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大きめの御座と、竹をロープで組んで、と。 「よし、見た目はともかく、日陰にはなったかな」 工作は得意じゃないから、出来上がった簡易屋根はすごく不格好だった。 でも、日陰を作るという目的は果たせているから上出来だよね。と、僕はその出来に満足し、視線をルルーシュへ向けた。 先程は気が付かなかったが随分と顔色が悪い。額や手に触れてみるが、起きてかなり経つ上に、ここまで歩いてきたというのに体温は未だ低いままだ。それに、こうやって触れたり、横でこれだけ作業していたのに起きる気配はなかった。 だが、人形のような状態ではなく、睡眠中なのだから、あの時よりは確実に体調は良くなっているのだろう。お昼までは時間があるのだし、このまま眠らせておくことにしよう。スザクは獲物を入れた籠を覗き見て、今日食べる分はもう十分とれただろうと判断し、衣服を身に着けると、岩場付近にいるクロヴィスの元へ向かった。 「ああ、スザク。ルルーシュは大丈夫そうかい?」 僕が近づいてきたことに気がついたクロヴィスは、岩場に手をついた状態で、そう訪ねてきた。 「ええ、よく眠っています」 「眠っているなら大丈夫だろう。ところでスザク、これはなんだか分るかい?」 クロヴィスが指差す所を見てみると、岩場に貝が沢山張り付いていた。 「貝ですね」 「やはり貝なのか。どうやっても取れないから、もしかして岩の一部なのかと考えていたところだよ」 爪を引っ掛け、その貝を引き離そうとしながらクロヴィスはそう言った。 「岩に張り付くタイプなので、道具がないと剥がすのは難しいですよ。子供の頃よく釣りをするときの魚の餌にはしましたけど、食べたことはないですね」 「釣りというと、長い棒と糸と針で魚を捕るあれだね。スポーツとして人気があると耳にしたことがある」 「そうです。針があればぜひ釣りをしたいんですけどね」 竿は木の枝、糸はルルーシュに何か用意してもらえばいい。あとは針があれば久々に釣りができるのに。 「・・・そういえば、スザクは釣りが好きだったな。別に針がなくても釣具は作れるぞ?」 後ろから聞こえたその声に、クロヴィスとスザクは驚いて後ろを振り返った。 そこには青い顔でふらふらと歩いてくるルルーシュがいて、スザクは慌ててその体を支えるように手を伸ばした。 足元がおぼつかないルルーシュは、大人しくスザクの腕に支えられ、岩を背に座り込んだ。 「どうしたの、寝てたんじゃなかったの?僕が五月蝿くしたから目が覚めたのかな?ごめんね」 「・・・いや、あれを作ったのはスザクだったのか。全然気づかなかったから、驚いたよ。のどが渇いて目が覚めただけだ」 よく見ると、ルルーシュの手には竹の水筒があり、栓を抜くと水筒に口をつけ水をゴクゴクと飲んだ。 「ああ、何を見ているかと思ったら、貝だったのか。その平べったい貝はマツバガイ。食べれるが、剥がすのは大変だ。もし取るならヘラのようなものを用意するか、石で叩いて貝を割ったほうが楽だぞ。でも、それを取るぐらいならそっちの巻き貝と、白いのを取ってくれないか?」 「これ?」 「白いのはカメノテ。貝に見えるが甲殻類でフジツボの仲間だ。美味いらしいぞ?巻き貝はイソニナだな」 どちらも食べることが出来る。というと、スザクとクロヴィスは次々と貝をカゴの中へとそれらを入れていった。スザクはどうせなら食べてみたいと、竹で作った木べらを使い、マツバガイも採取していた。 そんな様子を岩陰で見ながら、水筒の水を口に含んだ。 まだ眼は回っているが、仮眠をとる前よりは良くなっていた。 せっかくスザクが作ってくれたのだ。あの日陰に戻ってもう少し横になるかと立ち上がった時、ぐらりと視界が揺れ、思わず尻餅をついた。 目眩に立ち眩みが加わった事で流石に踏ん張りが利かなかったか。流石に今のはキツイなと、ルルーシュは息を吐いた。 岩場の向こう側に居たのに、波の音よりも小さいはずの尻もちの音に気がついたのか、スザクが慌ててルルーシュの元へやって来た。 ああ、不味いなとルルーシュは眉を寄せた。 「・・・大丈夫、じゃないよね、どうしたのさ。立てないの?」 スザクは眉尻を下げながら、座り込むルルーシュの顔を覗きこんだが、ルルーシュは視線をそらすよう顔を背けた。 「・・・何でもない。唯の立ち眩みだ」 「唯の立ち眩みなはずないだろ。そんな青い顔で何言ってんだよ」 「どうやら目眩が酷いようだね。昨日目を覚ましたばかりなのだから、体調が悪いのは仕方がないね。もう少し寝ていなさい。スザク、頼めるかな?」 誰も居ない場所へ視線を向け、誰かの話に耳を傾けているかのように何度も頷きながらクロヴィスはそう言うので、おそらくユフィからの情報だろうとスザクは判断した。 ならその情報は間違いないだろう。 はい、とスザクは返事をし、ヒョイッとルルーシュの体を抱き上げた。 「なっ!ちょっ!まてスザ・・・っ」 俗に言うお姫様抱っこをされた事に文句を言おうとしたが、具合が悪くなったのか、途中で口をつぐみ、ルルーシュは苦しそうに眉根を寄せて眼を閉じた。 「すぐだから我慢して」 スザクはできるだけ体を揺らさないように注意をしながら砂浜を歩くと、先程までルルーシュが横になっていた場所にゆっくりと降ろした。 ルルーシュは無言のまま、体を丸めるような形で横になったので、スザクは、その体からラウンズのマントを外し、念のため持ってきていた毛布とマントをその体に掛けると、体温を確認するため額や首元に触れた。さっきより冷たい気がする。 「眠れそうかい?」 「・・・」 もぞもぞと、毛布の中に顔をうずめ、具合が悪くて返事もしたくないのだろうその様子にスザクは眉を寄せた。やはり今日は休ませるべきだったか。 後悔しても仕方が無いと、ルルーシュの横に自分も横になると、ルルーシュを抱き寄せ、その体をポンポンと叩いた。しばらくすると、規則正しい寝息が聞こえ始めたので、ホッと安堵の息を吐いてスザクは体を起こした。 この方法は夜でなくても効果があるらしい。普通なら彼がこんなに簡単に眠るなんて絶対に有り得ないことだ。これもこの島の不思議な力なんだろうか?すぐに眠ってくれるのは嬉しいが、あまりにも早い眠りには不安も感じる。 貝の入った籠を手に戻ってきたクロヴィスが、火の弱くなっていた釜戸に薪をくべながら、大丈夫だよ、とスザクに言った。 「まだ朝も早いから、周りが暖かくなれば目眩も治るだろう。そう深刻な顔をしなくても大丈夫だよ、スザク」 |