いのちのせんたく 第30話


ぽつり。

空から降ってきたそれに、C.C.は空を見上げた。
不自然すぎるほど急激な変化を遂げた空は、既に一面の雷雲となっていた。
妙な気配を感じてからほんの3分ほどで起きた変化。
それまでは雲ひとつない青空だったというのに。どう考えても不自然すぎるその空模様に思わず眉を寄せた。何処の誰かは知らないが、神様を気取るならもう少し自然に変化させたらどうだ。あからさまに誰かの手が加わっているこの変化は、余程の鈍感でない限り恐怖しか感じないだろう。
まあいい。
雨が降るということは、川原は危険だということだ。
早くに高台へ避難しなければ、この雨雲はどれだけの雨を降らせるかわかったものではない。
加減を知らない馬鹿が降らせた場合、この辺一体は水没する可能性さえあるのだ。
急がなければ。カレンに何かあればルルーシュが悲しむだろう。最悪あの娘だけでも助けなければいけない。
ラクシャータのことだ、きっと空に気づいてすぐに引き返してくるだろう。 C.C.は焦る気持ちを抑えながら、足元のよく見えない森のなかを、できるだけ早い足取りで進んでいった。




ぽつり、ぽつリ。

頭に何か当たった気配を感じ、千葉はその場所を手で抑えながら空を見上げた。

「何だこの空は」

先ほどまで会った青空は姿を消しており、替わりに暗雲が立ち込めていた。異様な天候の変化に千葉は全身に鳥肌が立つのを感じたが、ここで竦んでいてはいけない。
ここは川原なのだから、雨が降り出したら危険なのだ。
探索に出ている3人の荷物は今洞窟内だから問題はない。外に出ているものを手早く片付け、千葉は洞窟へ向かった。その途中、ブリタニア軍のコーネリア、ヴィレッタ、セシルが居たので、敵であることは今は忘れるべきだと千葉は自分に言い聞かせ、三人に近づいた。

「おい!雨が降るぞ!すぐに洞窟に避難しろ!!」

その千葉の声に、コーネリアの話を聞いていたセシルとヴィレッタは慌てて空を見上げ、コーネリアはゆっくりとした動作で同じく空を見上げる。

「何だこの空は」
「さっきまで青空でしたよね?」
「そんなことを言っている場合か!ひとまず荷物を洞窟へ運んで、本降りになる前に薪を集めるんだ。この空では何時止むかわからないぞ」

その千葉の言葉に、確かにそうだとヴィレッタとセシルは頷いた。
薪は濡れてしまえば火がつきにくい。暖と明かりの役目を果たす焚き火は出来ることなら夜の間だけでも灯しておきたいのだ。慌てた様子の三人に、コーネリアは呆れたように口を開いた。

「何を慌てている。まだ小雨ではないか。確かに木が濡れてしまえば薪として訳には立たないだろうが、そう慌てる必要はないだろう」

その呑気な口調に、川や海辺の雨の怖さを知らないのだということを三人は悟った。

「おい、ヴィレッタ。コーネリアは任せる。しっかり説明するなり何なりしておけ。セシル、まずは荷物だ。その後出来るだけ薪を拾う」
「わ、わかった。コーネリア様のことは任せておけ」
「わかりました。では、荷物は私が運びますので、千葉さんは薪の方をお願いできますか?」

こう見えても力はあるんですよ?
セシルはそう言うと、ヴィレッタたちが持ってきた荷物と、千葉が抱えていた荷物全部を軽々と持ち上げた。その様子に、思わず驚いた三人だが、千葉はすぐに気を取り直すと、薪になりそうな枝を探し始めた。

「コーネリア様。雨というものは、今のような小雨であっても、自然の中、特にこのような河原ではとても危険なのです。今説明している時間はありませんので、どうかすぐにでも洞窟へお急ぎ下さい。私は千葉とともに薪を集めに行きたいと思います」

この程度の雨で何を言っているんだと思いながらも、コーネリアは三人の緊迫した空気に、気の済むようにさせておこうと判断し、洞窟へ足を向けた。その様子を確認したヴィレッタは、急ぎ薪を拾い始めた。

「ヴィレッタ。この島の天気は異常だ。もしかしたら何日も降り続くかもしれん。食べることの出来そうなものがあれば、それも回収するんだ」
「そうだな。ああ、セシルが戻ってきたな、枝はセシルに運んでもらおう」
「仕事を分担したほうが速いか。ではここに薪を集めよう」

普段は喧々囂々と言い争い、ぶつかり合う二人だが、何故かこの時は意気投合し、てきぱきと薪と食材を集め、セシルはそれらを洞窟へ運び込んだ。C.C.のおかげで、何処にどんな野草が有り、食べれるのかどうかを千葉はある程度覚えることができていたため、作業効率が良かった。普段コーネリアとともき拠点で話ばかりし、ろくに探索をしていなかったヴィレッタはあまり食材を集めることは出来なかったが、その分薪を回収する。

「アンタたち、なにしてるのよ?ああ、薪ね。カレン、急いで運ぶわよ。そろろろ酷くなりそうだから」
「はい!」

急いで戻ってきたラクシャータ、カレンも二人を手伝い、本降りになる前にかなりの量の薪と、野草を採取できた。C.C.もどうにか本降りになる前に戻ることが出来、全員ホッと一息ついた。
洞窟の入口で小さめの焚き火を用意し、濡れてしまった体を乾かす。

「危なかったな。ほら、食材だ。まあ、どのぐらい雨が降るかは解らないが、多少たしにはなるだろう」

C.C.はそう言うとリュックを千葉へ手渡した。

「済まないが、流石に疲れたようだ。一度休ませてもらう」

珍しくC.C.はそう言うと、濡れた髪を拭きながら洞窟の奥へ移動し、自分の寝床へ潜り込んだ。普段は夜も最後まで起きているC.C.だ。誰も文句をいうものは居ない。千葉が何やら重いそのリュックを開けると、その中にはカエル7匹入っていた。普段、一人で歩きまわる際にはリュックを持ち歩いても、少量の食材しか取ってこないC.C.だ。おそらく雨に気がついて必死に捕獲してくれたのだろう。騎士団内に居た時には、生意気で気に入らない女だと思っていた。態度、口調はその頃と同じでも、ここでの生活では常に全員の様子に目を配り、こうして何気なく獲物も取ってきてくれる。千葉は口には出さないが、C.C.には感謝をしていた。だが、7人の食料としては確かに足りない。今日一日で降り止んでくれればいいが、その保証はない。なにせこれだけ奇妙な島なのだ。考えて調理をしなければ。
千葉はリュックを閉め、それをラクシャータへ手渡した。ラクシャータも中を確認し「すごいわね」と、驚きの声を上げた。

「とりあえず3日は持つよう配分しましょうか」
「ああ、頼むラクシャータ」
「いいわよ、このぐらい」

食材の管理はラクシャータに任せ、千葉は外を見つめた。どす黒い雲。雷も鳴りそうだ。 同じように外を見ていたカレンは、何かに怯えるよに足を抱えて座っていた。

「ホント気味が悪いですよね、この島。まるで誰かが気まぐれで天候を変えたみたい」
「・・・ホントそうよね。普通は雲ひとつ、風すら吹いていない空が、パッと雨雲になる・・・なんてことないものねぇ」

ザアザアと雨脚がどんどん強くなる。雷が鳴るのは時間の問題だろう。
その音とともに、気分はどんどん沈んでいった。
重苦しい空気の中、皆不安を感じながら、深いため息を吐いた。






C.C.は一応年長者なので、それなりに周りを気遣います。
それにしてもブリタニア組が空気すぎる
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