いのちのせんたく 第26話

スザクがタコと伊勢海老を捕っていたので、貝と一緒に塩茹でし、殻から身を取り出した貝、タコと伊勢海老は一口大に切り、葉わさび、柚子などの薬味と混ぜ合わせる。
新鮮な海産物は、それだけで美味しいので、味付けは風味づけ程度で十分だろう。
どんぐり粉と卵、長芋などを捏ねて作った麺を茹で、それらと和えてパスタは完成。
食器はクロヴィスが作った木製の皿とフォークとマグカップ。
流石芸術家だけあり、形にもこだわったそのお皿は、見た目もいいのだが、竹の容器よりもずっと料理が美味しそうに見える。
よくあの程度の道具でここまで作ったものだ。ヤスリが無かったため、木の皮や荒い目の石など、色々な物を試しながらこの滑らかな表面を創りだしていた。
初めて手にした時、よくここまでと、思わず感動してしまったほどだ。
以前作って設置していた竹製のダイニングテーブルの上にそれらを並べ、同じく竹製の椅子に座り、食事を開始した。

「ルルーシュ、これ凄く美味しいよ!」
「うん、さっぱりして美味しいね」
「とれたての海産物はやはり美味しいですね」

今日は天気が良く、気温も高いようなので、さっぱりした味付けにしてみたが、二人には好評のようだった。
付け合せはたんぽぽの蕾と葉、はこべ、のびるなどの野草を茹でた和え物。
野草は拠点から海までの間で採れたものだけなので、あまり種類はないが、量はそれなりに採取できていた。幸いどれもアクはない。これだけで足りるか心配だったので、セリを入れた卵焼きも用意した。ルルーシュは汗をかいていないが、二人はだいぶ汗をかいている上に海にも入っていたので、和え物はいつもより多少塩分は多めに作られていた。
体を動かしたせいか、クロヴィスも今日はいつも以上に食が進み、あっという間に二人共完食した。
海岸についてすぐに眠ってしまったが、お陰で目眩も治り、食欲もだいぶ戻ったことで、ルルーシュもそれなりの量を口にしていて、それを見た二人は口には出さないが、安心したようだった。
海に新たな仕掛けを施し、塩を回収。海岸でいくらか野草や海藻の類いを採取し、三人は拠点へと戻ってきた。海水に入ったため、クロヴィスが温泉に入り、スザクが荷物を洞窟へ運んでいる間、ルルーシュはクロヴィスの視界に入る場所で、手頃な枝と石などを集めていた。

「ルルーシュ、紐ってこれでいいのかな?」

洞窟から紐を取ってきて欲しいと頼まれていたスザクは、紐を片手に戻ってきた。

「ああ、それが欲しかったんだ。有難う」

スザクから紐を受け取ると、ルルーシュは集めた材料を紐で縛り始めた。

「よし、これでいい。この小枝の先をナイフで少し削り、餌を刺すんだ。魚の口の中にこれが入った時、タイミングよく引くことで、この小枝は魚の口に引っかかり、抜けなくなる。魚に合わせて小枝のサイズを考える必要があるから、色々な長さのもので試してみてくれ」
「わあ、ありがとうルルーシュ。すごいな、やっぱりルルーシュは器用だよね。こんな短時間で作ったとは思えないよ」

そのへんで拾った手頃な枝に紐を結び、浮きの代わりに竹を小さく割ったもの、オモリ代わりの石と、針の代わりの小枝を付けた簡易釣り竿を手に取り、スザクは嬉しそうにそう言った。 紐を試しに引っ張ってみるが、強度は思ったより有り、竿にした枝もいい感じにしなってくれる。これなら釣れそうだ。

「器用も何も、その辺にあったものを紐で縛っただけだぞ?枝も適当に選んだものだから、今度竹か何かでちゃんとしたものを作るが、竿や紐の長さ、重りのサイズはどのぐらいのものがいいのか解らないから、その辺は調整してくれ。強度はそんなに無いから、無理やり釣ろうとしても折れるからな?」
「大丈夫、まかせて。僕ちょっと釣ってくるね」

スザクはそう言うと、鼻歌交じりに魚影が濃いが素手では取りにいけなかった場所を目指して歩き出した。

「・・・釣りか。でも、スザクの場合、川は素手、海は銛の方が簡単に、早く魚が取れるんじゃないのか?」
「釣りはスポーツとしても人気があるからね。やはり手で取るのとは違う楽しみがあるんじゃないかな?あれで釣れるようなら、今度私にも作ってくれないかな?釣りなどしたことがないからね、ぜひやってみたい」

声の方へ視線を向けると、入浴と着替えを終えたクロヴィスが、髪をタオルで拭きながら、こちらへ歩いてきていた。

「スザクは子供の頃から釣りが好きだったので、喜んで教えてくれると思いますよ?」

俺は釣りは苦手で、自分からやりたいとは思いませんが。
昔、スザクに教えられながら釣りをしたが、自分だけ一匹も釣れなかったことを思い出し、ルルーシュは眉根を寄せてそう言った。

「そうなのかい?ルルーシュ、私はスザクが釣っているのを見てくるから、君は温泉で温まって来なさい。久しぶりに歩いて疲れているはずだからね。ゆっくり入るんだよ?」

クロヴィスはそう言い残して、スザクが釣りを始めた場所へ向かって歩き出した。
よく見ると、既に釣りを始めていたスザクの竿に何かがかかったらしく、スザクが竿を器用に動かし始め、クロヴィスは小走りになり、スザクの元へと走っていった。

「・・・本当に、都合のいい話だな。釣りがしたいと望めば、手頃な竿が手にはいり、適当に選んだ小石と適当に折った小枝で魚が掛かるか。しかも糸はいくら細く加工したとはいえ、木の皮で作ったものだから、釣りではあり得ない太さだ。それなのに警戒心すら抱かず食いつくか」

考えるだけ無駄だなと、ルルーシュは二人に背を向け、温泉の方へと足を向けた。
今自分がやるべきことは、温泉に入った後、一度洞窟へ戻り、眠っていた間に腐ってしまったであろう食材の処分と、保存食などの在庫確認。鶏油ももう無理だろうな。あとは、スザクが今日取ってきた海産物の下処理、そして晩御飯の献立を考えること。ああそうだ、テーブルと椅子は洞窟前、河原、砂浜と3箇所用意出来たから、今日から何を作るかも考えないとな。ノコギリと斧があれば加工もし易いんだが、鍬のようにどこかに落ちていないだろうか。
そんなことをつらつらと考えながら、ルルーシュはゆっくりとお湯に浸かると、遠くで奮闘するスザクと、その側で興奮しながらスザクを見ているクロヴィスを見つめた。



スザクは野生の勘をフルに活用し、魚を釣り上げることに成功。クロヴィスは失敗。ルルーシュは不参加。
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