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少し太めの竹の筒を地面に深くさし、それより少し細めの竹の棒を差し込む。 それが等間隔に4箇所。棒の先は加工してあり、そこにまっすぐな竹の棒を置く。これで物干し台と物干し竿の設置は完了した。 バスタオル、タオル、衣服。そして毛布と寝袋を全て洗い干し終わると、ルルーシュはそれはそれは眩しいほど爽やかな笑顔で頷いた。 あまりにも綺麗に笑ったので、ルルーシュを見慣れているスザクでさえ思わず見惚れてしまった。 「よし、完璧だ。今日は快晴。この分だと昼前には乾くだろう」 元々綺麗好きで潔癖症な所があるルルーシュとしては、それでなくても不衛生な屋外生活で、風呂どころか洗濯もろくにできない環境はかなりのストレスが溜まっていたのだろう。温泉に入り、綺麗な服に着替え、衣服や毛布の洗濯を終えたその顔は、昨日までの青白さが信じられないほど、活き活きとしており、楽しげに箒片手に川原の清掃を始めた。 朝食は簡単に済ませたが、昼食はしっかりと作りたい。 だからまずは釜戸を清掃し、修復しなければと意気込んでいる。 「スザク、お前は洞窟に戻って中にあるタンスやベッドを天日干ししてきてくれないか?食材もいつも通り頼む」 「それはいいけど、新しい食材取りに行く暇がなくなるよ?」 朝から川原の清掃を行っていたスザクは、まだ罠も仕掛けていないことを気にしていた。だが、ルルーシュはスザクのその言葉に首を横に振った。 「2.3日は取りに行かなくても大丈夫だ。寧ろ燻製と干し魚、そして熟成を終えたウサギ肉と食材が多すぎる。野菜類は収穫するが肉類はいらない。それに、見た目は元に戻っているとはいえ、あれだけ荒れていた川と海だ。今日は絶対に水には入るなよ」 表面上穏やかに見えるが、水中が濁っていたり、荒れている可能性はある。余裕があるならわざわざ危険を犯す必要はないなと、スザクは頷いた。 「わかった。じゃあ、僕は洞窟の方、やってくるね」 「ああ。それが終わって時間があるようなら、この空いた時間で兄さんの焼き窯を作ろうと思う。せっかく斧とノコギリも手に入ったからな。使わない手はない」 出来ることなら、調理用の釜も欲しいところだ。 「あ、そうだね。じゃあクロさんにはそう伝えておくよ」 「頼む。兄さんがまだ寝ているようなら起こして構わないからな」 「わかったよ。ルルーシュ、何かあったら叫ぶんだよ?すぐ来るからね」 「わかったわかった。何かあったら呼ぶから、さっさと行って来い」 本当に過保護だなお前は。 苦笑するルルーシュに見送られ、スザクは洞窟へ向かった。 悪天候で洞窟に篭っていたせいか、昨日からクロヴィスは夜中に起きて朝寝るという昼夜逆転の生活となっていた。そのため、後2時間もすれば昼というこの時間になっても起きてこなかった。 洞窟に戻ると、予想通りクロヴィスは未だ夢の住人で、ベッドの上で大の字に横になり、スヤスヤと眠っていた。 まずはベッド以外の物を外に出そう。家具類を天日干しするのは悪天候で湿気ってしまったため、カビがはえる可能性があるからだ。保存食も同じで、天日で乾かす必要がある。出来るだけ物音を立てないよう注意し、スザクは洞窟から荷物を運び出し、入り口周辺に並べた。 太陽が真上に差し掛かる頃、ようやく乾いた衣服を身に纏い、カレンは体に巻いていたバスタオルを川の水で洗っていた。あれだけ氾濫していた川は朝起きた時にはもう元の状態となっており、川の水も濁ること無く澄んでいた。 おかしな場所だ。 気味が悪い。 そう思うが、水無しでは生きられないのだから、気味が悪くても使わないという選択肢は無い。ぎゅっとバスタオルを絞り、朝にC.C.