いのちのせんたく 第45話

何枚もの笹の葉を使い作られた包を開くと、大きめのサンドイッチが5切れ入っていた。笹を使っているのは抗菌作用もあるからだという。

「今日はお腹が空いて仕方が無いから、沢山作って欲しいと頼んだら、サンドイッチを沢山作ってくれたんだよ」

丁度人数分だと、クロヴィスは1切れずつ渡し、食べてみてくれと満面の笑みで言った。だが、4人はじっと手にしたサンドイッチを見るだけで、口に運ぼうとしない。
当然だ。
彼らは久々に見たパンに不信感を抱いているのだ。
この生活でこんな物作れるはずがない、ほんとうに食べて大丈夫なのかと。
なにせ持ってきたのは死者のクロヴィス。
見た目がパンに見えるだけで別の素材かもしれないと、ラクシャータはしきりに匂いを嗅いで素材を確かめようとしていた。
その様子に苦笑し、まずは自分が食べなければいけないだろうと、クロヴィスはこの生活を始めてから必ず口にするようになった「頂きます」という言葉を口にした後早速自分の分に齧り付いた。
皇族、しかも皇位継承権第3位の皇子がサンドイッチに齧り付くなんて。 「手づかみでなど食べられるか!皿とナイフとフォークを用意しろ!」と無理を言うコーネリアとは大違いだと、女性たちは思わずぽかんと口を開けて見てしまった。
美味しそうに食べるその様子を呆然と見ていた四人は、自分の手元のサンドイッチに再び視線を向けると、誘惑に負けたのか同じように齧り付いた。

「っ!美味しい!!って、これ見た目通りパンじゃない!」

味が胡桃とかそっち系の感じだけど、間違いなくパンよ!
一口食べたカレンは驚き目を見開きながらそう口にした。

「本当ね。どうやってこんなふわふわなパンを・・・」
「・・・旨い」

こんなに美味しい物を口にしたのはいつ以来だろうか。
サンドイッチの中には野菜とウサギ肉が挟められており、1つだけでもかなりお腹は満たされた。
ウサギ肉は大きめだったが柔らかく、濃い目の味の照り焼きにされていて、醤油や酒、砂糖はどこから手に入れたのだと、C.C.は眉を寄せた。
この環境でこの味。
まさに奇跡だ。

「やはりあの男がいるかいないかでここでの生活は変わるな。これはルルーシュが作ったんだろう?」
「流石魔女殿。ルルーシュは昔から賢い子ではあったが、本当にすごい子だとこの生活で実感したよ。確かに屋外で使用人が一人もいないサバイバル生活というものは大変ではあるが、それでもこれだけのものが作れるだけの環境をあの子は整えてくれた。明日からは陶器を焼けるように準備もしてくれた」
「陶器って、あの、食器とかの陶器!?」

カレンが驚きクロヴィスを見るので、勿論だよと笑顔で頷いた。

「先日焼き窯を作ってね。このパンも石釜で焼いたものだよ」
「・・・生活水準が違いすぎるな」

たった3人だというのに。
その倍以上の人間が揃っていながら日々の生活に苦労している自分たちとの違いに驚くことしか出来なかった。
ぺろりとサンドイッチを平らげたC.C.は立ち上がった。

「ほら、さっさと食べ終えろ。そしてルルーシュのもとに行くぞ。こんな量では足りない。どうせアイツの事だ、私達が突然現れても全員が十分腹を満たせる料理を用意してくれるに違いない。腹いっぱい食べて、ゆっくりと眠りたいんだ私は」

あいつらのせいで本当に疲れているんだ。
よく見ればC.C.の顔には疲れがにじみ出ており、残りの3人も以前より確実にやつれていた。服が1サイズ大きく見えるのは、それだけ彼らが痩せたということなのだろう。
ルルーシュはここに来た当初から体と心に問題を抱えていたが、彼らは確実に体に問題が出始めていると、クロヴィスは判断した。
彼らはルルーシュの支えとしてどうしても欲しい人材だ。
スザクのことを考えればセシルもだが、彼らの健康を損ね病気になどなられたら困る。
早くに此方に呼び寄せ、体調を整えてもらわなければ。

「では早く行くとしよう。食事を食べ、温泉に入り、今日はゆっくり休むといい」
「「「温泉!?」」」

クロヴィスの言葉に、女性3人はものの見事にハモった。

「温泉まであるのか!?」
「なにそれ!ずるい!」
「それは・・・ゆっくり入らないとね」

お風呂は命の洗濯って言うものね。

「温泉か。いつも川の水だったからな・・・」

食事と風呂。
その言葉だけで4人は先程の落ち込んだ空気から一点、表情が驚くほど明るくなった。
日本人は温泉が好きだとスザクが言っていたが、なるほど、ここまでなのか。

「川の一部に温泉が湧いていてね。ルルーシュとスザクが入浴できるよう整えたのだよ。だが、全員のエリアに温泉は湧いているのだと思っていたのだが・・・」

洞窟が全ての場所にあるように、川と竹林も傍にあるように、生活に必要と思われるものだけは同じものが用意されているのだと思っていた。

「川の中だと・・・?川の水と混ざって見つけられないだけであるのかもしれないな・・・」
「よく見つけたわねそんなの」
「スザクが見つけたらしい。この島に来てすぐだと言っていたよ」
「羨ましい。羨ましいぞ!早く行こう!!」

C.C.の心からの叫びに、3人は頷き、クロヴィスは苦笑した。



醤油は魚醤、酒はワイン、砂糖は果実を煮込んだもの。
魚醤は本来発酵に数ヶ月という時間がかかるけど、此処では即完成します。
雨の降った日に取れた大量の魚の内臓、頭、骨と小魚で作成。
当然ルルーシュは有り得ない早さで完成した事に悩んでます。

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