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鋭い光が空を走り、思わず短い悲鳴を上げた。 「なんだカレン、雷は苦手なのか?」 随分と可愛らしいじゃないか。 C.C.は頭を抱え、縮こまっていたカレンにからかうようにそう言った。 「違うわよ。今はちょっと驚いただけ。でも、すごいわよね。結構頻繁に落ちてるわよ?」 「海に落ちてくれている間は問題はないさ」 そう言いながらC.C.は洞窟の入口に経つと、遠くの空へ落ちていく雷光を見つめた。 雨音だけではなく、2分と置かず雷鳴が鳴り響くこの天候では、安眠するのは難しいなと、思わず眉を寄せた。 今もあまりのうるささに1時間ほどで目が覚めたのだ。 分厚い雨雲に覆われた空から降り注ぐ大粒の雨、その勢いは一向に衰えることはなく、今までずっと雲ひとつ無い青空が広がっていたのだ、これから何日もこの雷雲が空に広がっていてもおかしくはない。 視線を川辺へ向けると、既にいつも座っていた場所は水没していた。このペースで増水したら大変なことになるなと思いながらも、考え、不安になったところで何も変わらないと、外へ向けていた視線を洞窟内へ移動させた。 連日、カレンとともに周辺の探索をし、肉体的に疲労していたラクシャータは、寝袋のチャックを完全に閉め、バスタオルで頭をくるむようにして眠っていた。 本来技術屋である彼女は、周辺を探索するほど体力があるわけではない。 それでも何か見つけられるとしたら自分だけだろうと、連日無理をしていたのはC.C.も気がついてはいた。 コーネリアは始終イライラとした顔で、ヴィレッタに何やら話をしていて、ヴィレッタはまさにイエスマンという体でその話を聞いていた。どうやら、こうやって雨が降る可能性もあるのだから、薪や非常食などを洞窟に準備しておくべきだったのではないかという内容のようだった。この雨が何時止むかわからないが、回収できた薪はせいぜい3日分。食料もラクシャータが配分するだろうから、1食の量は少ないだろうが3日は持つだろう。だが、持って3日。 その事に今更不安を感じ、文句を言ったところでどうにも出来ないというのに、考えが足りない、危機感が足りない、もっとこうすべきだった。それはお前たちの役目だろう、などと口にする。ヴィレッタはそれらを全て肯定して、爵位を持たないセシルの責任にすり替えていく。 だから、今ここで一番の被害者となっているのはセシルだった。 セシルは反論は一切せず、ただ頭を下げ、謝っている。 備蓄を用意するにせよ、それを邪魔していたのはコーネリアとヴィレッタだというのに、ブリタニア人の中で最も弱者であるセシルにすべての責任を押し付けている姿は、非常に醜いものだった。 本来なら薪はともかくとして、この食料をコーネリアとヴィレッタが口にする権利など無い。セシルがいるからと、わざわざ此方から理由を用意したからこそ、食料を口にできるのだ。その事を何も解っていない。自分は与えられて当然、守られて当然、自分が不便を強いられるのは回りにいる人間の責任だという態度は、C.C.を苛立たせるには十分なものだった。兄妹だというのに、ルルーシュとは大違いだ。アイツの爪の垢でも煎じて飲ませてやりたいところだ。 士官学校に通い、軍人として功績を残しているのだから、もう少しこのサバイバル生活でも使い物になると思ったのだが、やはり皇族。士官学校でも皇族として特別扱いされていただろうし、軍務に関して、それこそナイトメアでの戦闘に関しても、必ず勝てる戦にだけ参加していたのだろう。グロースターがあれば、絶対に負けることのない戦場のみ与えられていたのだろう。多少難のある戦場でも、親衛隊と騎士に守られ、鉄壁の防御で攻め込み、武力差のある相手を打ち倒し、常勝の女神、ブリタニアの魔女と呼ばれるだけの戦果を上げたのだろう。 だから、こうしてその取り巻きがいない今、その無能さが浮き彫りとなる。 ああ、こんなくだらない事を考えても意味は無いな。と、C.C.は最低限の小さな炎を上げている焚き火を見つめた。 セシルには悪いと思うが、暫くの間はこの状況に耐えてもらう。その方が、セシルを一緒に連れて行くというラクシャータの願いを叶えやすくなるからだ。 セシルはこの二人と一緒にいても、ろくな目に合わないことを理解するだろうし、コーネリアとヴィレッタも、ここまで無能呼ばわりしたのだ。此方が連れて行くと言った時に、連れて行かれては困るなどということは出来ないだろう。 C.C.は金色に輝く瞳をその目蓋の下に隠し、精神を集中させた。 