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「ならば、私達の所に来たらいい」 突然割り込んだ5人目の声に、藤堂とカレンはラクシャータを背に庇い、臨戦態勢に入った。 声がしたのは木々が生い茂っている場所で、人の気配を感じることが出来なかった。 カレンと藤堂の背中に冷たい汗が流れた。 「ああ、いきなり話しかけて済まなかったね。ほら、私は見ての通り丸腰だ。そんなに警戒しないでくれたまえ」 がさりと草を分ける音と共に、木の影から姿を現したのは、本来死んでいるはずの人物で、カレンは短い悲鳴を上げて、後退った。 藤堂も驚きで目を見開き、ラクシャータもぽかんと口を開けていた。 金髪のいかにも優男といった体格の男が、両手を上げたたま歩みを進める。 衣擦れの音はするが、人の気配は感じられない。 「はじめまして、というべきかな。元エリア11総督にして神聖ブリタニア帝国第三皇子クロヴィス・ラ・ブリタニアだ。ただし、既に死んでいるがね」 着ている服はあの豪華な皇族服ではないが、それでも優雅さと上品さを失わないその姿に、思わず頭を垂れてしまいたくなるほどだ。 これが皇族。生まれながらの強者。大国ブリタニアの頂点に立つ皇帝の息子。そして次期皇帝候補者第三位だった男。 「え?ちょっと待って?なんでクロヴィスが?え?私達、死んだの?死んだからこんな妙な島にいるの!?」 恐慌に陥ったカレンは、目に涙をため、がたがたと身を震わせながら、首を振った。 ラクシャータは、そのカレンの様子に、慌ててその震える体を抱きしめた。 いきなり抱きしめられたことで、ビクリと体を震わせたカレンは、ラクシャータだとわかると、怯えるようにラクシャータにしがみつく。 ラクシャータはぎゅっとカレンを抱きしめながらも、その視線はクロヴィスから離すことはなかった。 どう見ても生きている、呼吸をしている。重さもある。どういうことなのだろう。ラクシャータはその頭脳をフル回転させ、事態の把握に務めた。 「ああ、安心していい。君たちは生きている。それは私が保証しよう」 カレンの豹変に慌てたクロヴィスは、安心していいと苦笑しながら、彼らの死を否定した。 「保証ねぇ。アンタには生きてるか死んでるか分るっての?それともこの島のことを知ってるとか?」 ラクシャータは、少しずつカレンを自分の背に庇うような形で後ろへと移動し、クロヴィスを睨みつけた。 平静を取り戻した藤堂は、ラクシャータとカレンを庇うように間に立った。 人間とは不思議なものだ。誰かがパニックを起こすと、反対に冷静になれる。 「今いるこの島は不思議な場所でね。ゼロに殺され、Cの世界を漂うだけの存在となっていた私が、今再びこうして肉体を持ち話ができるのは、この島の不思議な力のせいであって、君たちが死んだからではないよ」 「・・・まあいいわぁ、今それを確かめる方法はないわけだし、信じてあげる。で、私達のところへ来いってどういうことかしら?まさか、死者も集まっているの?」 「いやいや、私だけだよ死者はね。居るのは二人、一人は枢木スザクだ」 その名前に、黒の騎士団である3人は警戒の色を示した。 「では、もう一人はルルーシュか?」 探るようなその声に、全員が驚きの視線を向けた。 その質問をしたのは、同じように警戒し気配を完全に消していた緑の髪の美しい少女C.C.。すっと足を進め、無表情のままクロヴィスの前に立った。 まるで3人を守る盾のように。 完全に気配を殺して歩くその姿に、藤堂は固唾を飲んだ。 いつもゼロと共に居るが、役職を持たず、ただ居るだけにしか見えなかったその少女に初めて畏怖の念を懐き、思わず半歩距離をとった。 「君は・・・会えて嬉しいよ。C.C.と言ったかな。君を実験材料とし、研究をしたこと、今は後悔しているよ」 嬉しいような、困った様は表情で、クロヴィスはC.C.をじっと見つめていた。 気色悪いと言いたげに、C.C.はクロヴィスを睨みつけた。 実験の材料という言葉に、ラクシャータと藤堂は、驚きC.C.を見る。 「そうか、それは良かった。で、もう一人はルルーシュか?」 過ぎた事よりも今の方が大事だと言いたげにC.C.は質問を繰り返した。 「よくわかったね。さすが魔女殿といったところか。そう、もう一人はルルーシュだ。だからこそ、君を迎えに来た。あの子には君が必要だからね」 クロヴィスは真剣な表情で、じっとC.C.を見つめ、C.C.は何かを探るようにその視線を受け止めていた。 暫く何かを考えるように無言のままクロヴィスを見つめていたC.C.は、ニヤリと口元を釣り上げた。 「・・・なるほど、Cの世界を漂っていた、か。