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用意していたロープを使い、切断した木材を纏めてから担ぎ上げた。 「お前、よくそんな量持てるな・・・」 「え?ああ、重さ的にはもう少し持てるんだけど、この状態だとこの量が限界かな」 纏めて抱えられるだけの木材はこのぐらいが限界だよ。 そう言いながら担ぎ上げた量はかなりの物で、ルルーシュはこの体力馬鹿の体力の限界は一体どの程度なんだと思わず額に手を当てた。 今が戦争のない平和な時代であるならば、昔のようにオリンピックが開催されてスザクは金メダルを総なめにしていたんじゃないだろうか? ふとそんなことを考えて、いや、今からでもまだ間に合うはずだ!と、今後の黒の騎士団の行動シミュレートを開始する。 こんな場所にいる限り、いくら黒の騎士団と超合集国の今後の行動予定を立てても意味は無いと解っている。 だが思考の一部は次々と今後の予定を作り上げていった。 血なまぐさい戦場よりも、人々の喝采を浴びる華々しい場所のほうがスザクには似合っている。 寧ろそこが本来のスザクの居場所。 少しでも早く戦争のない平和な世界を作り上げ、軍隊など無意味なものとし、スザクのこの化け物並みの運動能力を・・・。 「ルルーシュ大丈夫?目眩でもした?頭痛いとか?あれ?でも君痛覚無いから頭痛はないんだよね?それとも痛覚戻った!?」 「いや、頭痛ではないから大丈夫だ。それより早く戻ろう。思ったより時間がかかってしまった」 思わず思考に囚われてしまったことで、スザクに勘違いをさせてしまったため、ルルーシュは慌てて否定し、話を逸らした。 既に昼を回っていて、念のため用意したサンドイッチで昼食は済ませたが、クロヴィス一人を拠点に残していることをルルーシュは気にしていた。 この島には今のところ危険な動物は居ないのだが、何かあったらクロヴィス一人では対処できないと考えているようだった。 今までさんざん単独行動をし、森の中も歩き回っているから今更だとスザクは思うのだが、もしかしたらナナリーに対して過保護だった彼は、兄のクロヴィスに対しても過保護になりつつあるのかもしれない。 ルルーシュらしい思考ではあるのだが・・・。 「じゃあ、ルルーシュ、そのバッグも貸して。僕が持つから」 一番問題があるのが自分だと、いい加減気づいて欲しいところだ。 「このぐらい持てる」 「それは解ってるけど・・・」 「解ってるなら持つとか言うな。ほら、行くぞ」 若干機嫌を損ねたらしいルルーシュは眉を寄せ、不愉快そうにそう言うと、スザクの前に立って歩き出した。 出来れば安全のため自分の後ろを歩いて欲しいが、これ以上言えば機嫌を損ね色々面倒になる。 まあ、元々整備していた道を、今日は更に完璧に整えたのだから転ばない限り怪我をする要素はないからいいか。 ・・・ただ、ルルーシュは何も無いところでよく転びそうになるから怖いけど。 20分ほど歩いて拠点に戻ると、そこにクロヴィスの姿は見当たらなかった。 「兄さん?」 とりあえず川原にある釜戸の傍にスザクは持ってきた木材を下ろしてから、辺りを見回したがたしかに見当たらない。 そして、手近な木に登り高いところからも見てみたがやはり姿は見えなかった。 「居ないね。粘土でも探しに行ったのかな?」 木から飛び降りそう言うと、ルルーシュは心配だと言いたげに柳眉を寄せた。 ルルーシュの病を考えるなら、彼に不安を抱えさせ無い方がいい。 「昼食は取ったようだな。サンドイッチはなくなっている・・・」 「ルルーシュ。殿下は僕が探してくるよ」 「ああ。済まないが頼む、スザク」 「そんなに心配しないで。すぐ見つかるから。君も危ない事はしちゃ駄目だよ?」 「危ないことなどしないさ。この茸の処理をして、美味しいきのこ鍋を作ってやるよ」 「やった。楽しみだなー。具沢山の鍋にしてね!」 「はいはい、解ってるよ」 先ほどの不機嫌さと不安は消えたらしく、ふわりと優しい笑みを浮かべたので、スザクもにっこり笑ってから木材を抱え直し、岩場へ向かった。 それから、スザクはクロヴィスがよく言っている岩壁や海を見て回ったのだが、どこにもその姿が見つからなかった。 ルルーシュの精神を不安定にするような事をクロヴィスがするとは思えない。 ならばやはり何かあったのか? スザクは、普段向かわない所を調べてみようと、林の中へ足を踏み入れた。 クロヴィスの後についてC.C.達はひたすら歩いていた。 皇族の温室育ちのクロヴィスは、見ていて危なっかしく、よく一人でここまで歩いてこれたものだと皆呆れたような関心したような表情で見つめていた。 大きな蜘蛛や、巨大な蛾を見て悲鳴を上げ、地を這う蛇を見て驚き飛び上がる。 