いのちのせんたく 第42話

あの奇妙な大雨が降って3日が過ぎ、森の奥深くにある岩場に男1人、女3人が集まっていた。
彼らの身なりは大分薄汚れ、衣服に破れているところもあるのだが、サバイバル生活をしていることを考えれば、清潔に保たれていると言えるレベルの風貌だった。
幸いというべきか、あれだけの雨にも関わらず、森は荒れている様子はなく、すんなりとこの場所にたどり着くことが出来た。

「本当に雨が降るとは思わなかったな」

藤堂は苦笑しながら、以前と同じ岩に腰掛けた。
今日は飯盒ではなく竹で作った水筒をリュックに数本入れてきていた。藤堂はその水筒を3人に渡すと、3人は礼を言いその水筒の水を口にした。長い雨の影響か以前よりも蒸し暑いため、喉が渇いていたのだ。
女性たちの所有する道具の中に水を入れて持ち歩けるものが無かったため、水分を取れて姓き返ったという表情を三人は浮かべていた。

「竹で作ったのか。そういえば拠点の近くに竹林があったな。あれで何かを作ろうという考えが無かったな」

食料確保と周囲の状況把握で手一杯だったとはいえ、私としたことが。
C.C.は苦笑しながら手製の竹の水筒を見つめた。
自分は冷静だと思っていたのだが、違ったらしい。
戻ったら作っておくか。

「私もだ。仙波と朝比奈が雨の間に作ってくれてな。仙波は前々からこういう細工物を作りたかったらしいが、作ったところで駄目にされるのが目に見えているから手を出さなかったそうだ」

扇達の情況を色々と愚痴という形ではあるが聞いているため、女性陣は納得した。
此方もそういう道具を作ったら、全部皇女殿下が使うとか言って回収され、作れるなら毎回新しいものを作れと命令し、使い捨てにされるだけか。
おそらくゴミと苛立ちが増えるだけだろう。
それを考えれば作るだけ無駄。
気づかなくて正解だったということか。

「まあ、こういう道具に関しては、あいつらと別れてから考えよう」

そのC.C.の言葉に、女性三人はうんざりした顔で頷いた。

「まあ、こうして無事にまた話ができて良かったわ」

あの約束がなければ毎日のように此処に来て相手がやってくるのを待たなければならないところだった。水もなしで片道約3時間。
C.C.のアドバイスで水を多く含む草を口に含みながら移動はしていたが、それだけで足りるはずもなく、衛生面にも問題があるから連日此処になど無理な話だった。

「ですね。といっても、結局水源見つけれてませんが」
「それは仕方が無いだろう?こんな場所に川が2つある時点で快挙と言っていいんだぞ。さらに水源が見つかる可能性は低い」

それもそうよね。
その上雨まで降ったのだ。
解っていたことではあったが、やはり水源がなかったことに4人は嘆息した。
水源がなければ刈ったばかりの草や竹を使い水を確保することも可能だが、その程度の水でいつ助けが来るかわからないこの場所で生きていくなど遠慮したい。
川が駄目なら海水を使用するほうが現実的だろう。
それはそれで大変なのだが、背に腹は代えられない。

「やはり海に拠点を作るか、何方かの川の上流を目指すかだな」
「そうよねぇ。でも私達のところ、けっこう上流なのよ。そっちはどうなの?」

下流に拠点など考えられない。
なにせ扇たちもコーネリアたちも正直いって衛生面に問題がある。
彼らが使用した水を、いくら煮沸するとはいえ使用したいとは思わない。

「此方はほぼ中流だな。だが、既に別れる話はしているから、我々の移動する場所を予想し、上流、下流、河口、海辺は探しに来る可能性がある。彼らは我々に頼りきっているからな」

呆れたように話す藤堂に、ほぼ同じ状況の女性三人も同意を示した。
相手が未成年、特に幼い子供なら分る。
あるいは障害を持っていたり高齢だったり、病気を抱えていたり。
その場合は反対に拠点で火の番など簡単な作業をしてもらうところだ。
だが、こちらで抱えている人間は全員健康で、年齢も若い。
しかも体力自慢の軍人とテロリスト。
そんな連中が遊びほうけて、こちらに全ての負担を被せてくるのだ。
肉体的によりも精神衛生上、これ以上あいつらの世話などしたくはない。
追いかけて来られても迷惑でしか無いのだ。

「となれば、拠点近くは何方も駄目なのだろう?ならば此方とそちらの拠点の中間点の海辺ならどうだ?我々は森を突っ切ってこうして会ってはいるが、海岸線を回って互いの拠点に、となるとかなりの距離だ。その中間点なら流石に見つからないんじゃないか?」

C.C.の案に、それしか無いかと結論を出そうとした時、ガサリと草と枝を踏む音が聞こえた。
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