いのちのせんたく 第34話

ヤカンで集めた雨水と捌いたウサギ肉、一口大に切ったサツマイモを飯盒にいれ、火にかけていると、いい匂いが漂い始めた。兎の皮は何かに使えるかもしれないと仙波が鞣し、今食べない分の肉は、串に刺し、丁度焚き火の煙が当たる位置で吊るしていた。雨があるから干すのは無理でも、多少は燻せないかと、試していた。もし駄目なら、腐る前に全部焼いてしまうしか無い。カエルは生きたままリュックに入れているので、そちらはまだそのままにしていた。

「かなり水かさが増してきましたね」

川原の様子を眺めていた朝比奈が、不安げな声でそう言った。

「この高台まで水位が来るようなら、この島が水没する事になってしまう。ここまで水は上がってこないだろう」

藤堂が落ち着いた声でそう言うと、そうですよね。と、朝比奈は明るい声で返事をした。

「ところで仙波さん、何してるんですか?」

雨が降っている間暇だからと、仙波は余った竹をナイフで割り、何やら加工し始めた。

「なに、玉城達がいると、こういう事も出来なかったからな。せっかく竹があるのだから、なにか作れないかと思ってな」
「あ、いいですね。ちなみに何を作るんです?」
「まずは容器だな。水筒を作れればと思っている。昔はこういうものを水筒代わりにしていたからな」
「へー。いいですね水筒」
「朝比奈も作るなら、これを使うといい」

今仙波が加工している竹と同じ太さの物を渡された朝比奈は、はい、と明るい返事をし、仙波の手元を見ながら、見よう見まねで作り始めた。
幸い、今日は探索に出ていた藤堂と、拠点にいた朝比奈、扇がナイフを所持していたため、こちら側にナイフが2本ある状態だった。
そういえば、扇たちと別れるということは、これら刃物もどちらが所有するか話をしなければいけないということだ。刃物はナイフ3本、鉈1本あるが、鉈は殆ど使われていない。探索に持ち歩くなら、やはりナイフになってしまう。使い勝手で言ってもやはりナイフだろう。出来るならナイフ2本をこちらの所有にしたいところだ。 争うこと無く、こちらの欲しいものを手に入れることはできるだろうか?別行動を取るというだけでも文句を言ってくるだろうから、まず無理だな。寝具と飯盒は各自のものだから問題ないが、ヤカンなど共有しているものは置いていく替わりにナイフを2本。難しいだろうか。

「そういえば、あいつら少しは反省したと思います?」

朝比奈の言う反省は、本来拠点となるべき洞窟を使用できなくしたことに対するものだろう。

「どうだろうな。そもそもあの場所で雨宿りは、数時間ならどうにかなるが、数日となると難しいだろう。なにせ座れる場所がない。もし、彼らが我々がここにこうして居ることを知っているなら、どうして自分たちだけで、と、文句を言ってくるだろうな」

その上食料とヤカンも此方にあるのだ。

「幸い、此方の高台と、あちらの洞窟、この雨のお陰で行き来はできませんから、あいつらが此方に来ることはないでしょう・・・ですが」
「ああ、雨が上がった時、なにか言ってくるだろうな」
「自分たちで汚して、その上自分たちだけで使う、と言ってたのにですか?」
「これで理解してくれる相手なら、もっと早くに理解してくれているだろう。何にせよ、その時がチャンスかもしれないな」
「チャンス、ですか?」

藤堂のその言葉に、仙波と朝比奈が顔を見合わせた。

「我々は近いうちに別行動を取る。ならば、彼らが文句を行ってきたのを利用させてもらおう」
「ああ、そうでしたね」
「なるほど、喧嘩別れをするのには、いい状況では有りますね」

仙波は、火から飯盒を3つとも降ろし、それぞれに配った。
熱いフタを開けると、うさぎの肉にもさつまいもにもしっかりと火が通っており、いい匂いがあたりに立ち込めた。

「美味しそうだな。よし、温かいうちに食べようか」

その藤堂の言葉に二人は頷いた。

「「「いただきます」」」

三人は礼儀正しくそう言ってから箸を伸ばした。



「腹減ったー!足疲れたー!」
「芋を持ってくるのを忘れたのは痛いな」
「ナマの芋だけでは食べれないだろう。やはり焚き火が必要だ」

いくら暖かな気候とはいえ、やはり雨が降る中暖を取れないのは辛かった。座る場所もないため、扇、玉城、南は洞窟の中で寒さに震えながら立ち尽くしていた。 多少掃除したとはいえ、こもっていた匂いが消えるはずもなく、悪臭が立ち込めていて具合も悪くなってくる。

「こんな洞窟で雨宿りするぐらいなら、どこか大きな木でも探して、その下にいたほうがいいんじゃねーか?」

それなら、少なくともこの匂いからは逃げられると、玉城は提案したが、この洞窟に立ち込める悪臭の1つが自分の体臭であることには気づいていないようだった。 今までは屋外にいたため、あまり気にしていなかったが、玉城の体臭はかなりきつく、ハッキリ言って獣臭い。正直近くには来てほしくはなかった。だが、ここであからさまに避け、喧嘩になっても仕方が無い。

「そうだな。それも手かもしれないな」

そうすれば、この洞窟内の匂いから開放され、玉城の臭いもだいぶ薄れるはずだ。 この洞窟内に荷物は置けないと判断し、洞窟の外の木陰においているのだから、自分たちも木陰で雨をしのげるはず。運が良ければ、なにか食べるものも手に入るかもしれない。

「善は急げだ。行くぞ!」

ここから出られると、玉城は笑顔で洞窟の外に出た。雷鳴がとどろき、稲光が辺りを明るく照らしだして入るが、どの雷も今のところここからは遠いので、樹の下にいても大丈夫だろう。扇、南の続いて洞窟から出て、まずは荷物をおいた場所へと移動した。
藤堂たちがいてくれれば、焚き火も食料もどうにかなり、こんな雨に濡れずに済んだはずなのに。
どうして此方に来てくれなかったのだろう。
藤堂達がいる方角へ視線を向けると、焚き火の明かりが見えた。少なくても焚き火が出来るぐらい雨がしのげる物を彼らは用意したのだろう。雨をしのげて、焚き火がある。もしかしたら食料もあるかもしれない。
どうして俺達はこんな目にあっているのだろう。
どうして彼らは助けてくれないのだろう。
扇はそんなことを考えながら、足を動かしていた。
彼らのところに行きたいが、増水した水に阻まれてそれは出来そうにない。
あちらとこちら。まるで天国と地獄に扇は思えた。
この奇妙な島では何が起きるか分からない。
だからこそ、共にいた者達と協力し、生き残る道を探さなければ無かったのだ。
だが、扇たちはそうせずに、藤堂たちの足を引っ張り続けていた。
自然環境の中では常に命に関わる選択を迫られるものだ。
それなのに、扇たちはその選択を誤った。
その事に扇たちは気づくこと無く、只々藤堂たちが助けないのが悪いのだ、来ないのが悪いのだと、そればかりを口にしていた。





あれ、扇達死にそうな気がする。
この話では誰も死なせませんが、普通なら死んでもおかしくない状況になりつつあります。
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