では、世界で何が起きていたか、ルルーシュに何が起きているのか、感じていたか?」 「さすがはルルーシュの共犯者だ。話が早くて助かるよ。もし君がこちらに、いや、ルルーシュのもとに来てくれるのであれば、君の仲間も受け入れるよう二人を説得しよう」 「そうか、では契約成立だな。だが、こちらの人数は多いぞ?男は藤堂、仙波、朝比奈、女は私、ラクシャータ、カレン、千葉、セシル合計8人だ。いいのか?」 「思ったより多いが、大丈夫だろう。ほぼ全員黒の騎士団だからね。スザクが拒絶する可能性もあったが、セシルが居るなら受け入れるだろう」 「そういえばそうだな、セシル様様だ。で、坊やの方は本当に大丈夫なんだろうな?」 C.C.は探るような視線でクロヴィスに問いかけると、クロヴィスは穏やかな表情で頷いた。 「あの子の体のことなら大丈夫、スザクがちゃんと見ているよ。それにルルーシュは人手を欲しがっているから、動ける人間が増えることは理由さえ用意すれば問題はないだろう。あの子は優しい子だからね」 君達が困っているなら拒絶はしない。 「・・・そうだったな。わかった、これは好機というやつなのだろう。ここにいるのがカレンと藤堂、ラクシャータなのだから」 C.C.はくるりと振り返ると、話しについていけない様子の三人にニヤリと笑いかけた。 そして、三人に魔女は爆弾を落とす。 「さて、お前たち。新たな拠点は見つかったぞ。ああ、言っていなかったが、今話にでていたルルーシュが、ゼロの正体だ」 C.C.がゼロの正体を話したことに驚くカレンと、藤堂、ラクシャータ。 カレンは既に味方だ。問題は残りの二人。 黒の騎士団内でC.C.が最も味方に欲していた二枚のカード。この機会を逃すこと無く、二人を味方に引き込むため、C.C.は静かに語りだした。 ルルーシュの本名を話すだけで、藤堂とラクシャータは、その身の上を理解した。 なにせ枢木スザクの師であり、ブリタニアからの人質ルルーシュとナナリーを陰ながら監視していた一人である藤堂。 ガニメデを研究し、その乗り手であった閃光のマリアンヌに関するあらゆる情報を手に入れていたラクシャータ。 ルルーシュ・ヴィ・ブリタニアが人身御供として日本に送られたことは当然知っている。 二人の反応に満足したC.C.は、全部話すと長くなるから、簡単に話すぞと前置きをして、語り始めた。 ルルーシュが戦う理由を、そしてブラックリベリオンで謎のブリタニア製の機体に追い詰められ、どうにかゼロをガウェインから降ろし、自分はその機体とともに海に沈んだこと、そしてどうにか難を逃れたゼロはスザクに見つかり、捕縛されたこと。 カレンがその場に辿り着いたことは話さなかった。なぜならルルーシュが既に許しているからだ。何より、私がここでカレンを刺激するのは得策ではない。 その後皇帝の所持する力によりゼロとしての記憶も、皇族としての記憶も全て奪われ、その代わり偽りの記憶を埋め込まれ、皇帝直属の機密情報局の監視の中でC.C.を誘き寄せる餌として生かされていること。 書き換えられた記憶は、卜部たちとの再会で取り戻し、今は機密情報局を欺き、ゼロとしても活動していることを告げた。 もし、ルルーシュがゼロだとブリタニアに知られた場合、エリア11総督ナナリー・ヴィ・ブリタニアと共にルルーシュも抹殺される。 おそらく友人たちも全員。 二人を殺せと枢木スザクもまた命じられていることも話した。 そして、枢木スザクもまた、抹殺される友人の一人だということも。 「二人共よく聞け。この話は他の者には絶対にするな。四聖剣にもだ。今の話で理解ったと思うが、皇帝は秘密の研究機関を持っている。記憶を書き換えるだけではない、自分の意志とは関係なく操り人形のように体が動いたり、心を読んだりとその力は様々だ。そしてその力は強力だ。ブラックリベリオン後、記憶を奪われたゼロは、一度目の記憶改竄で、皇帝に忠誠を誓った軍師としてEU戦に参加していた。その時監視についていたのも枢木スザクだ。一度捕まれば、抗える力ではない。つまり、秘密を知るものが増えれば、ブリタニアに知られる可能性は高まる。その危険を冒さないために、ゼロは私とカレン以外に正体を教えなかった。今は私がゼロにかけられた全ての力を消し去ったが、私にもできることと、出来ないことがある」 この場でミスは犯せない。 体と心を壊したルルーシュには、その傷を癒やすためにも支えが必要だ。 専門ではないとはいえ医者としての能力も持つラクシャータと、素性を知る将軍と騎士の器を持つ藤堂は絶対に味方に引き込む。 いや、引きこまなければならない。 二人を納得させるため、表情には出さないが決死の思いでC.C.は説明を続けた。 |