いのちのせんたく 第41話

ノコギリは本当に便利だ。
ナイフ一本ではどうにもならなかった邪魔な枝が、スザクの手で次々と切り落とされた。空を覆っていた邪魔な枝もついでに切り落とすと、視界も明るくなり、道は更に歩きやすくなった。
道の整備は順調に進んでいて、今では草履のままで近場は歩き回れるほど。
この枝の剪定でより快適に歩き回れるようになるだろう。
倒れかけていた大木を斧で切り倒し始めたため、ルルーシュはカバンを手に周辺を見て回った。スザクの視界に入る場所でという謎の制限をかけられてはいるが、それなりに自由に探索をしていると、新たな食材を発見した。

「キノコか」
「え?キノコ?」

ルルーシュが何かを見つけたことを目ざとく発見したスザクが、木を切り倒すのを中断し、ひょこっと覗き見た。
そこにはたしかにキノコがあり、美味しそうだと思いながらもスザクは眉を寄せた。

「ルルーシュ、キノコは駄目だよ。危なすぎる」

毒キノコは判別が難しいんだからね。
それにそのキノコ、なんとなく毒っぽい気がする。

「スザク、お前俺を馬鹿にしているのか?キノコに関する知識は持っている。これは鬼茸だ、食べられる。そこで群生しているのは傘茸で、こちらも食べられる。だが、そちらにある大狐茸は毒ではないが食用には向かない」

見た目で判断するな。

「・・・待って、君。本当にどうしてそんな知識持ってるんだよ」
「悪いのか?」

毒キノコに関するものを中心に、図鑑を読みあさったことがあるだけだ。

「いや、悪くないし、助かるけど・・・」

インドア派の君は山菜採りになんていかないじゃないか。
頭はいいけど、ほんとに変な方向に使っているよね君。

「雨の影響か?見ろ、至る所にキノコが生えている。ほら、あれは楢茸と卵茸だ。すごい量だな、これだけ取れるなら塩漬けや干し物にして保存できそうだ」
「ならキノコ鍋にしようよ!楽しみだな~」
「ならさっさと切り倒せ。それが終わらないと帰れないぞ。兄さんには念のためサンドイッチを用意しているが、出来れば昼には・・・ん?お前が切っているその木に生えているの、平茸じゃないか」

カバンに一杯のキノコを採取し、晩はスザクの要望通りキノコ鍋に決定した。



「おい、キノコだ!見ろよ!すげーあるぜ!」

サツマイモを収穫しに来た玉城は、キノコの群生地を見つけた。
一緒に来ていた扇と南もそちらに走り寄り、これはすごいと歓声を上げた。

「これだけあれば腹いっぱい食べれるな」
「よし、玉城と南は茸を」

扇がそう指示を出そうとしたのを遮ったのは仙波だった。

「取るのは構わないが、毒茸を見分けられるのか?」

仙波と朝比奈は芋を掘りながら三人で盛り上がっている姿を冷めた目で見ていたが、毒を食べて動けなくなられたら困ると、確認することにしたのだ。

「え?あ、いや。解らないが、貴方達なら・・・」

やはり此方頼みか。
仙波と朝比奈は思わず顔を見合わせて嘆息した。

「悪いが、我らは自分の知らないキノコには手を出さない。毒と食用、見た目ではほとんど見分けられないものも多いからな」
「ええ?じゃあどれ取ればいいんだよ!?」
「安全だと解っているものを取れるのならキノコを採取すればいい。解からないなら芋を掘れ。キノコは解る者が取る」
「どれがいいか教えてくれりゃいいじゃんかよ」
「さっきも言ったが、毒と食用はよく似ている。1つでも毒が混ざれば大変なことになるから、解からないなら手を出すな」

空覚えの記憶と知識で手を出したら大惨事になってしまう。
それなら最初から手を出さないほうがいいのだ。

「なんだよ偉そうに!!なら食料はお前たちが今まで通り集めろよな!ちょっと手伝ってやろうかとおもったのによ!」

その言葉に、仙波と朝比奈はすっと表情を消した。
昨日一昨日は流石に可哀想かと食料を分けたが、今日からは自分たちの食料は自分たちでと話をしたはずだった。それなのに手伝っていると口にするのか。
解っていたことではあるが、やはり一緒にいるのは無理だなと確信した。

「玉城落ち着け。仙波も少し考えてくれないか。俺達はろくに食事も取れず、体が弱っているのにこうして手伝いに来たんだから」

扇まで手伝いと口にし、南もそうだそうだと同意する。

「またその話?どれだけ俺達に頼ればいいんだよ。昨日、一昨日と食事を分けてくれて有難うって言葉さえ言わないし。ああ、朝も言ったけど俺達が採っている物は分けないから。キノコも食べたいなら取ればいい。毒でもいいなら食べればいい。俺達は食べないし、あげないから」
「はあ?俺達は病人だぞ病人!瀕死だった俺達を可愛そうだとか思わないのかよ!」
「思わないね」
「思わんな」
「何だとこら!」
「騒ぐ元気があるなら芋を掘ったら?芋が終わったら大根を掘りに行くんだから」
「ああ、やはりあれは大根だったか」
「ええ、浜大根ですね。数本掘って芋と一緒に煮ましょう」

仙波と朝比奈はそう言うと、三人を放置し芋を掘り、持ってきた木箱へと放り込んだ。



「セシルさん。そのキノコ、それは食べれるから取ってくれないか?」
「え、これですか?」
「椎茸といって日本では有名なキノコで、焼いて食べると美味しい。結構生えているから採取しよう」
「あ、千葉さん、此処にもあるわよ?」
「それは・・・解らない」
「ならこれは採っちゃ駄目ね」

今日はカレン達が藤堂と会う約束の日。
話の内容によっては戻ってくるのは翌日になるかもしれないと言っていた。
だから今日はセシルと二人で食べ物の採取しに来たのだが、何時も見に行く場所にキノコが沢山生えていた。
あの雨の影響だろうか?だが、雨が上がって今日で3日。
たった3日でこれだけ立派な椎茸が育つのだろうか?

「あら、つくしだわ。やっぱりこの場所は季節感が無いのね」

地面に視線を向けると、10本ほどのつくしが生えていた。

「春の代名詞まで・・・つくしも食用にできるから採取しよう」
「あら、食べれるんですか?では摘んでしまいましょう」
「うさぎの肉もあるし、カエルも2匹捕れた。山菜もそれなりに採れたから今日の昼と夜の分は十分だろう」

セシルの隣にしゃがみ、一緒につくしを採取しながら千葉はそう口にした。

「そうね。コーネリア様とヴィレッタさんもそろそろお腹をすかせている頃ですし、戻ってお昼にしましょうか」

にっこり笑顔で同意してくれるセシルだが、彼女は自分が料理をすると言って率先して動く性質がある。千葉は自分の命を守るためにも、ある意味毒キノコよりも強烈なセシルの料理を回避するため、今日も説得し料理の主導権は此方が手にしするぞと、セシルには気付かれないようこっそり気合を入れた。
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