いのちのせんたく 第39話

居住区である洞窟から真直ぐに外を見た時、正面辺りに少し変わった高台があった。
その高台は岩で出来ており、大小様々な石がゴロゴロと転がっていた。
川原も大小様々な石はあるが、石だけではなく土も砂もある。
だが、高台には石以外何も無いのだ。
草木どころか、苔すら生えていないという不自然さに、ルルーシュは意識して今まで近寄らなかったのだが、焼き窯を作るという流れになった以上「ここの石を使わないなどあり得ない!」と完全に開き直っていた。
その上、万が一火が出ても周りは石、石、石。火事になる可能性は限りなく低い。
更にはすぐ傍に川だ。消火するのも楽だろう。
また大雨が降っても大丈夫な高さがあるため立地条件としても最適だと、クロヴィスの焼き窯はこの場所に作成されることになった。
勿論ついでという名目で料理用の釜もこの場に作成されることになっている。
石窯があればパンも焼ける!ふははははは!と、テンションが上がりすぎて思わずゼロが若干出てしまったが、スザクもクロヴィスも聞かなかったことにした。
ルルーシュ=ゼロと二人は最初から知っているし、クロヴィスは記憶が戻っていることも知っている。スザクは多分戻っているだろうなと思いつつも気づかないふりをすることにしていた。
見ざる言わざる聞かざる。
ハイテンションで昼食を作るルルーシュを眺めながら、そう自分に言い聞かせた。
昼食を終えた3人は高台に集まり、クロヴィスがこういう釜を作るというイメージを説明した。平らな石があれば組み上げは楽だが、ここにあるのは大小様々無な石、しかも平らなものなど無い。隙間は粘土で埋め、クロヴィスがイメージするサイズと形を再現することとなった。

「ではこの場所に作成しよう。土台に使うのならこのサイズか?・・・よいしょっ・・・・」

・・・・

当然ではあるが、ルルーシュは非力である。
石窯を作ると決まった時点で役に立つはずもなく。

「ルルーシュ!石は僕が運ぶから。そんなの持ったら君、腰痛めるよ!」

腹筋も背筋も腕力も無いんだから!
しかもその持ち上げ方っ!痛めるからやめて!!!

「な!?失礼な!俺にもこのぐらいは!」

ふらふらしながら運ぼうとした石を、スザクは横から、しかも片手で軽々と奪い取り、スザクの馬鹿力と自分の腕力の差に打ちひしがれた。
更には傷に塩を塗る口撃まで加わる。

「ダメダメダメダメ!絶対駄目!君は女の子より腕力無いんだから駄目!僕がやる!雨のせいで運動できなかったから、その分動きたいし!石は僕が運んで組み上げるから、君とクロさんは粘土で隙間塞いだり、支えたりして!絶対持ち上げないで!だいたい君、腕に怪我したこと忘れてないか!?」

まだ完治してないんだからね!
ものすごい剣幕でスザクにそう押し切られてしまい、俺の腕力は平均的だという言葉も却下され、ルルーシュはそれなりに心に傷を追いながらも不満だという顔で、クロヴィスが運んできた粘土を竹で作ったヘラを使って石の隙間をうめたり、固定する作業を行うことになった。
張り切って石を運び生き生きと作業をするスザク。
しょんぼりしながら作業を続けるルルーシュ。
その間に立たされ冷や汗を流すクロヴィス。
空が夕焼けに染まった頃、どうにか焼き窯は形になった。
いつの間にかスザクは斧で木を切り出していたらしく、焼き窯の傍に既に割られた薪が大量に積み上げられていた。とはいえそれはまだ生木。火を付けたところで煙が立つだけだからと、火を入れ釜の隙間をうめた粘土を固める作業は後日となった。

「なんかこういう食事久しぶりだよね」

洞窟に戻ってきた時点ですでに日が落ちてしまい、料理を作るのは難しいと判断し、塩を振って焼くだけという料理となった。
作ると言いはったルルーシュだが、焚き火があるが、薄暗い中で刃物を使って指を切ったらどうする!痛みを感じないんだから大惨事になる!と、二人から包丁を取り上げられてしまい、渋々干した魚とスザクが一口大に切ったウサギ肉の串焼きを焼いていた。

「そうだね。ルルーシュが回復してからはこういう食事はしていなかったからね」

だけど、こういう料理でもルルーシュが焼くほうが美味しいのは何故だろうね?

「そんな不貞腐れないでよルルーシュ。たまにはいいじゃないかこういうのも」

なんかキャンプみたいだ。

「いや、お前何か忘れてないか?俺達は此処でキャンプどころか、連日サバイバル生活中だぞ」

たまにはどころか毎日こんなもんだろう。
せめて野菜を切って一緒に焼いたり、もっとこうちゃんとした味付けをしたり、バーベキューをするにしても・・・ブツブツブツブツ。

「そういえばそうだね。君がいるおかげでサバイバル生活というよりも、人里離れた山奥で自給自足生活してる気分なんだよね。だから食事でこういうのは久しぶりだろ?」

それはまた今度作って?

「くそっ、明日はちゃんと作るからな!」

野菜が足りない、野菜が!
そう言いながら焼きあがったウサギ肉を皿に乗せると、スザクは嬉しそうな声を上げ、串を一つ手に取ると美味しそうに頬張った。皇族だというのにこういう食事を食べることに慣れたクロヴィスもスザク同様齧りつく。
熟成も上手くいったし、焼き加減も完璧。柔らかく焼けた肉をルルーシュもまた味わった。美味しそうに焼けた魚も追加で焼いたウサギ肉もあっという間に平らげ、三人は満足気に食後のお茶を口にした。

「明日は焼き窯も使えるようになるだろうね。そうだルルーシュ、この前話をしていたパンを焼いてくれないだろうか」

石窯で焼けるのだろう?久しぶりに食べたいのだが。

「イースト菌も小麦粉も無いのでどこまで出来るか解りませんが、試作品は作ってみるつもりです」

味も食感も保証しませんが。

「楽しみだなー。あ、僕胡桃割ろうかな。くるみパンとか美味しいよね」
「それよりドングリを処理してくれ。どんぐり粉をかなり使ってしまったから、パンの試作をしていけば足りなくなる」
「わかった。じゃあ明日の朝拾ってくるね」
「私も明日は拾いに行くかな」
「なら俺も行くか。ついでに何か他にもないか調べたいしな」

明日は朝から、毎日拾っても翌日にはどんぐりが大量に落ちている場所へ三人で向かうこととなった。
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