ああ、やはり間違いない。 ルルーシュはこの島のどこかに居る。 感じる、あいつの存在を。 だが、これだけ探してもその存在を確認できない事に、C.C.はこの島に来た当初焦りを感じていた。 ルルーシュの体と心が壊れていることを、ルルーシュ以上に知っているのだから、あの貧弱なのに行動力だけは人一倍あるルルーシュがこの島で無理をし、その命を落とす事は容易に想像できた。 本当ならここにいる者全員見捨ててルルーシュの元へ行きたいのだが、ルルーシュと合流した後、C.C.が彼女たちを見捨てたと、ルルーシュに知られた時の事を考えると、それもまたルルーシュを殺す理由になりかねず、C.C.の行動は自然と制限されてしまった。だが、日がいくらたってもルルーシュの気配は衰えず、もしかしたら今のC.C.のように誰かと共に居る可能性もあるのだと気づき、焦る心はだいぶ落ち着いていた。 此方が女だけなら向こうは男だけか? そう考えるなら、それはそれで危険なのだが。 せめて側に藤堂か四聖剣がいればいいのだが。 「どうしたのよC.C.、黙りこんじゃって」 眠いの? 目を閉じ、静かにしていたC.C.にカレンは心配そうに声を掛けた。 「ああ、いやなに、少し嫌な想像をしていただけだ」 「嫌なって、どんなよ」 「私が側にいなくて、ゼロが寂しがっているだろうな、という類いのものだ」 気にするな。 その言葉に、カレンは不安げに眉を寄せた。 「私達が居なくなって、心配しているわよね」 冷たく見えるが、その内はとても優しい人だから、きっと必死になって探してくれているだろう。でも、こんな場所、いくらゼロでも見つけることなど出来はしない。 「・・・かもしれない。が、もしかしたらゼロもこの島にいるかもしれない」 そのC.C.に言葉に、洞窟にいる全員の視線が集まった。 「何でそんなに驚いているんだ?私達だけがここにいるとは限らないのだから、もしかしたら同じような状況で、ゼロがこの島にいる可能性だってあるじゃないか?そうだとしたら、ゼロは反対に自分が姿を消したことで私達に心配をかけている、と思っているかもしれないだろ?」 実際に藤堂と再会を果たしているのだから、他の場所にいる可能性もあるのだ。 そのことに思い至り、カレンは真剣な顔でC.C.を見た。 この島にいることをなんとなく感じているC.C.としては、既に確信しているがそれを口にするつもりはない。 「・・・まあ、そうよね。この島にいる可能性、あるわよね」 「そういうことだ。まあ、あくまでも可能性の話だ。もしゼロがこの島にいるのなら・・・早く合流したいところだな。あの男がいるかどうかで、この生活はガラリと変わるぞ」 「流石にそれはないんじゃない?」 「甘いなカレン。あれはお前が思う以上に役立つ男だぞ」 子供の頃から厳しい環境で生活していただけではない。神根島の一件以来、その手の本を読み漁っていたことを知っているC.C.は、間違いなくここで生活するのに必要な知識・・・行動できるかどうかは別にして、知識だけはしっかりと持っているはずだと確信していた。野草の類い・・・特にキノコ系は確実に把握しているのだから、食材探しでも重宝するに違いない。なにせ動く百科事典とも言える男なのだから。 「そろそろお昼時よね」 空が暗く、太陽が全く見えないのだが、空腹を感じ始めたのだろうラクシャータがゴソゴソと寝袋から体を起こしながらそう言った。カレンは雨水を貯めるため、洞窟の外へ出しておいた鍋を取りに行き、千葉がラクシャータから渡されたカエルを、雨水で洗いながら、慣れた手つきで捌き始めた。 雨水がたっぷりと入っている鍋を火にかけ、捌いたカエルと野草を入れる。調味料でもあれば多少は美味しくなるのだろうが、こんなサバイバル生活で入手することなど出来はしない。海水からにがりの混ざった塩を多少手に入れている程度だ。 急いで摘んだ野草は、成長しすぎて繊維が硬いものも混ざっているが、細かく切って、よく噛んで食べる方向でいかなければ食材が足りなくなる。 これらの食材で、比較的まともな味付けができるのはC.C.だけだったため、自然と鍋の番はC.C.の仕事となっていた。千葉もそこそこ出来るのだが、木の根も食べていたという解放戦線時代には、調味料だけは持ち歩いていた為、調味料無しだとどうしてもC.C.のほうが上になってしまう。 ああ、早く逢いたいよルルーシュ。お前がいれば料理などしなくて済むのに。 あのだらだらと自堕落な生活を送っていた日々が懐かしいと、C.C.はぐつぐつと沸騰し始めたお湯を見ながら嘆息した。 |