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ギアスを手に入れた者の大半は、心を病み自滅する。 マオの奇行を知るスザクは、みるみる顔色を無くした。 ルルーシュの異常はギアスによる障害、あるいは戦闘中に脳に何らかのダメージがと予想は立てていたが、こうして明確な回答を得たことで、ルルーシュがマオのようになるという未来が嫌になるぐらいはっきりと描けてしまったのだ。 「ルルーシュも・・・狂うと言う事なのか?」 スザクは警戒を崩すこと無くC.C.に訪ねた。 「今のままでは、狂う前に心と身体に限界が来て死ぬだろう」 C.C.はすっと目を細め、感情のこもらない声音で答えた。 「・・・君は、君が原因でルルーシュが壊れたのに、どうしてそう冷静でいられるんだ!?」 まるで他人事のように語るC.C.に苛立ちばかりが募る。 全ての元凶、ギアスの根源。 ルルーシュを壊した者。 「勘違いをするな。ルルーシュが今壊れている原因はあいつが持つギアスのせいではない。ルルーシュのギアスは確かに心を蝕み始めるレベルに達していたが、あいつは力に飲まれること無く自分を保ち続けていた。あれが壊れたのはシャルルのギアスと、腹違いの妹と、枢木スザク、お前が原因だ」 C.C.の言葉にスザクはますます眉間の皺を深くした。 腹違いの妹。 それはユーフェミアのことだろう。 「彼女と、僕のせいだと?」 「そうだ。お前が知っているかは解らないが・・・”生きながらに死んでいる”という呪いの言葉がルルーシュの心の奥底に癒えることの無い深い傷を作っていた。そのため、幼い頃からルルーシュは生きるための明確な理由を必要としていた。アイツが生きる最大の理由は妹ナナリー。体の不自由な妹を守れるのは自分だけだという思いがあった。お前も見ていただろう?あいつの溺愛っぷりを。どれだけアイツが妹に執着し、依存していたか気付かなかったか?」 その言葉に、スザクだけではない、ルルーシュという人間を知るものは、妹に溢れんばかりの愛情を注ぎ込む姿を見ていた。 妹がいなければ生きられない。 その言葉には納得するしか無い。 「身体障害者である妹の世話をすることで、自らの存在価値を見出し生きていたルルーシュからその妹を取り上げ、健常者の偽りの弟を与えた。それだけでもあいつの生きる理由に陰りが生じた」 C.C.はすっと目を細めた。 「あの腹違いの妹との事、そして親友であったお前が、自らの地位を得るためにルルーシュを売ったこと、それらは例え憶えていなくても、あいつの心に深い傷を残した。それらの傷と、あいつ自身が感じている記憶に対する違和感と、生きる理由を失った喪失感が、あいつ自身の心を不安定にさせている。その結果、あいつの症状が悪化したんだ」 「悪化?」 「兆候が出始めたのは、お前が藤堂救出作戦の時に破壊されたランスロットのコックピットから姿を見せた時。親友であるお前と殺しあっていた事実があいつの心を揺らした。ルルーシュの変化に気づいた私は細心の注意をはらい、ルルーシュのギアスが安定するよう務めた」 「ギアスを・・・安定?」 「そう。コードの能力は様々だが、私のコードは不安定になったギアスを安定させることができる。まあ、V.V.の逆の力だと言えばわかりやすいか?」 情報の出し惜しみに意味は無いだろうと、C.C.はV.V.の情報をあっさりと口にする。 「V.V.の?」 スザクは眉を寄せながらそう尋ねた。 「V.V.を知らないのか?お前はアイツ好みの駒だから接触していると思ったが・・・まあいい。V.V.は私と同種の存在だ。V.V.はギアスを強制的に成長させる力がある。ルルーシュのようにギアスの使用回数が少ない者のギアスを強制的に暴走させるにはうってつけの力だ」 その言葉に、スザクは息を呑んだ。 スザクはこの地に来た頃、ルルーシュの記憶を見ている。 おそらくはユーフェミアが眠るルルーシュに干渉した結果見たものなのだろう。 そこでルルーシュのギアスはその意思に関係なく発動し、ユーフェミアを狂わせた。 「・・・まさか・・・」 スザクは力なく、ポツリと呟いた。 「ルルーシュの使用量で言うなら、暴走するには速すぎた。そしてあの場所にはV.V.