見るに見かねた藤堂がクロヴィスに指示だけさせ、先頭を歩く形となった。 「お前、本当に今まで此処で生活していたのか?蛇で逃げるとか、よく今まで無事だったな」 その蛇をしっかり確保し、リュックに入れたC.C.は呆れたように言った。 「いや、蛇やカエルの類は何時もスザクが捕まえてリュックに入れて持ってくるのだが、やはり捕獲したものを見るのと、自然の中で突然出会うのとでは違うじゃないか」 クロヴィスは女性に情けないと思われたのが辛かったのか、そう口にした。 「まあ、皇子様が平然と蛇を捕まえる姿は想像できないか。でも、道は大丈夫なんだろうな?」 道らしい道のない森のなかを歩いているため、C.C.は心配になり尋ねたが、それは大丈夫だと自信満々にクロヴィスは胸を張った。 「私達が住んでいる場所はこちらの方角だからね。それだけ注意して歩けば問題はないよ」 「なんだと?まさか適当に歩いているのか!?」 C.C.の言葉に、藤堂は足を止めた。 「方角に間違いはないよ」 「方角だけでどうにかなると思っているのか?」 「大丈夫だよ、あと10分も歩けば、私達が普段使っている場所が見えてくるだろう」 間もなく歩き出して3時間。 日はまだ落ちては居ないが、今から引き返すのは難しい。 ルルーシュ達の場所も海に近いという話だから、最悪海に出て、そこから探すしか無いなと、藤堂は大きく息を吐いた。 視界を遮る木々を避けながら歩き続けていると、突然藤堂は歩みを止めた。 「・・・これは・・・」 何時にない藤堂の戸惑い驚いたような声音に、顔を見合わせた。 「どうした?何かあったのか?」 「なになに?何があったのよ」 C.C.カレンが先を調べようとクロヴィスを追い越し、藤堂の元へ急いだ。 そして二人もまた足を止めた。 「・・・ほう」 「なにこれ!?」 C.C.は一瞬驚いた後、ニヤリと笑い、カレンは驚きの声を上げた。 「此処に出たのか。私達の居住区はもう少し先だよ。ここからは私が先頭になろう」 見慣れた場所に出たことで元気を取り戻したクロヴィスが藤堂を追い越し歩き出した。 「ちょ、ちょっとまって!?これって!?」 カレンが驚きの声を上げクロヴィスを止めた。 遅れてラクシャータもその場所を見、一瞬目を見開いた後口元に笑みを浮かべた。 「あらぁ、やるわね」 皆が驚きの声を上げた視線の先にあったのは、3メートルほどの高さに設置された、竹を組んだ棚に弦を巻き、芳醇な葡萄がたわわに実っている姿だった。 思わずカレンは手を伸ばし、葡萄を一房摘み取る。 瑞々しい葡萄はずっしりと重く、一粒食べると強めの酸味が口の中一杯に広がった。 酸っぱいというのがその表情から解り、カレンの手にした葡萄を摘もうとしたC.C.は手を引き、ラクシャータは酸っぱいそれを美味しそうに口にした。 「ここは葡萄が群生していてね。すぐそこにはヘチマもあるよ」 クロヴィスが指さした方には、ヘチマが竹で作った壁に弦を張り、こちらも大きな実をつけていた。 人の手が入り、管理された場所。 それだけで今までのこの不可思議な島での不安が和らぎ、知らず安堵していた。 視界が拓けているだけではなく、収穫もし易いよう考えられていて、見ると竹で編んだのだろう箱が中央付近にあり、中を覗くと、竹で編まれた籠や筒がしまわれていた。 恐らく作業道具なのだろう。 大きな岩を除け、穴も埋められ綺麗に整備されたその場所は、まさに人の手で管理された農園だった。 「あちら側には、何があるの?」 クロヴィスが向かおうとしていたのとは違う方向にラクシャータは指をさした。 明らかに人の手が入った道がそちらに伸びていたのだ。 「あちらは芋や大根の群生地がある」 「そっちも手入れしているの?」 「よく使う場所は全部手を入れているよ」 何を驚いているんだい? クロヴィスは皆の反応に驚いたように首を傾げた。 たしかに綺麗にしてはいるが大げさじゃないかと口にする。 クロヴィスにとってこの状況が、人の手が入り整備された環境が普通だったため、皆が驚く理由が全くわからないのだ。 「私達とは全然違うわね」 カレンのその言葉に全員が頷いた。 その反応で、クロヴィスは苦笑した。 クロヴィスはルルーシュ達の元へ現れるまで、彼女たちの生活も感じていたのだから、その生活が今も続いていることを察するのは容易なことだった。 「君達の所は、今私達が歩いた林の中のような情況のままなのかな」 その言葉に、全員が頷く。 「やはりルルーシュがいるかどうかでは変わるな」 C.C.は腕を組みながら断言した。 「そうだね、あの子がいるかどうかで随分と変わるようだね」 率先し、居住区の整備をしている異母弟の姿を思い出し、クロヴィスはC.C.の言葉を認めるようにそう言った。 |