!ルルーシュがいるから、こんな場所でも何も心配すること無く暮らせているのに、役立たずなんて有り得ない!」 もし自分一人なら、完全なサバイバル生活だ。今のようにおいしい食事を取り、拠点を中心に生活環境は整えられ、温泉もあり、衣服も清潔に保たれている状況なんてあり得ないことだ。 その上、あの女性たちの生活の一部を眼にしているのだ。今がどれほど恵まれているか、スザクはよく理解していた。だがそのことをルルーシュ本人は気づいていず、食事を用意する以外何も役に立っていないと思い込んでいるのだという。 だからか。まだろくに動けないくせに、食事は自分で作ると言ったのは。 ルルーシュが作ってくれることを素直に喜んだが、まさかそういう意味だったなんて。 「ルルーシュにとって、私達たちの健康を気遣い、住みやすく環境を整えるということは、役に立つうちには入らないのだろうね。行動を制限されたことで、余計その思いを募らせたようだ。足手まといで役立たず。その上病気まで抱えている。その病気のせいで5日間も私達に迷惑を掛けてしまった。だから、不満ではなく、自責の念で不機嫌なのだよ。だから、あまり責めないでやってくれ」 体調がまだ回復していないから、感情を隠すことができていないようだしね。 そう言われて、スザクはハッとなった。 深刻そうな表情、不満そうな表情。俯き、反応すら示さなくなるその態度。普段のルルーシュなら、この状況でそんな感情を人に悟らせる真似は絶対にしない。相手の激情を抑えるよう会話を進め、それに合わせた表情を顔に乗せるはずだ。 「だが、ようやくルルーシュが起きてくれて、安心したよ。5日というのは最長だからね。今までは長くても1日半だったはずだ。今回のことでルルーシュは反省しているから、もう無理はしないだろう。ユフィも反省している。自分の行動がルルーシュの心を追い詰め壊すとは考えていなかったのだよ。自分と話をすれば、ルルーシュの病も良くなるはずだと言い続けていたからね」 何度も言い聞かせたのだが、結果をその目で見るまで理解ってくれなくてね。 自分が素晴らしいと思ったことを押し通そうとする所があの子の欠点だよ。 洗い終わった食器を持って、クロヴィスはそう言い残し洞窟へ向かった。 ・ルルーシュ・ *意識が戻り、料理が作れるようになった。 *思考がネガティブになっている。 *痣はかなり消えた。 *腕は動かすのに支障のない程度まで回復した →二人に対する罪悪感が上がった。 →自分の無能っぷりに落胆している。 →クロヴィスへのブラコン度が上がった。 ・スザク・ *ルルーシュが目を覚まして喜んでいる。 *美味しい料理でテンションが回復した。 *ルルーシュとユフィの思い込みに困惑している。 →ルルーシュへの過保護度が上がった。 →ユフィに対し警戒心が上がった ・クロヴィス・ *ルルーシュが目を覚まして喜んでいる。 *ユフィをルルーシュから引き剥がすのに成功した。 *美味しい料理でテンションが回復した。 →ルルーシュへの過保護度が上がった。 →ルルーシュへのブラコン度が上がった →スザクへの信頼度が上がった。 ※ユフィは少し反省していますが、今後も警戒は必要です。 |