いのちのせんたく 第37話

3日3晩降り続いた雨は、やはり予想通り突然降り止んだ。
空を覆っていた雨雲は一瞬にして消え去り、氾濫していた川は、ほんの数分で水嵩を減らし、水没していた川原が姿を現した。
あれだけの水量だ。本来ならもう少し、と思うのだが、此処で常識を考えても意味が無いことは既に学習済みで、まあ、ここなら仕方が無いなとスザクは嘆息し、久しぶりに川原に降りた。
雨音の変化で起きてしまったが、まだ日が昇ったばかりの時間帯。本来なら後2時間はルルーシュを温めるためにも横になっているべきなのだが、早くに温泉を使えるようにしたかったのだ。
川原は予想より荒れていなかったが、それでも流れてきた枝などが散乱し、温泉は完全に土砂と石で埋まっていた。
これらを全て掻き出し、お湯を張り直さなければならない。
きっと洗濯もするだろうから、洗い場も綺麗にしなければ。
連日の雨で簡単な筋トレしか出来なかったせいで体力は有り余っているから、それぐらいの作業問題はない。

「お風呂も洗い場も、外枠は壊れず残ったか。今から作業をすれば、ルルーシュが起きる頃には使えるかな?うん、きっと間に合うよね。よし、がんばるぞ」

雨で体調を悪くしていたルルーシュと、ちゃんと体を洗いたいとぼやいていたクロヴィスのためにも急がなければ。僕は気合を入れて、まず温泉から修復を始めた。




「まったく。火口石もそっちにあって、雨宿りできる場所もあったのに、何でこんなに死にかけてるのかな?ちゃんと考えて動かないからこういう目に合うんだ」

雨が上がり、川原から水が引いた後、川原で這うように此方に向かってす進む扇たちを見つけ、朝比奈は呆れてそう口にした。

「藤堂さーん、こいつらまだ生きてるみたいですけど、どうします?」

藤堂が出す答えはわかった上で、朝比奈はわざとそう口にした。
倒れている扇達は、この雨の間、雨水を飲み、木の根や草を口にし飢えをしのいでいたらしい。息も絶え絶えという体でいるが、まだ死ぬほどではなかった。
当然だ。3日程度で餓死はしない。この三人は大げさに瀕死だとアピールしているだけなのだ。こちらの視界に入らない場所では、立って歩いていたに違いない。

「まずは食料だな。朝比奈、仙波、高台から薪を持ってきてくれ。此処に焚き火を用意する。食料を運び、まずは朝食を取ろう」
「「承知」」

雨で体が濡れている3人を暖めるための焚き火を用意し、手早くウサギ肉とさつまいもを贅沢に使った暖かな食事を用意すると、扇達はガツガツと必死に口にした。

「よく噛まないと腹を痛めるぞ」
「へっ、そんな余裕あるかよ!死にかけてんだよこっちは」

死にかけている割には、大声で元気に反抗する玉城に、呆れてしまう。

「まあいいけどさ、それ食べ終わったら体と服洗って少しは綺麗になりなよ」

悪臭を放つ3人から離れるように風上で食事をしていた朝比奈は眉を寄せながらそう文句を言った。今から身奇麗にしたところで見捨てる選択を覆すことはないが、流石にこのままでは病気になる可能性が高い。
こんな情況を招いたのは朝比奈達の言う事を聞かず、反抗し続けた結果で、その上食事を用意してくれたのだから流石に文句を言うことも無く、解ったと小さな声で答えた。
多少は反省したかと朝比奈は嘆息すると、藤堂は苦笑した。

「それは我々もだな。今のうちに洗って干してしまおう」
「そうですな。昼食分の食材はまだあります。午前中はまず環境を整えるべきでしょう。また雨が降らないとも限りません」

仙波の言葉に藤堂と朝比奈は頷いた。




植物の蔓を木々の間に張り巡らし、そこに幾つもの衣服が干されていた。

「ふう、やっと体を洗えたな。さすがに泥まみれでいるのはキツかったぞ」

バスタオルを巻いただけの姿で、C.C.は川原に腰を下ろした。
雨の降り始めの日だけではなく、ウサギを捕獲し、捌いたせいで、ほぼ全員獣臭くなっていたため、同意するようにラクシャータは頷いた。
他の者達はまだ眠っているが、雨音の変化に気づいたC.C.が目を覚まし外にでて、眠れなかったラクシャータもまた釣られるように外に出たのだ。その頃にはすでに川原の水は引いていて、それならさっさと体を清めたいと、二人揃って体を洗い、洗濯を終えた所だった。毛布も寝袋も全部洗い、川原一面に敷いて乾かしている。それらが乾いたら着替える前にもう一度体を洗い、このバスタオルも洗ってしまわなければ。

「薪が尽きかけてたから助かったわねぇ。とはいえ、此処に落ちているものはどれも濡れて使えないから、集めて乾かしておきましょ」

同じくバスタオルを巻いたラクシャータが、辺りを見回しそう言った。

「そうだな。肉はまだ残っているし、山菜はその辺で取れるだろう。今必要あものは薪だな。私は薪を拾いながら何か食べれるものも探そう」

C.C.は腰を上げた。そしてふと思い出したようにラクシャータへ視線を向けた。

「ああ、そういえば、藤堂との約束の日を過ぎたな。どうするんだお前たち」
「大丈夫よ。別れる前に念のため、天候の変化で来れなかった時の話はしておいたのよね。3日後、あの場所に向かうわ」
「そうだったのか、さすがだなラクシャータ。ならば問題はない」

ならば3日暇になったな。
ならばこの3日、どうあのお荷物二人組をやり込めるか策を練るか。
C.C.はニヤリとその顔に笑みを乗せた。
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