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深い森の中をひたすら歩くが、やはり水源は見つからない。 流れる汗を拭いながら、藤堂はやはり海に行くしか道はないかと、考え始めていた。ラクシャータたちと合流するのは2日後。彼女たちが何かを見つけていればいいが、期待はしないほうがいいだろう。 扇やコーネリアに気付かれないよう、どちらかの川の上流を拠点とする手もあるが、その場合はやはり女性陣との話し合いが必要だ。 藤堂は深く嘆息すると、後ろを歩いていた朝比奈を見た。 だいぶ疲れている上に頬もこけて、やつれてきていた。仙波も同じだ。おそらく自分もそうなのだろう。気がついたら見知らぬ場所にいて、その見知らぬ場所は、普通ではあり得ない生態系を築いていた。一緒にこの場所に居た者の半数は、たとえどんな場所でも救援は来るのだから、気楽に待てばいいという信じられない神経の持ち主で、その上ろくに衣服も体も洗わないため、今は浮浪者のような有り様っだ。 サバイバル生活だというだけでも神経が磨り減るというのに、それ以上に本来協力し、この奇妙な状況下で生き抜く方法を考えなければならない者同士が連日争うような状況なのだ。 疲れないほうがおかしい。 「だいぶ歩いたな。一度休憩をしよう」 「はい」 森を抜け、開けた場所に出たので、藤堂はそう声をかけると、手近な木陰に腰を下ろした。その側に朝比奈も腰を下ろすと、水筒代わりの飯盒を開け、中の水を飲んだ。 「話をしておかなければならないことがある」 朝比奈が水を飲み終わったのを見計らい、藤堂は朝比奈に話しかけた。 「先日、ラクシャータとカレン、C.C.と森で会った」 「え?あの三人も来ているんですか?」 朝比奈は最近では、厳しい表情しかしなくなったその顔に、驚きの表情を浮かべた 「ああ。千葉も一緒にいるそうだ」 藤堂は、その時話した内容を朝比奈に話しをした。この話は昨日のうちに仙波には話し済みで、今日は朝比奈に話しをするために、拠点に仙波を置き、探索に朝比奈を連れてきたのだ。ラクシャータたちと合流し、扇たちを見捨てることも、ラクシャータ達に処にいるコーネリアたちを見捨て、セシルというブリタニア人は連れて行くという事も全て話しをした。 「明後日、ラクシャータたちと話し合う予定だが、おそらく近日中に移動することになるだろう。だからそれまでの間に、扇達には自分たちで、せめて魚ぐらい取れるようになってもらわなければならないな」 「そういうことなら、あいつらでも魚を取れるよう懇切丁寧に指導します!」 話が進むに連れ、生気が戻ったように明るい顔を見せた朝比奈に、藤堂は「済まないが頼む」と、頭を下げた。 ラクシャータと千葉は少し離れた河原で衣服を脱ぎ、川の水で体を洗いながら洗濯をしていた。念のため、コーネリアたちがいるここより上流の拠点にはカレンが残って、此方の会話が万が一にもあちらに聞こえないよう注意を払っている。暖かな気候とはいえ、冷たい川の水に入るのはやはり辛い。すぐ側でC.C.が焚き火を用意しているので、さっさと洗い終わって川から上がらなければ風邪をひいてしまう。ラクシャータは、手早く洗い終わらせると、千葉に声をかけ、岸へ上がった。 「つまり、明後日藤堂さんと会うのか。では私も」 洗った衣服を絞りながら、喜色を顔に浮かべた千葉が、そう言い出したので、C.C.は全てを言い終わる前にその言葉を遮った。 「いや、行くのは前回と同じラクシャータとカレンがいいだろう。千葉はいつもここにいるのに、急にこの場を離れれば怪しまれかねない。私はいつも通り散歩を装ってあの場へ行こう」 C.C.のその言葉に、千葉は不満気だったが、ラクシャータも「そのほうがいいかもね」と同意したので、頷くしか無かった。なにせいつも探索をしているのはカレンとラクシャータの二人組だ。不要な詮索は受けない方がいいに決まっている。 「いいか千葉。間違ってもこの情報を悟らせるなよ?」 