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「更に言うなら、今ゼロは病を抱えている。体と、心。どちらもな。しかも重症だ」 「え?なにそれ?私知らないわよそんな話」 カレンは驚いたように顔を上げ、C.C.を見た。 常に凛とした姿で立ち、迷うこと無く指示を飛ばす姿しか見ていない者には、その体も心も限界が来ていることに気がつくことはないだろう。ルルーシュが、自分の弱点を人に知られないように振舞っているというのもあるが、ゼロも人間だ。 一人の人間が、作戦を立て、内政も整え、外交も行う。 それがどれだけ心と体に負担をかけるのかよく考えれば分ることだが、仮面を被り、変声機で声を変えているため、感情も表情が見えないことで、中身は普通の人間なのだという認識をされていない節はあった。 「当たり前だ。これは私とゼロだけが知っていることだからな。で、クロヴィス。アイツは大丈夫と言っていたが、実際の様子はどうなんだ?」 「君風に言うなら、5日間壊れていたよ。もう回復しているがね」 その内容に、C.C.は目を見開くほど驚き、クロヴィスへ詰め寄った。 「5日だと?そんなに長い間壊れたのかアイツは。原因は何だ?」 いつにない切迫した様子のC.C.と、悲痛さを載せた真剣な表情のクロヴィス、そして壊れたという言葉に、藤堂達は本当にゼロの体に何か問題が起きているのだと悟った。それも、重症と言うのは大げさではないということも。 「ユーフェミアだ。あの子はルルーシュが好きだからね。この島に来たルルーシュに何度も干渉してしまったんだ」 「あのお飾りか。死んでも何も考えずに感情だけで動くところは変わらないか。馬鹿は死んでも治らないというが、本当だな」 限界まですり減っていたルルーシュだ。 ユーフェミアとの再会は傷に塩を塗り付けるようなもの。 ならば5日も壊れたというのも信じられる。 「此方にスザクが居てくれてよかったよ。5日で済んだのはスザクのおかげだ。その後壊れずに済んでいるのもね」 最初の頃はともかく、今のスザクはルルーシュに過保護すぎるぐらいだと、クロヴィスは普段のスザクとルルーシュのやりとりを思い出し、穏やかに笑った。 「そうか。スザクはルルーシュがゼロと知りながらも、友人ごっこを続けてくれたわけか。偽りの親友でも、壊れたアイツには必要だからな」 ルルーシュ、ナナリー、スザク。あの三人は互いに依存している部分がある。 たとえ演技だとしても、敵としてではなく仲間として、友として傍に居てくれる。 たったそれだけの事でも、ルルーシュの心の傷は確実に癒えるだろう。 アイツが欲した唯一の駒。 最愛の女王であるナナリーを守るための、最強の騎士。 「そうだね。ああ、スザクはルルーシュの記憶は戻っていないという前提で動いているからね。まあ、薄々気づいているのかもしれないが、ルルーシュにゼロとしての記憶が戻ったと確定してしまえば、ルールを重んじる彼はルルーシュを捕縛するしか選択肢が無くなってしまう。その命を奪えという父上の命令に従うかもしれない。こんな環境に居たとしてもね。だからルルーシュはあくまでも”記憶を改竄された状態”だということを忘れないで欲しい」 「相変わらず面倒な男だな。だが仕方が無いか。あくまでも私達はゼロではなく、ルルーシュ・ランペルージといういち学生として扱わなければいけないのか。だが、そうなると私とカレンに問題が出るな。ルルーシュがゼロだと私達は知っているのだから」 「そうだね。そこをどうするか悩むところだね」 「スザクとルルーシュを納得させる理由が必要だ。さて、どうするか」 「まあ、それは二人の元へ行く間に考えよう。ここから歩いて3時間以上かかるから、その間に何か思い浮かぶだろう。太陽が真上に近いから今は昼時だろう?今から私達の拠点へ行き、二人に合わせよう」 明るい内にたどり着けるだろう。 「そうなると日帰りは無理だな。食料も手に入れながら向かうしか無いか」 今を12時と仮定するなら3時間で15時。 戻るのに6時間掛かるから、日帰りは不可能だ。 「食料に関しては問題はないと思うが、気になる物があれば集めてくれると助かるかな。そうだ、皆お腹は空いていないかい?ルルーシュが今日は多めにお昼を用意してくれたから持ってきているんだ。この人数ではお腹は満たせないだろうが、足しにはなるだろう?」 これがあのクロヴィスなのだろうか。 自分の食事を皆で食べようなんて。 C.C.達はクロヴィスが何やら竹で編んだらしいカバンから取り出した、竹の葉で包まれた物を目にし、思わず皆顔を見合わせ目を瞬かせた。 |