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話の内容に思わず止めてしまった手を再び動かし、鍋を洗いながら、スザクは静かに苛立っていた。 「・・・何なんだよ。役立たず?ルルーシュが!?・・・ったく、ルルーシュの勘違いを正すなんて、難易度が高過ぎるだろ。さっきのクロさんの話でも絶対納得していないよ。自分の間違いを指摘されても認めないのは皇族特有のものなのか?ということは皇帝からの遺伝か。ああ、すごく納得できるよそれ。あーもー、役立たずってなんだよ。馬鹿だよ、頭いいけど本っ当にアイツは馬鹿だ。これだけ色々ものを作って、環境を整えたの誰だよ。拠点の整備は数に入らない?料理は入る?どんな基準なんだ。俺なんて散歩と仕掛けの回収しかしてないじゃないか。・・・まったく、一体何をさせれば納得するんだ?」 スザクはぶつぶつと文句を言いながら、既に綺麗になっている鍋を洗い続けていた。今使っているこのスポンジだってルルーシュの手製だ。ルルーシュがヘチマを見つけてすぐに加工して作った。そう、ルルーシュが見つけたんだ。僕ではヘチマは見つけられても食用にしようなんて思わないし、こんなスポンジを作ったりなんて考えもしない。そう、ルルーシュを連れてじゃがいもを採取しに行ったから・・・・。 そこまで考えてスザクはハッとなった。 「・・・あ、そうか。連れて歩けばいいんじゃないか?」 確か、行動を制限されたことも原因みたいにクロヴィスは言っていたはずだ。なら共に行動する時間を作り、この島の調査をしてもらえばいい。つまりは、最初の頃のように一緒に行動すればいいんだ。僕が一人で歩きまわっても食材以外何一つ・・・女性のことはともかく、発見はできていない。だが、ルルーシュが見れば何か分かる可能性もある。新たな道具の材料も見つかるかもしれない。一緒に動くことで、彼を守ることができるし、それでなくても体力がなかったのに、この5日で更に体力が落ちている可能性もある。なら適度な運動は必要だよね。 「うん、そうしよう」 問題が解決したことで、機嫌が良くなったスザクは、洗い終わった鍋を手に、足早に洞窟へと戻った。 「ほら、ルルーシュ、早く横になりなよ?」 「・・・いや、待てスザク。どうして俺とお前の寝る場所がそんなに近いんだ?」 夜も更け、焚き火の始末も終えた後、こんな暗い中でも平然と歩けるスザクに手をひかれながら暗い洞窟へ入り、横になろうとしたのだが、何故かスザクの寝床が自分の寝床の真横に用意されていて、ルルーシュは思わず眉を寄せた。 「いくらなんでも近すぎるだろう。もう少し離せ」 ルルーシュの寝床は洞窟の最奥なので、ルルーシュ側からはどうやっても離すことは出来ない。既に横になっているスザクをグイグイと押して起こそうとするが、全く起きる気配はなく、反対に早く横になるよう促されてしまう。 「いいんだよこれで。君が眠っている間、ずっと僕が添い寝してたんだから」 「添い寝!?・・・そこまでしなくても・・・ああ、いや、ありがとうスザク。でも俺もこうやって起きたわけだし、もういいだろう?」 「駄目だよ、ルルーシュ。一緒に寝てわかったことだけど、君は体温が低すぎる。うまく体温調節できていないんだ。火から離れるとすぐに指先から冷たくなっていく。ここが寒いわけじゃない、洞窟の中も十分温かいんだよ?だから、ほら」 そう言いながらスザクは一度体を起こすと、ルルーシュをその腕に捕まえ、抵抗など意味は無いと言うように、あっさりとルルーシュの体を横たえ、毛布とラウンズのマントをその体に掛けた。 「スザクっ・・・!」 「駄目だって言っただろ。大人しく寝るんだ」 スザクは、尚もじたばたと抵抗するルルーシュの体をあっさりとその両腕に閉じ込め、抱きしめた。 「スザクっ!・・・ああ、もう、分かった、分かったよ。分かったから離せ。腕枕なんてしてたら腕が痺れるだろうに」 「ん?別に?ここ最近こうやって寝ていたし、君はこうしたほうがよく眠れるみたいだったよ?」 ギュッと抱きしめられ、スザクの腕に頭を乗せるような形となってしまい、あまりの近さにルルーシュは離れようと、両腕でその胸をグイグイと押してみるが、びくともしなかった。この体力馬鹿がと内心悪態をついた後、目の前にあるスザクの顔を睨みつけた。 「だからっ、近すぎるだろう!」 ここ数日、決して見ることの出来なかった力強い輝きを放つロイヤル・パープルの瞳に、思わず引きこまれそうになりながらも、スザクはにっこりと笑った。 「君を温めるなら、このぐらい近くないと意味が無いだろう?諦めろルルーシュ」 スザクには何を言っても無駄かと、いくら力を入れてもびくともしない体力馬鹿との不毛なやり取りに、諦めるかのような溜め息を吐いた後、ルルーシュは大人しく体の力を抜いた。 「そうそう、それでいいんだよ」 そんなルルーシュの様子に満足したスザクは、明るい声でそう言った。 スザクのその反応が気に入らないと言いたげに、睨みつけるが、スザクはニコニコとした笑顔を崩さなかった。