さて、どうやってコーネリアとヴィレッタだけを切り離そうか。 C.C.は口角を上げながら、楽しそうに思考を巡らせた。 「扇、ほれこれを使ってみろ」 仙波は、木を削った銛を作り、扇に渡した。 「これは?」 「それで魚を狙って突いてみろ。手で取るよりも取れる可能性は上がるはずだ」 「え?俺が魚を捕るんですか?」 何で自分が?というような顔で、扇は仙波を見た。 「なんだ、年寄りに川に入って取れというのか?大体、いい年をして我らに頼り過ぎだとは思わないのか。毎日毎日だらだらとしているお前たちの食料を、何故我らが取らなければならない?」 近くでだらだらと横になっていた玉城が、仙波のその言葉に反応し、起き上がると、あからさまにめんどくさそうな顔で仙波に近づいた。体も洗わず、歯も磨かず、服も洗わない玉城から発せられる悪臭に、仙波は顔をしかめながらも、玉城をじっと見つめた。 「だーかーら。こういう事はな、出来る人間がやるべきなんだよ。何回言えば分るんだよ」 「それは此方のセリフだ。この年寄りをこき使う気か?お前たちは若いのだから、しっかりと自分の食べ物ぐらい自分て手に入れてみろ」 「なら朝比奈が戻ってきたら取らせればいいだろう?なんで俺らがやらなきゃならないんだよ」 「俺達はここに来た当初、何回も挑戦し、それでも取れなかったんだ。普通の人間は釣り竿もなしで魚は取れない。軍で特殊な訓練を積んでいるあなた達だから取れるんですよ」 玉城を加勢するように、南もそう言い始め、扇は渡された銛を地面に置き、二人の言葉に同意した。 「訓練を受けていない俺達に、あなた達と同じことを望まれても、それは無理です」 平然とそう言い切る扇と、そうだそうだと同意する玉城、南の三人に、腹立たしさを感じながらも、仙波は感情を乱すこと無く、淡々とした声音で話し続けた。 「そうか、魚は無理か。ならば芋を掘りに行くぞ。案内するからついてこい」 「芋掘りぐらい一人で十分だろ?任せるから取ってきてくれ」 玉城はそう言うと、再び河原に寝そべった。 「いい加減にせんか!我々はいい加減お前たちに愛想が尽きた!お前たちとは別行動を取る事も考えているんだぞ!」 普段怒鳴ることのない仙波が怒鳴りつけたことで、扇たちは驚き、仙波を見た。仙波が言った言葉に近いことを、朝比奈はよく口にしているが、扇たちは脅しているだけだと軽く見ていた。だが、仙波が言うのだから、流石に不味いんじゃないだろうかと、顔を見合わせた。 「ちょっとそれは無責任すぎないか?あんたらが居なくなったら、俺らが困るって理解ってんだろ?俺らを餓死させる気か!?」 慌てて体を起こした玉城は、そう言いながら仙波に詰め寄った。悪臭を放ちながら詰め寄る玉城に、仙波は再び顔を顰めた。今度は感情を隠すこと無く、怒りと不快感を顔に載せたまま、玉城を睨みつけた。その視線に、玉城は思わず息を呑んだ。 「非協力的なお前たちに、我々はいつも困っているのだ。何時救援が来るかわからない、もしかしたら救援など来ないかもしれない場所だ。生存率を上げるためにも、お前たちの世話などこれ以上するつもりはない。よし、決めたぞ。今日から自分たちの食料ぐらい自分たちで手に入れろ。とり方を教えはするが、我々はもう用意しないからな」 「急にそんなことを言われても!」 「何が急だ!朝比奈が何度も言っていただろう!今までは同じ黒の騎士団の仲間だからと、我慢に我慢を重ね食料を用意していたが、もう限界だ。訓練を受けていないという言い訳も聞き飽きた。訓練をしていないというなら、今から訓練すればいいだろう。今あと2本用意するから、まずはそれで魚を突いてみろ。残りの二人は魚影を探し、追い込むなりしてみろ。それと、玉城!いい加減体を洗って衣服を洗え!病気になりたいのか!!こんな場所で病気になっても、医者は居ないのだぞ!わかっているのか!!川に入ったついでに、その悪臭を消してこい!!」 さっさと行けと、仙波は三人を怒鳴りつけた。 扇たちから離れられる!その情報のお陰で朝比奈と仙波は元気になりました。 |