が用意したらしい、枝と枝の間に縛られた弦に引っ掛けて干す。 今日は天気が良いからバスタオルなら1時間もあれば乾くだろう。 C.C.たちも同じように干すと、朝に集めて乾かしていたという乾いた枝を集め、火を付けた。 昨日の夜で薪となる枝が尽きてしまい困っていたのだが、丁度雨が上がってくれてよかったと、皆安堵していた。 「さて、コレでようやく食事ができるな」 火が無く、朝食を作れなかったので、限界だ腹が減ったとC.C.が鍋を出し、川の水を汲むと火にかけた。雨の日にC.C.が捕獲したうさぎの肉がまだ残っていたのでその肉と、朝からC.C.が集めた山菜類を使いセシルと千葉が調理を進め、C.C.が味を整えるといういつもの流れのあと、昼食を取った。 「そういえば、まだあの二人は起きないのか?」 「最近夜更かしをしていましたから。もうすぐ起きるとは思いますが・・・」 相手は皇女、そして爵位を持つ軍人だ。セシルも軍人ではあるが爵位はなく、ヴィレッタのほうが地位が上のため、下手に起こすと「なんて無礼な」と地位を振りかざし色々文句を言ってくるのだ。だから下手な争いを起こさないために、勝手に起きてくるまで放置することになっていた。 そうしなければ全てセシルの負担になるからだ。 「まあ、少し残しておけばいいだろう。問題はこのウサギ肉だ。このままでは腐ってしまうから干物にする」 「そうだな。腐らせるのは勿体無い。私が捌いて干しておこう」 千葉はそう言うと、ナイフを手に残ったウサギ肉を捌くため川原へ移動した。 「私も手伝います。干すなら何か紐のようなものが必要ですね」 「あ、じゃあそこにある木の弦、取ってきますよ!」 「駄目だカレン。その弦は手がかぶれる。お前たちはとりあえずその肉を捌いて待っていろ。仕方ない私が使える弦を取ってきてやろう」 面倒臭いと言いたげな表情でC.C.は立ち上がると、いつも持ち歩いているかばんを手に森の中へ歩いて行った。 「彼女、話し方や態度で損してるわよねぇ」 「ホント素直じゃないですよね」 「あれじゃ、性格が悪い生意気な女だと勘違いされても仕方が無いだろう」 「そうですね。彼女の言動をそのまま受け取らないようにしないといけませんね」 本当にそうだ。 あの言動を鵜呑みにしたらこちらが馬鹿を見ると、皆笑いながらC.C.が姿を消した先を暖かい眼差しで見つめていた。 「あー、スッキリした。やっぱ体を洗うと気持ちいいなぁ」 久しぶりに川で体を洗い、洗った服を絞りながら玉城は笑顔でそう言った。 木の枝で葉を磨き、髭も剃ったため、先程よりも見た目は良くなっていた。 それは扇と南にも言えることで、ようやく三人は身奇麗にし、洗った衣服を川原に並べて干した。 腰には洗って濡れたままではあるがバスタオルを巻いている。 藤堂たちも同じように腰にバスタオルを巻き、焚き火にうさぎの肉を串にさしたものを焼いたり、近くの草むらを見て野草を探したりしていた。 手元にある食材があとうさぎの肉だけなので、衣服が乾いたら夕食の食材を集めなければならないだろう。 男6人だから食べる量が多い。 日本が戦争で負けたことで、食べ物のない辛さを知っていたはずの扇達は、飢えの苦しみを思い出したらしく、材料探しに大人しく従った。 もっと早くからこうであればと思うが、一度壊れた関係だ。無理をして戻してもまた些細な事で争うこととなるだろう。何よりこの殊勝な態度が一時的なもので、再び先日までの用になる可能性は非常に高いと見ていた。 だから今のうちに彼らに生存術を教える。 ラクシャータたちと合流する際は連れてはいかない。 その事を藤堂、仙波、朝比奈は再確認した後、扇達のサバイバルの特訓方法を話し合った。 |