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「う～ん、いい天気だ。よ～し、がんばるぞっ！」 ニコニコと機嫌の良さそうなスザクは、着ていた衣服を脱ぎ、海に入る準備を始めた。脱ぎ散らかされたそれらの服を拾って畳みながら、ルルーシュは複雑そうな顔でスザクを見た。そんな視線に気がついたスザクは首を傾げながら、ルルーシュを見た。 「ん？どうしたのルルーシュ？」 「・・・いや、あまり遠くには行くなよ？」 「大丈夫、わかってるよ。ルルーシュも邪魔だからってマント脱いだら駄目だよ？まだ体調良くなってないし、体温も低そうだ」 そう言いながら、スザクはルルーシュの手に触れ、首元に手を当て、その体温を図ると「う～ん、まだ冷たいな」と、眉を寄せた。海岸用に以前から設置していた釜戸に薪をくべ、火を大きくしてから「まだしばらく火にあたって温まっているんだよ」と言いおいてスザクは銛と獲物を入れるための籠を手に海に入った。 スザク曰く、今朝はいつも以上に体温が低いということで、スザクのラウンズのインナーを着て、その上にシャツ、学生服を着、マントを羽織っているのだが、それでもまだ体温が上がっていないらしい。これ以上迷惑を掛けたくないルルーシュとしては、今はスザクの言う通り火の傍に居るしかなかった。 「おや、スザクはもう海に入ったのかい？私も海に入ってみようかな」 二人から少し遅れてやってきたクロヴィスは、手に持っていた荷物をルルーシュの近くに置くと、既に遠くまで泳いでいったスザクを見てそう言った。クロヴィスはここに来る途中に、以前ルルーシュとスザクがこの島に来た当初見つけた野いちごを採取していたので、その籠をルルーシュに手渡した。小ぶりの竹籠の中には、山ほど野いちごが入っていて、予想外のその量に思わずルルーシュは目を見開いた。 「たくさん取りましたね」 「ついつい夢中になって取ってしまったよ。まだまだあったから、足りないようなら取ってこよう」 「これだけあれば十分です。ありがとうございます」 思った以上の量を取ってきてくれたので、晩御飯用のソースにしようと思っていたが、明日の朝食用にジャムにしてしまおうと、ルルーシュはすぐに鍋の準備を始めた。念のため水と、調理道具一式をスザクとクロヴィスで運んでくれていたのため道具には困らない。スザクが運んできた木箱から片手鍋と、煮沸前の水が入った水筒を取り出した。 「兄さん、海に入るなら服は脱いだほうがいいですよ。それと、泳ぎに自信がないなら、あの岩のあたりの浅瀬までにしてくださいね」 手鍋に水を入れ、塩を加えると、その野いちごを全部入れ、ざっと洗った後ゴミや虫類を取り除き始めた。 「あの辺りで何か取れるのかい？」 「取れてもカニや貝ぐらいでしょう。兄さんの場合はまず海に慣れる所からです。皇族なのですから、プールには入っても、海に入るなんてこと今まで無かったでしょう？」 粗方目につくゴミを取り終わったが、このまま暫くの間漬けておこうと、片手鍋に蓋をして砂浜に置いた。 「そうだね、海に入るのは初めてで、ワクワクしているよ。じゃあ、ルルーシュの言う通りあの辺りを見てみようかな？」 「十分注意してくださいね」 そう言いながら、ルルーシュの視線はスザクへと移り、困惑しているような、なんとも言えない視線を向けていた。まだ調子は戻っていないのだろう、その感情がそのまま表情に出ていて、クロヴィスは苦笑した。 「スザクがどうかしたのかい？」 「・・・いえ、何でもありません」 その表情でそう言われてもね。クロヴィスはそう思っても口には出さず、スザクの方へ視線を向けた。 「楽しそうだね、彼は。ここに来た時はピリピリとしていたのに、今朝は妙に機嫌がいいように見える」 ルルーシュを呪い殺せそうなほどの視線さえ向けていたはずなのに、今はそんな気配を欠片も感じる事は出来ないほどのスザクの心境の変化に、クロヴィスは嬉しそうに口元を綻ばせた。本来はこんなに人懐っこく、影など微塵も感じられないほど明るい笑顔の出来る少年なのだと、知識では知っていた。あの屈託のない笑顔を見ていると、釣られて口元が綻んでしまう。