人形のようなルルーシュは庇護欲をそそるし可愛かったけど、やっぱりこのルルーシュのほうがいいよね。 そんなことを考えているなんて思いもしないルルーシュは、再び溜め息を吐いた。 その様子に、ようやく笑顔を消したスザクは眉尻を下げた。 「ルルーシュ、溜め息なんて吐いたら幸せが逃げるよ?」 「うるさい馬鹿。いいか、疲れたら離れろよ。俺はもう大丈夫なんだからな」 「君の大丈夫は信用出来ないよ。ほら、もう指先が冷たくなってきてる」 そう言いながら、スザクはルルーシュの手を取り、指先を撫でるように触った。だが、スザクの指の温度は当然として、その感触をあまり感じず、指の感覚が先程よりも酷く鈍くなっていることに気づき、ルルーシュはスザクの言ってることは本当かもしれないと理解した。理解したからといって、認めるつもりはないが。 「・・・気のせいだろ」 「気のせいじゃないよ。君の指は僕にはひんやりして気持ちいいぐらいだよ。そのぐらい冷たくなってる。少しでも早く体調を治したいんだろ?なら、大人しくこのまま寝ること。いいね?・・・おやすみ、ルルーシュ」 そう声をかけた後、スザクはルルーシュを再び抱きしめた。 体調を崩し5日間も迷惑をかけてしまった以上、ルルーシュはそれ以上反論することが出来ず、再び溜め息をついた後、大人しくスザクの胸に額を付け、瞼を閉じた。 スザクの心音を聞きながら、こんなに他人と近い状態で眠るのはC.C.以外では久しぶりで、眠れないだろうと思っていたが、あっという間に眠りにつき、毎日見ていた悪夢をその日は見ることはなかった。 そんな様子をじっと見ていたスザクは、スウスウと規則正しい寝息が聞こえ始めるとホッと息をついた。 「うん、やっぱりこの方が眠れるんだね。良かった、起きてからも変わらないみたいだ」 「・・・悔しいが、そのようだね。私とスザクの何が違うというんだ」 何度も同じようにルルーシュを寝かしつけようとし、失敗したクロヴィスは、スザクの腕の中で眠るルルーシュを覗き見た後、恨めしげにスザクを睨むが、スザクはその視線さえ嬉しいのだと言いたげに受け止めた。ルルーシュはこうやってスザクが体を密着させて、心音を聞かせながら優しく背中を叩いてやると、1分とかからずに眠りに落ちる。 理由は判らないが、ルルーシュが安心できるのは自分だけなのだという優越感と、安堵で思わず口元が緩んでしまう。 親友であった彼を皇帝に売り払い、記憶を奪い、偽りの記憶を植えこまれた彼を、望まぬ戦場へ立たせ、その後は24時間監視体制の中へ放り込み、その監視の最高責任者となった。 そんな自分を今もこうして受け入れてくれている。 それは彼の記憶が無いからで、もし彼に記憶があればこのような状況は許されない。許されるはずがない。 「・・・親友、ですから」 もしルルーシュがゼロにならなければ、親友のままでいられたのに。こうやって君を守ることが出来たのに。 冷たくなった手を暖めながら、そうクロヴィスに言うと、不満そうな溜め息が聞こえてきた。 「私は実の兄だ」 「ルルーシュにその記憶はありませんよ?」 記憶が戻っていることをクロヴィスは知っているが、そのことを口にすることは出来ず、言葉を飲み、不機嫌そうに眉根を寄せたが、安心しきったかのようにスザクに体を預け、すやすやと無防備に眠る弟のその寝顔を見て、すぐに眉尻を下げた。 何度裏切られても、拒絶されても、味方となること無く敵として対峙したとしても、それでもルルーシュにとってスザクは自分の側で誰よりも味方となって欲しい存在で、ナナリーと共に幸せになってほしいと願う大切な者だった。 その願いを知っているからこそ、クロヴィスはスザクを粗雑に扱えないし、たとえ今だけだとしてもルルーシュを守る側にスザクが居るというこの状況は喜ばしいものであった。ルルーシュの壊れた心を治すきっかけになる可能性もある。 「まあいい。スザク、ルルーシュの言う事も最もだ。ルルーシュのことも大事だが、無理をしてはいけないよ。スザクの負担にならないようにしなさい」 「・・・はい。ありがとうございます」 弟の親友だからということもあるのだろう。弟が頼っているのだということもあるのだろう。本来なら気遣うことなどあり得ないイレブンに対して心を砕くクロヴィスのその言葉に、スザクは胸が熱くなる思いがした。 うん、クロさんのような兄なら、居てもいいかな。 そう思いながら、スザクはルルーシュの髪に顔をうずめるようにし、瞼を閉じた。 ・ルルーシュ・ →二人に対する罪悪感が上がった。 →自分の無能っぷりに落胆している。 →スザクの対応に戸惑っている。 →スザクへの依存度が上がった。 ・スザク・ →ルルーシュへの過保護度がかなり上がった。 →ルルーシュへの独占欲が上がった。 →クロヴィスへの信頼度が上がった。 ・クロヴィス・ →ルルーシュへの過保護度が上がった。 →ルルーシュへのブラコン度が上がった →スザクへの信頼度が上がった。 ルルーシュが治っても、スザクは何かと理由つけて添い寝しそう。 |