がいて、ブラックリベリオンの時もルルーシュを罠にはめるため、色々と立ちまわっていた。私はあのルルーシュの暴走は意図的に起こされたものだと読んでいる。・・・枢木、これはルルーシュには知らせていない話だが、V.V.はルルーシュの母マリアンヌを殺害し、ナナリーに障害を与えた犯人でもある」 スザクは、信じられないという視線でC.C.を見た。 もしその話が真実ならば、自分はV.V.の手のひらで踊らされていたということになる。確かにルルーシュの力でユーフェミアは殺戮を行った。 だが、あの夢で知った。 ルルーシュは必死にユーフェミアを止めようとしていた。 だが、止めることが出来ず、ギアスという凶悪な力に支配された妹を、ギアスの呪縛から開放するため、自らの手で撃った。 そして、ユーフェミアの死を無駄にしないため、自分の心を押し殺し、彼女を利用した。 そう、C.C.の話が真実であるならば、あの時V.V.が意図的にルルーシュの力を暴走させ、ルルーシュとユーフェミアに殺し合いをさせたということなのだ。 そして、愛する妹を殺害し苦しむルルーシュを見て嘲笑っていた、ということ。 ・・・更にルルーシュを苦しめるため、スザクにあの情報を渡したということ。 「私はあの時行政特区の式典会場で昏倒した。最初はルルーシュの暴走にコードが反応したことによる異常かと思ったが、今思えばあれはV.V.が私の行動を制限させるために仕掛けた攻撃だった。だから、V.V.が手を出した可能性が高い、と言っているだけで、絶対にそうだと断言はできない」 なにせ証拠がないからな。 C.C.は苦笑した。 「何方にせよ、深く傷ついた心が精神を不安定にし、式典後・・・ブラックリベリオンの直前にあいつは心と体に異常が出始めていた。だから私は常にあいつの傍にいて、ギアスを鎮め続けた。今のあいつはナナリーという支えを失った事で、あの頃よりも症状が悪化している。今、暴走状態まで成長したギアスを取り戻させるのは危険過ぎる」 今ギアスを取り戻せば、狂う可能性は高い。 「ルルーシュを守るようなことを言うのなら!どうしてそんな危険な力を渡したんだ!!」 「渡さなければルルーシュが死んでいたからだ」 C.C.が感情を込めず言った言葉に、スザクは思わず息を呑んだ。 「お前、忘れたか?あのシンジュク事変の折り、事故に巻き込まれたルルーシュはテロリストとして殺されるところだった」 シンジュク事変。 その言葉にクロヴィスは辛そうに眉を寄せ、カレンはまさかあの日のシンジュクの話が出てくると思わず、C.C.を見た。 「枢木、お前はルルーシュを殺すよう命じた上官の命令に背き、私達の目の前で撃たれたな?あの直後、テロリストが乗っていたトラックが爆発し、私とルルーシュはその隙に逃げ出した。だが、あの毒ガスと呼ばれたカプセルの中身が、クロヴィスの人体実験の被験体であるこの私だと知ってしまった者を生かしておくわけがない。なにせ最高機密だからな」 「毒ガス・・・あのカプセルにC.C.が!?」 カレンは驚きの声を上げた。 あのカプセルの中身を今の今まで本当に毒ガスだと信じていたのだろう。 「そうだ。あの中には毒ガスではなく、私がいた。そして私とルルーシュは逃げ出した先でシンジュクに住む日本人が虐殺されている現場に居合わせた。・・・私達を追ってきたクロヴィス、お前の親衛隊が行ってた虐殺現場にな。死者であるお前ははその時のことも知ったはずだ」 C.C.が振ったその話に、クロヴィスは辛そうな表情でゆっくりと頷いた。 「私の愚かな部下が、ルルーシュを撃った事は死んだ後に知ったよ」 「ルルーシュを・・・撃った?」 スザクは驚きの表情を浮かべ、そう尋ねた。 「親衛隊はルルーシュを撃った。だが、私が庇ったことでルルーシュは生き延びた。とはいえ、逃げ道を断たれていたから逃げ出すことも出来ず、再び銃口を向けられた。そう、本来であればあの日、ルルーシュは死んでいたんだ」 その事件に携わっていたスザクとカレンは目を見開き言葉を無くした。 「だから私は力を与えた。死ねない理由があるというなら、生きたいと願うのであれば、私と契約をしろと」 だから、ルルーシュにギアスを与えたことに対し文句を言われる筋合いなど無い。 C.C.はすっと目を細め、そう言った。 |