あれほど疎ましかったイレブンに対しこんな感情を抱いた事に、クロヴィス自身驚いていたが、嫌な驚きではない。 「兄さんもそう思いますか？」 スザクの態度が今朝からおかしかった。いや、昨日目が覚めた時から何かがおかしいと感じていた。ナイトオブセブンとなったスザクも友人として接してきていたが、その空気はピリピリとしたもので、俺に対する憎しみと怒りを隠しきれていなかった。この島に来た当初もそうだったし、二日目からなぜか緩和されてはいたが、それでもどこか警戒する空気を常に漂わせていた。だが、今のスザクはまるで昔のような、そう、再会したばかりの頃のような親しさと、この青空と、太陽に負けないほど、明るくさわやかな笑顔を向けてきた。敵対し、憎しみを向け合う前のような。今は絶対に向けられることのない、二度と見られなかったはずの笑顔。まるで憑き物が落ちたみたいなその様子に、俺は戸惑うことしか出来なかった。 「それだけ心配していたんだろうね、スザクのためにも体は大事にしなさいルルーシュ」 C.C.から聞いていた話では、食事に風呂にトイレ、着替えにしても一人ではろくに出来無かったはずだ。C.C.に迷惑をかける事はなんとも思わないが、この二人に迷惑をかけた事、そしてこの症状を知られ、余計な心配までさせてしまっ事に心苦しさを感じる。 クロヴィスは海に入るため、衣服を脱ぎ出したので、脱いだそれらを受け取り、畳みながら「わかりました」とだけルルーシュは答えた。 海に入るのが初めてなクロヴィスは、、ゆっくりと海水に足をつけてその冷たさに驚き、寄せては返す波に足元を救われる感覚を楽しんでいるようだった。 スザクは遠くで魚をついていて、時折海面に顔を出し、籠の中に何かを入れて、再び海に潜っていた。 さて、俺は何をしようか。野いちごはまだしばらく水につけて虫を出さなければならない。ラウンズのマントは重くて邪魔だが、脱いだらきっとスザクが気づいて怒るだろうし、焚き火から離れるのも同じく怒られるだろう。 かと言って昼食の準備には早すぎる。 暇だな。何か加工する材料か、食材を持ってくるんだった。 これでは貝類を取ることも、カニを探すことも出来ないし、食べられそうな野草や海藻類を集めることも出来ない。残念ながら塩を作る必要もない今、スザクが何か持ってくるまで何も出来ないな。 ・・・なら、少しの間横になるか。 ルルーシュは釜戸から少し離れたところで、ごろりと横になった。実は今朝起きた時から目眩が酷かったのだ。今のところ二人には気づかれずに済んでいるが、何度か足が縺れたし、気を抜くと倒れそうになった。ふらふらとする視界のお陰で吐き気がするほど気持ちが悪い。スザクが体温が低いと言っていたから低体温からくるものなのかもしれない。全身に太陽の光を浴びながら、クラリと回る視界に眉を寄せたあと、ルルーシュは瞼を閉じた。 そんな様子をたまたま海面に顔を出し呼吸を整えていたスザクは見ていて、眉を寄せた。砂浜に横になるなんて彼らしくない。拠点からここまではそんなに距離はないのだが、この短い道のりで体力を使い果たしたのか、具合が悪くなったのか。どちらかは判らないが、いい状況でないことは確かだ。辛いなら辛いといえばいいのに。 「・・・やっぱり昨日の今日で連れ出したのはまずかったかな。ああっ！しまった！日陰作らないと、ルルーシュが日射病になっちゃう！」 そのことに気が付き、獲物の入った籠を手に大急ぎで海岸へ向かって泳いだ。 ・ルルーシュ・ *めまいが酷く、体調はまだ回復していないようだ。 →自分の無能っぷりに落胆している。 →スザクの態度に戸惑っている。 ・スザク・ *色々吹っ切れて機嫌がいい。 *今の生活もいいなと思い始めている。 →ルルーシュへの過保護度が上がった。 ・クロヴィス・ *初めての海でテンションが上がっている。 →ルルーシュへの過保護度が上がった。 →ルルーシュへのブラコン度が上がった 特区の夢を見、ユフィの言動を兄経由で聞き、その上ルルーシュダウンしたことで、スザクが完全に開き直りました。 特区のことがバレ、ユフィと会っていたこともバレていることに、ルルーシュは気づいていません。 クロヴィスはバラしたことをルルーシュに話すつもりはありません。 |